不道徳な所長と不真面目な助手
快児が事務所に戻ると、従業員がソファに寝転がっていた。高校の制服を着て、明るい色に髪を染めている。
「玲ちゃん。今日出勤日じゃないッスよ?」
三船玲は退屈そうにスマホのネットニュースを見ている。
「タイクツなワケ。いーじゃない、減るモンじゃなし」
ごろんと仰向けになる。
「事務所が目減りしちゃかなわないッスよ」
快児は冷蔵庫からビールを出す。
「遅かったね。今日仕事の予定あるっけ? いっつも閑古鳥とチークダンスを踊っているカイシャなのに」
探るような目つきの玲。
「いやー、なんでパチンコってあんなに面白いのかね」
快児は缶ビールをうまそうに飲んだ。
「うーんパチンカスぅ~」
快児はまっとうでない手段で金を稼いでいるようだが、湯水のごとくギャンブルに消費してしまう。
「絶対勝てる必勝法を5万で買ったんっスけどね」
「がっつり騙されてるワケ」
本気か冗談か、「生産性のあることはしたくない」とよく口にしている。
「まあまあ、明日の新装開店で取り戻せば済む話ッスから」
「は~、シャチョーにはついてけないわ」
転がったまま諸手を上げるが、傍から見れば玲も同類の外れ者でしかない。
「タイクツって、この前彼氏が出来たって言ってたじゃないっスか。“経験豊富でレジャーの達人の僕なら、君を飽きさせない!”とか豪語してた大学生の飯田君」
玲は整った容貌でモテるのだが、長続きしたためしがない。
「整クン? “我誤てり”の言葉を残して他国に身を寄せちゃったワケ」
興味なさそうに言う。玲の中では既に過去の人扱いらしかった。
「なんっスかその三国志っぽい出来事」
長続きしない理由は、玲の性格に拠るところが大きい。
「タイクツしてるんなら、新しい仕事請けてきたんで手伝ってくれないッスか?」
詠から預かった書類をひらひらさせる。
「バイト代アップするッスよ。麗しい車椅子の美女からの依頼なんッスけどね」
「やる!」
がばと起き上がる。
「言っとくッスけど、弱味を握って~とか考えちゃダメッスよ。コワーイお方なんで」
女の心を見透かして釘をさす。
「や、やだなあ。そんなことしないワケ」
三船玲は「好奇心の化け物」を自認していた。
* * * * *
【調査報告書】
ご依頼のあった対象について、全調査が終了したので報告いたします。
氏名 国津希子
年齢 28歳
経歴 補導歴、逮捕歴あり(窃盗など軽犯罪)。最終学歴S
中学校。S商業高校では素行不良で入学後5か月で自
主退学を余儀なくされる。
現在 就業意欲はなく、生活保護の世話になっている。
デパス(精神安定剤)の転売をしているもよう。
別紙記載。
経済 転売で稼いだ金は、パチンコや競馬、酒やタバコに
状態 費やされている。複数の消費者金融への借金もあ
り、総額およそ685万円。
縁故 両親とは絶縁状態。S町の安アパートにて一人暮らし。
【以上を持ちまして、報告を終了します。提出した書類のコピーは破棄いたしました。 みやこの探偵社】
「……なんですか、この現代社会の闇を一身に背負ったような小悪党は」
書類から顔を上げ、蓮が問うた。
生活保護であれば無料で薬を処方してもらえる。デパスを大量に処方させ、ネットで高く転売する者が社会問題になっている。デパスは抗不安効果があるので、高値でも需要がある。
「なに、蓮君が襲撃犯のものと思しき不審な書き込みを追ってくれただろう?」
未来視のできる契約者が相手だと推測したあと、蓮は「ではどうやって詠の情報を集めるか?」と手段に着目した。未来視で視えるのは主に映像であり、時間や場所は運よく映り込まなければ特定できないと言う。
「ああ、あの便所の落書き」
そこで蓮はいくつかのサイトを巡り、詠と思しき人物の所在を訊ねている不審者を発見していた。
「あの足跡をさらに追えないかと考えて、腕の確かな者に依頼してみたのだよ。するとこの成果だ」
――俺をワンクッション挟まず、元からプロに頼めば早かったんでは?
と思いはしたものの、奇書代が稼げた身としては口に出さない。
「探偵に伝手があったんですね」
「うむ。人の秘密を嗅ぎ出すのが得意な男でな。恐喝でケチな悪貨を稼いではギャンブルで浪費する粗悪品だが、調査の腕だけは信用が置ける」
「うっわあ、短所と長所の天秤が釣り合ってない。国津某と似たり寄ったりじゃないか。で、この小悪党どうするんです?」
「それなのだがな。数日は所用が合って身動きが取れん。対処はそれ以降だ」
犯人特定までしておきながら、足踏みするつもりのようだった。
* * * * *
女――国津希子は新たな未来予知をした。
それは、自分が磯蔵詠の胸を刺している映像だった。
「やった……!」
凶器のアイスピックは黒く汚れていた。ヴィヌの魔法の1つ“黒馬病”をたっぷり塗りたくってある証拠である。
犠牲者は10分を待たず彼岸へ引っ越すこととなる。解毒法は無い。
「未来が変わった!」
アイスピックで仕留め切れていなくとも、死毒が詠を死へと盲導する。殺害の決定的瞬間。
「あの女を先に殺せれば、アタシは殺されない!」
あとは予知した通りに場面を拵えてやればいい。
「でもあの女、なんであんな場所に……?」
襲撃していた場所に見当はついたが、なぜそこに磯蔵詠がいたのか想像ができない。
「まさかな……」
苦笑いしつつ、検索を始めた。
「え……」
寄せられた情報に驚く。
「マジか? そんな風には……いや……」
もし事実なら、殺害が格段に楽になる。運転手の邪魔も入らない。
京都快児のアナグラム元は何でしょうか?
みやこのかいじ
⇒じゃかいのこみ⇒社会のゴミ
でした(/・ω・)/




