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王の名前を  作者: あまやどり
第一章 居須磨蓮(いすま・れん)
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「堕天使がオカルトに頼ってるんじゃねーよ!」

仕事の合間に書いてみました。趣味全開です。

1週間に2回ぐらいの速度で更新するつもりです。

「なあ居須磨(いすま)君、だっけ。ちょっといいか?」


 居須磨蓮(いすま・れん)は下校中、クラスメイトに呼び止められた。読んでいた小栗虫太郎の「黒死舘殺人事件」から目を離し、相手を見る。


――たしか群羽(ぐんはね)新洋(しんよう)だっけか。


 分類上はクラスメイトだが、2年に上がったばかりでは他人の類義語でしかない。ただ、まだ顔と名前が一致していない級友が多い中で、この2人は悪い意味で記憶に残っていた。


「ちっとゲーセンにでも寄って遊ばね?」

 

 目をつけた生徒と表面上は仲良くなり、その実、提出物をやらせたり遊び代をたかる。いじめるのではなく利用する。


――たしか三学期末に「奴隷くん」が騒いで、接近禁止を言い渡されたんだったか。目下代わりを募集中ってわけだ。


 2人は利用する生徒を陰で“奴隷くん”と称していた。体面上は親しく、「こいつはいじられ役だから」とカモフラージュするあたり、姑息で抜け目がない。


「読みたい本が溜まってるから」


 本来慎重な性格である蓮がこうまで素っ気ない態度をとってしまった原因は、クラスに15人いる男子の中で、自分が“カモ認定”されたことにある。


「へー。オレらと付き合うのがバカバカしいってか?」


 群羽の眼が細まり、声が一音階下がる。すかさず新洋が割って入った。


「まあまあ落ち着けよ群羽。なあ、コイツ誤解してるみたいだよ? 仲直りにマックでも行こうや、イスマくん」


 こうやって脅しすかし、硬軟織り交ぜたやりとりで顔色を窺うだけの奴隷に仕立て上げる。手馴れたもんだ、と密かに感心した。

 学校か警察への通報をちらつかせて追い払うことも考えたが、生憎スマートフォンは手元になかった。


――半端な対応して恨まれるのも面倒だ。肚をくくるか。幸い、ここいらに人はいないしな。


「前の“奴隷くん”、出宇多(いでうだ)、だっけ? そいつの交代要員なら、他を当たってくれ」


 2人を放置して立ち去ろうとする。図星を突かれ、級友の仮面が剥がれた。


「言いやがったなコイツ!」

「今のは許さねえぞ!」


 追いすがって、蓮の胸倉を掴もうとする。


「この虫けら野郎が!」


 叫んだのは、血の気の多い群羽の方だった。


「本性が出たか」


 胸元を掴まれる寸前、蓮が小さく呟いた。


「――敵対者ロケル」


 群羽の伸ばした腕が空を切る。蓮の姿が消えた。


「……は?」


 いつの間にやら、景色が一変していた。目線が随分と低くなっている。傍には身長と同じぐらいの巨石。高層ビルのような立て看板。

 目の前の、自分と同程度に大きな黒い物体が靴だと気付く。


「ど、どこだよココ?」


 隣で新洋も動揺しきっていた。自分たちが小さくなったことを理解する前に、靴が持ち上がった。

 首が痛くなるほど見上げた上空に、蓮の顔が見える。


「虫けらねえ。虫けらの一番多い死因って知ってるかい?」


 声が降りかかってくる。逃げる間もなく、靴底が迫ってきた。


「踏み潰されることだよ」


 2人まとめて踏みつけた。




『ふむ、存外つまらん見世物であったな』


 一部始終を見物していた異形のものが言う。その姿は星、或いはヒトデに類似している。中央には大きな単眼が備わっていた。


「うるさいなデカラビア。タダ見しといて文句言うな」


 読書に戻った蓮は、振り向きもせずに言う。1.5メートルほどの怪生物をデカラビアと呼んだ。化け物は、宙を漂いながら蓮についてくる。


『余にとっては、クリアしたゲームのレベル上げの方が有意義な時間であったぞ』


 デカラビアは管足を器用に使って、スマートフォンでゲームをプレイしていた。


