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王の名前を  作者: あまやどり
第五章 未来予知の末路
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未来予知の代償

「日当ゲットー。いやー、働くって尊いッスねー」


 快児の視界に奇妙な物体が映る。揺り籠だった。双頭竜の飾りが施された、無駄に豪華で悪趣味な揺り籠。中で寝そべるものが1人。いや、1柱。

 赤子の姿をしていても、顔つきは異様に醜い。その赤子が、ケタケタと笑った。


「よう。ゴキゲンッスね、相棒」


 序列62位の堕天使、ウァラク。この赤子の姿をした堕天使は、いつも揺り籠に揺られているだけである。


「相棒のお蔭で、オレッチの人生は泥沼のバラ色だ」


 話しかけると、ウァラクは片目を開けて、


『ヒヒヒ……』


(ましら)のような奇声で(わら)った。この堕天使は、外見通り人語を話せない。時折感情を発露させるだけである。


 ウァラクの契約者である快児が使用できる魔術はたった1つ。


 他人の心を読み取る魔術。


 痴漢をしたこと。年齢を偽っていること。これら他人の弱味を、易々と看破することができる。現代社会において無限に悪用が思いつける性悪な代物である。


「んま、逆ネジには注意しとかんとね」


 ただし、与えられたのはその魔術1つきり。快児には身を守る手段も、反撃する手段もない。まるで赤子のウァラクの姿を投影しているかのように。

 相手の収入に応じて強請る額を調整しているのも、自衛のためだった。


「副業に精が出るな、京都(みやこの)氏」


 快児に車椅子の女性が話しかけてきた。膝の上でとぐろを巻いている蛇は、快児には視えない。


「おんや磯蔵サン、最近お見限りだったッスね」


 詠はロールスロイスから降りた。ボディスを嫌がってか、ウァラクは姿を消してしまう。


「あー、段差多いッスよ。(ソッチ)に行くよ」


「すまんな。(コレ)に乗せるのはお気に入りだけと決めているのでね」


「お、辛辣ぅ~」


 おどけてみせる。


「情実の問題で、京都氏の手腕は評価しているよ。悪く思わないでくれたまえよ」


 辛辣ではあるのだが、カラッとした物言いで不思議と嫌味さは感じない。


「で、この覗き屋(ピーピングトム)に何か用ッスか?」

 

