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王の名前を  作者: あまやどり
第六章 血戦! フライングシャークvs宇宙ヒトデ
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三船玲(みふねれい)という女

六章は少し長めの話になります(/・ω・)/

――3日前。


 新洋(しんよう)は激痛によって気絶から覚醒した。


「いてて……」


 身体中が悲鳴を上げている。特に痛みを訴えてくる右足は、折れているかもしれない。隣では群羽(ぐんはね)が伸びていた。


「おいバネ、生きてっか?」


 肩を揺すると、群羽も意識を取り戻す。


「おー、シン。……俺ら、なにしてたんだっけか?」


 半身を起こそうとするが、途中で顔をしかめて諦める。


「脇腹がスッゲー痛え!」


「俺は足だ。救急車呼ぼうぜ」


 新洋が懐からスマートフォンを出すが、壊れてしまったたらしく反応しない。


「チクショー、なんだってんだ」


 スマートフォンを叩きつける。まだ虚脱状態を脱しておらず、前後の記憶が曖昧なままだった。


「いや、ホントに何があったんだっけか?」


「ほら、イスマのヤツを見かけて、たかろうとしたら――」


 前後を思い出してきた。


「あー。んで、靴が目の前に――」


 明晰(めいせき)になるにつれ、顔色が蒼ざめてゆく。


「アイツ……どーするよ? 鹿沼(かぬま)パイセンにチクる?」


 2人に睨みを利かせている暴走族の鹿沼は、数日を(また)がずに行方知れずとなる。


「どう説明すんだ? 俺ら踏み潰されましたってか? あの人おっかねえんだぞ。好き放題ノルマ被せてくっしよ」


 彼らは彼らで、鹿沼から月々「会費」を納めるよう請求されて窮していた。弱小暴走族だが、その分加減を知らず質が悪い。

 前置きなしに新洋の声が途絶えた。


「……どしたよ?」


 群羽(ぐんはね)が振り向こうとして、痛みに顔を歪める。

 新洋がもがいていた。顔の周りだけを、すっぽりと水の塊が覆っている。目を見開き、手で宙を掻きむしっている。

鼻と口を塞がれて呼吸ができないでいた。


「お、おい?」


 引き剥がそうとするが、手は水を突き抜けるばかりである。

 口をパクパクさせていたが、やがてぐらりと傾き、倒れた。顔にへばりついていた水塊が、まるで突然液体であったことを思い出したかのようにばしゃりと地面に落ちる。口から大量の水を吐き出した。


「し、新洋?」


 動かなくなった仲間に恐る恐る声をかける。


「ひゃひゃ、やった。やってやった……!」


 聞き覚えのある声に、痛みも忘れて叫ぶ。


「テメー、ボンジン……!」


 それは、少年が最も憎む言葉だった。


「ぼ、僕は凡人じゃない……ッ!」



* * * * *



 蓮は特に変事に巻き込まれることなく登校を果たした。


「今日こそ、群羽(ぐんはね)新洋(しんよう)に口止めしておかなきゃな」


 だが、ホームルームが始まっても、群羽と新洋の姿はなかった。


「サボりか? 口裏を合わせときたかったんだがな」

 

 空席を眺めて呟く。しかたなく、道尾秀介著「N」を読み始める。


『話を持ち掛けて、羽虫どもが足元を見たらどうするつもりであるか?』


 女子生徒が読んでいる少女マンガを盗み見しつつ、デカラビアが訊ねた。


「そのときは両脚を踏み折ってでも呑ませるさ」


 隣の席の男子が怪訝な目で見て来たので、慌てて口を(つぐ)んだ。


「ここ何日か引きこもってたのに、今日はついてきたんだな」


『うむ。ゲームがひと段落したのでな。達成感で胸がいっぱいなのである。いまならキサマ如きにも優しくしてやれそうである』


 巨大な単眼が微笑んで不気味だった。


「どこからどこまでが胸なんだよ、そのヒトデ体型で。じゃあもうクリアしたのか?」


『もう半歩というところであるな。白熱した戦いの末に“ちゅーとりある”を突破したぞ』


「……序盤どころかゲームに入ってねえ!」


 どうやら、デカラビアはアクションゲームの類は「下手の横好き」であるらしい。




 担任の教師が出席簿を広げ、生徒を一瞥する。そして、


「伝達事項だが。群羽君と新洋君が亡くなったそうだ」


と伝えた。教室がざわつく。


――死んだ?


