表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の名前を  作者: あまやどり
第三章 アティルト界
12/60

黒猫

 歩いていると、見覚えがある路地に出た。


「ここは……あいつと対決した小路にそっくりだ」


 強盗をしでかした可部気力(かべ・えねる)に蓮が追い付き、戦った場。気力が自滅した場。



 チリン、と鈴の音が響いた。


「はは、ハルファス?」


 泡を食って警戒するが、そこにいたのは1匹の黒猫だった。首輪に付いた鈴が鳴ったのだろう。道の端で、蓮をじっと見つめている。


 にゃーん


 甲高い声で蓮に話しかけるように鳴く。


「こ、こらっ、鳴くな!」


 黙らせようと手を伸ばすと、猫が袖口を噛んで引っ張った。直後、背後から銃声がした。元いた場所に、銃弾が突き刺さる。


「あっぶな!」


見つけたぞ!(ニルエイト!) 小僧(ナァル)!』


 かなり遠くの信号機の上で、狙撃銃を器用に構えるハルファスの姿があった。鳥の望遠視力、拡大視覚は人間のそれを大きく上回る。残した足跡、服の繊維などの痕跡から居場所を洗い出すことなど造作もない。一方の蓮は、羽音で察知できると油断していた。

 この距離は逃げるにも都合が悪かった。信号機から飛び降り、翼を広げて滑空してくる。豆粒ほどでしかなかった姿がぐんぐんと大きくなってゆく。


「鳩のくせに鷹の目(ホークアイ)って身分詐称じゃないか?」


 名称にケチをつける。


決闘(クラヴ)ダ! 小僧!』


 ハルファスが弩弓(バリスタ)を組み上げ、距離を詰めつつ撃ちこんでくる。突撃しながらの斉射は、古代で定法の1つだった。命中率が高い。


突撃!(バーデレゴ)


 矢は柱を盾にやりすごした。間髪入れぬ突撃だが、速度が乗っている分、直線的で読み易い。設置型の魔方陣であるロケルには有難いシチュエーションである。


「敵対者ロケル!」


 ハルファスが魔方陣を通過し、身体が縮んでゆく。デカラビアの魔術はハルファスにも通用することに安堵した。堕天使は手の平よりも小さくなる。


「鳥って骨が(もろ)いんだろ。鳩サブレーみたいに平たくしてやる!」


 ガードレールに使われていた突撃銃を手にする。銃床を叩きつけた。

 が、その銃がすっぱりと断ち割られる。ハルファスはいつの間にか、湾曲刀を(くわ)えていた。


 無言で――口が塞がっているから喋ることができないのだが――湾曲刀を振り回す。バットのように振り回していた銃は次々に輪切りにされ、ついには握っていた銃口部分しか残らなかった。


「くそっ、小さくなってもバケモノはバケモノか!」


 悪態を吐き、銃ではなくなった棒切れを放り捨てる。一方、身体を縮められたハルファスの方も間合いに不自由を感じていた。数歩で剣の射程から逃げ出す蓮を追おうと、再び翼を広げる。

 そこを蓮がガトリングガンを拾い上げて乱射した。翼を狙って連射する。体重も10分の1になっているところを狙われて、さしものハルファスも体勢を崩した。旋回に失敗し、民家に突っ込む。


「どこにでも火器が転がってる無法な世界だが、助けられてるな。だがあいつを無手で倒すのは無理筋だ。この世界の核を破壊する方が、まだ望みがある」


 数度の接敵で、蓮はハルファス打倒に見切りをつけた。

民家に避難しつつスマホで詠と連絡を取ろうとしたが、繋がらない。


――支援も期待できない、と。家やビルの中まで作ってあるとしたら、“核”なんて見つけられっこないぞ。


 闇雲に歩きだす。闇雲にでも歩きださねば、手がかりを得られそうになかった。




 駅前の道は途切れており、駅まで続いてはいなかった。いきなり郊外の民家が並んでいる。


「ツギハギみたいな風景だ。しかし、このけったいな地図の、どこに核があるか見当もつけられない」


――このまま狂人の心象の中で彷徨(さまよ)い続けるのか? あの怪物に見つかって殺されるまで。


 悲観的な想像をして背筋が寒くなる。


――チリン。


 再び鈴の音。数丁先の辻で、黒猫がこちらを覗いていた。


 にゃあっ


「お、ここにいたのか」


 近寄って行って、抱き上げる。猫は嫌がらなかった。


――さっきは俺を助けようとしたのか?


 黒猫はするりと蓮の手から逃れると、右手の一軒家に入って行った。観察してみると、その家だけ妙に造りが細かい。他の家は粗雑な箇所が多いのに対し、壁の汚れや傷まである。


「つまり、気力(えねる)の記憶に強く残ってるから再現度が高いわけで……つまり、この家は」




 家屋の屋根という屋根に、びっしりとと数十台のカタパルト(投石機)と大砲が組み上げられていた。攻城戦を得意とするハルファスのお気に入りの兵器である。



『トトゥカン!』


 瓦や砲弾が放たれる。狙いは蓮ではない。



「うわっ、わっ!」


 発射された砲弾に逃げ惑う蓮。砲弾は蓮を狙っていない。業を煮やしたハルファスが、一帯を更地にしようとしている。さながら凶器の雷雨であった。


『良イゾ! ヤハリ攻城兵器ガ風ヲ切リ、モノヲ破壊スル音ハ最高ダ!』


 堕天使は屋根の上で破壊の音に陶然としている。


「やっぱアンタ、契約者(気力)と似てるトコあるわ。ネジのハズレ具合とか」


 蓮は民家に駆け込んだ。あの黒猫が入っていった住宅に。


――あの猫、何かあるんだ。



 中小サイズの一軒家に、猫の額ほどの裏庭があった。そこに2体の拳銃人形がある。1体は立って銃を構えており、もう1体は倒れている。頭部からガンオイルが流れ出ていた。


「期待通り、気力の家だったか。で、どう見ても殺害現場だな、これ」


 塀や隣家が投石と砲弾の雨で破壊されてゆく。狭い裏庭が幸いし、ハルファスにまだ見つかっていないが時間の問題である。


 だが蓮は動かず、じっくりと観察を始める。


 貴金属店の死骸模型と異なり、2体の人形にははっきりと顔が刻まれていた。立って銃を構えているのは、鬼の形相をした気力(えねる)だった。

 対して、苦悶の表情で倒れているのは中年女性に見える。

心なしか目元が気力に似ている。


「おそらく、母親か。で、この情景は……」


 女性の近くには、箱とぶちまけられた銃器。


――新聞に気力のことが書かれてたな。郊外に母親と同居。野良猫や野鳥を撃って、しばしば近所と諍いを起こしていた、とか。


「で、同居しているはずの母親とは連絡が取れていない……と」


 すぐに推論が組みあがる。


「ご近所トラブルか、働いてないからか。とにかく母親が怒った。大方、あいつの銃コレクションを捨てようとでもしたんだろう」


 親は子どもに関する問題を、極端な手段で解決しようとする傾向にある。


「で、ブチ切れた気力に撃たれた、と。現実には死体は見つかってないから、庭か床下にでも埋まってるんだろうな」


 黒猫が気力人形の足にしがみつき、登ろうとしている。


「何やってんだ危ない」


 猫を抱えると、何か光る物が視界に入った。デカラビアの魔眼は堕天使の姿など、隠された魔力を探り出す。


 光って見えていたのは、気力の人形が握っているデザートカラーのハンドガンだった。


次回は少々短めです(/・ω・)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