 「副業」を見物されて快児はやや()ねていた。


「無論、本業の方に用があるのだ」


 詠が数枚の紙片を差し出す。粗く目を通すが、ネットの書き込みのようだった。


「この、チェックしている書き込み主の素性を特定してくれたまえ。素人捜査ではこれ以上追えなくてね」


「ほーん。いいっスけど」


 ペラペラとめくる。どうやら、書き込み主は詠の情報を求めているようだった。決して上等と言えない手段と言葉遣いで。


「オレッチもこの手のに疎いんッスよ。詳しいのに協力させることになりますけど、料金嵩みますぜ?」


 嘘ではない。表商売ではできるかぎり嘘は挟まないのがモットーだった。


「構わんよ。ただし、大至急だ」


 鷹揚に頷いた。


「ほいほい。んで、謝礼はいかほど?」


「“証拠固め”の相場は、30~120万円ほどだったかな?」


「日数にもよるッスけど、おおむね」


 相場があってないような界隈である。


「では300万、即金だ」


 ハンドバックから裸の札束を差し出した。


「さすが。手回し良いッスね」


 まるで、すべて視えていたように。


「生まれて初めてスクラッチくじというものを買ってみたら、そこそこ現金を得ることができてね」


 快児は数えもせず、すぐに懐にしまう。


――たしか菱谷のオッサン、セキュリティー会社勤務だったな。上納金減額をエサに協力させるか。


 安く経費を上げる算段を始めていた。



「数えないのかね?」


「時間の無駄ッスから。でも、こんな景気よく払われたら情緒がないなあ。チマチマ5万3万カツアゲしてたオレッチがバカみたいじゃないないッスか」


「それはさすがに言いがかりだねえ」


 苦笑する。


「簡単に大金が稼ぎたいなら、詠の秘密でも探ってみるかね?」


 仕返しとばかりに挑発する。


「ジョーダン。未来予知(プレコグ)の秘密なんて覗くもんじゃない。八百屋で火星が売れますかっての」


 予知は当然未来に関係しており、畢竟(ひっきょう)破滅的なものが多い。


「つれないな。エスコートしてくれないのか」


 狂死の末路を辿る者が多いプレコグの秘密を覗き見ることは、未来の道連れを意味する。


「その役得は“お気に入り”に任せるッスよ。ところで、シャレオツなイタリアンレストランが近くにあるんっスけど、晩飯でも――」


 誘いをかける頃には、詠は車に乗り込んでいた。


「ではご機嫌よう。労働は尊いのだろう? キリキリ働きたまえ」


 運転手はさっさと車を発進させてしまった。置いていかれた快児だが、本気で誘ったわけではない。


「へへ、コワーいオンナ!」



* * * * *



 蓮はことの経緯をイデアに話した。


「ボディスの契約者ですか」


 プリンに舌鼓を打っていたイデアの顔が引き締まる。


「うん。現状ただ1人の契約者の知り合い」


 もらった日当で早速山田風太郎の「人間臨終図鑑」を買ってきた蓮はご機嫌である。


「堕天使の知り合いなら増えたけどな」


 膝の上では黒猫バエルが丸くなっている。あれからバエルは居つき、キャットフードを食べたり昼寝したりして過ごしている。


『命を援けた礼が、一度や二度の食撰で返し切れるはずがあるにゃい』


という言い分により、「恩義の分割払い」をさせられている。デカラビアはバエルとウマが合わないらしく、バエルが来ると奥に引っ込んでしまう。「トイレで弁当を食べる陰キャのようだ」とはさすがに口にしない。


「だからここ! ここに座りなさい!」


 相変わらず、イデアの膝には座ろうとしないが。


――家に来るってことは、イデアに契約の目が全くないわけじゃないんだよな、たぶん。


 ただ、バエルの譲歩はあり得なさそうなことから、イデアが何かに気付かなければ進展はないのだろう。


「ふと思ったんだが。イデアはちょいちょい未来を視てたんだろ? だから、この時代の最低限の知識がある」


 思い付きを口にする。72柱の堕天使を統べていた頃のソロモン王であれば、詠と同じく未来視ができていたはずである。


「はい。政務の息抜きにテレビ感覚で視てましたわね」


「テレビ感覚かよ。そのときにさ、何か今の状況とか、悪霊を打破するような未来は視なかったのか? いついつに襲われる、とかさ」


 詠が危険を回避したように。イデアは目を丸くすると首を大仰に振って見せた。


「自分の未来を? とんでもない!」


 当然とばかりに断言に、蓮は怪訝な顔をする。


「魔術師が未来予知の堕天使と契約する際、必ずしなければならない制約は“自分の未来を予知するな”ですわよ」


 イデアは滔々(とうとう)と語り始めた。蓮にその理屈は分からない。


「え? なんでまた。自分の未来が視られれば大儲けできるじゃないか」


 実際、詠も女もしていたことである。イデアは暫し黙る。

魔術に素養のない蓮に、いかに分かるよう伝えるか心を砕いているらしい。


「自身に絡む事象の中でも、死は特に強い引力を持ちます。制限しなければ、自分の死ばかりを視ることになる」


 蓮が会話についてきていることを確認し、続ける。


「自分が1年と12日後に事故死することを予知しました。絶対に避けられません。あと1年と11日後に事故死することを予知しました……と、延々自分の死を視せられ続けて、正気でいられますか?」


「それはとてもまともじゃいられないな」


 知恵のある動物は、死を忘れることでしか克服できない。


「ですから、わたくしは自分の未来を視たことはありません」


 「生馴れな予知者はほとんどが狂死か自死しています」と不吉な付け足しをする。


「だが、この時代の人間はそんな知識がないから、制約なしで契約する。結果自分の未来を気軽に視ちゃうわけか」


 現代人か制約なしにかわす契約がいかに危険なものか、改めて自覚した。


「それに、自分の未来を覗くことは多大な対価を求められます。その方の足が不自由であることも、視力が著しく弱いことも代償でしょう。他にも各所不自由を抱えているはず」


 いつもゆったりした服を着ているのも、身体を隠すためではないかと思い至った。



――詠さん、いつも平然としてるけど実はかなりヤバいのか?


京都快児みやこの・かいじのアナグラム元は何でしょう?

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