『キルマーク2つ追加であるか』


 デカラビアが呑気に言う。


「殺してたとしても、心に痛痒(つうよう)を感じる相手じゃないことが救いだね」


 露悪的に言う。が、蓮としては充分に手加減して踏んだつもりだった。


「痛ましいことだ。みんなにも聴き取りがあるかもしれないから、正直に話してくれ」


 蓮と同じく痛痒を感じていないらしい担任は、痛ましいと口では言いつつも清々した表情だった。悩みの種だった生徒が一挙に2人も片付いたからだろう。


――聴き取りがあるってことは不審死だよな。


 果たして自分の行動と関りがあるのか。不安を抱き始めた蓮だった。




「ねーねー、イスマっち。さっき職員室で聞いちゃったんだけどさー」


 ホームルーム終了後、三船玲(みふね・れい)が話しかけてきた。


「あの2人、道のど真ん中で溺死してたワケ」


 声を潜めて――だが、周囲数人に聞こえる程度には大きめの声で――言った。


「溺死? 滝行でもしてたのか?」


 知り合って間もない三船だが、やたらと距離感が近い。


「いんや? 貞雲(ていうん)公園のすぐ近くなワケ」


――俺があいつらを踏んづけたトコじゃないか!


 驚愕したが、顔に出さないように努める。


「警察も頭抱えてるんだってー。ガッコのセンセーたちは、自分たちの責任にならなくて済みそうってホッとしてるみたいだケド」


 好人物ではなかっただけに、死を悼む教師は少数派だった。


「よくそこまで知ってるな」


「タマタマですわよタマタマ。ぐーぜん、図らずも耳に入っちゃったワケ」


 三船は耳聡い。そして、得た情報をばらまいて反応を愉しむ悪癖があった。


「ちなみに、いつの話だ?」


「19日の16時ごろなワケ」


「どうやったらそこまでタマタマ耳に入っちゃうんだよ」


 ダメ元で聞いてみたら何でもスラスラと返ってくるので、感心を通り越して呆れていた。


「センセって、意外と情報管理能力(ひっく)いワケよ」


「いまさらっと自白したな?」


 知りたい情報の方から飛び込んで来てくれたのは幸運だった。


「3日前か。これまで警察は学校に何も言ってなかったのかな?」


「内々には言ってたみたいよ? 生徒の動揺がーとか、犯人に警察の動きを知られないようにーとか言い訳カマして、今まで箝口令(かんこうれい)敷いてたんじゃないかと邪推するワケよ」


 少年や外国人が絡んだ事件では、警察の口は極端に固くなる。


「邪推の割に妙に具体的だな。ウラ取ってるだろ」


 路上で溺死など、世間が混乱するような事件は犯人逮捕とともに報道、が一番望ましい。


「ねーねー、ケーサツやマスコミがインタビューしてきたらどーするワケ? お決まりの“どんな生徒でしたか?”ってヤツー」


 明らかに期待している様子の三船。


「警察の場合は事情聴取だろ。インタビューじゃない。ま、そんときは本当のこと言うよ。“人の嫌がることを進んでやる2人でした”って」


 定型句のようでいて、ダブルミーニングになっていた。


「アッハッハ、それサイコー! アタシもマネしよーっと」


 三船が手を叩いて喜んだ。無論、「人の嫌がること」は美談でなく恫喝や暴力のことである。


 予鈴が鳴ったので、不謹慎な歓談はお開きとなった。

三船玲みふね・れいのアナグラム元は何でしょうか?

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