「よく分からないけど、つまらなかったことだけは伝わった。いい加減に返せよ、スマホ」


 先立って通報をほのめかすことができなかったのは、デカラビアにスマホを占有されてしまっていたからである。


『御免被る。キサマには勿体(もったい)ない英知の結晶であるからして』


 この異形の堕天使は、ゲームに(いた)く執心していた。暇さえあればスマホやゲームを突いている。


「この()天使が」



 遡ること20日前、この謎生物は唐突に蓮の前に姿を現した。『契約しなければこの街を焼き払うのである』などと、(てら)いも前置きもなく、実にストレートに脅されて契約する羽目になったのであるが。


大噓(ハッタリ)だって分かってりゃ、契約なんてしなかったのに。詐欺罪だ。10年以下の懲役だ」


 自分の短慮を恨めしく思う蓮だった。


『無知は罪であるな。余ら堕天使は、現世への介入を禁じられておるのだぞ。街はおろか、紙切れ1枚焼き払えるものか。知らなんだ貴様が悪い』


「俺の人生に介入するのはいいのかよ?」


 本で(はた)こうとするが、すり抜けてしまう。異形は実体ではなく、また契約者以外にその姿は見えない。デカラビア(いわ)く、『存在する位相がズレている』という、蓮には不可解な説明だった。


「たしか、召喚者に嘘つくのってダメなんじゃないのか?」


 聞きかじった知識で抵抗を試みる。


『“三角形の魔方陣ソロモントライアングル”の中に閉じ込めておらねば、堕天使や悪魔は嘘をつくに決まっておるだろう』


 当然のように語られても、蓮にオカルトの知識はなかった。


「決まっておろう、って言われても、それ多分現代人の標準装備じゃないぞ」


 いずれにせよ、契約をしてしまった今となっては無益な後悔に過ぎない。


『奇態な本ばかり読んでおるくせに、役に立つ知識は蓄えておらんのか』


 蓮は読書マニアならぬ、奇書マニアだった。


「現実に生かせないのが奇書の良い所じゃないか」


 「黒死館殺人事件」を振り上げて強く主張する。


『見事に偏っておるな』


 デカラビアは暇を持て余してよく人間界を覗いていたらしく、世俗に詳しかった。


「堕天使に“偏ってる”認定されるのはちょいと傷つくなあ」


 渋い顔をする。


『契約も悪いことばかりではあるまい。現に、余の貸し与えた魔術は役立ったであろうが』


 恩に着せるように言われる。


「まー、さっきはな」


 不承不承認める。堕天使は契約者に魔術を貸し与える。それは世の法則を無視しており、およそ現代の科学では代替不可能な代物だった。


 先程はデカラビアから貸与された魔術“敵対者ロケル”によって群羽と新洋の身体を10分の1のサイズに縮めて、踏み潰した。


『今さらであるがあの羽虫2匹』


どうやら2人が(やかま)しかったので、羽虫呼びになったらしい。或いは群羽の名字から連想したのか。いずれにしても、この怪物にとって対象の名前や経歴を読み取ることなど造作もない。


「ん?」


『息の根を止めておかなくて良かったのであるか?』


 物騒なことを言い出す。蓮は加減して2人を踏みつけた。道端に放置してきたが、まだ失神していることだろう。全身打撲、或いは骨折ぐらいはしているだろうが、命に別状はないはずだった。


「死体が見つかったら殺人事件だ。人類は2000年前から同族殺しと異教徒に厳しいんだよ」


 縮小した身体は数秒で元に戻るので、死体の隠匿に使えない。


「それにあの場で殺してたら、目撃やそこいらの店舗の防犯カメラから疑われる」


 殺すほどの殺意が持てなかったことも事実である。


『だが羽虫は群れたがるもの』


 それこそ群羽の名が顕す通り。


『そして愚か者の口は羽よりも軽いのが相場である。生き延びた羽虫どもがのべつまくなしに吹聴すれば、後々不都合が生じるのではないか?』


「む……一瞬のことだし、何が起きたかなんて理解できてないと思うけどな」


 理解できてないからこそ、憶測が混入される恐れがある。だんだん蓮も不安になってきた。


「口止めぐらいはしとくべきだったか」


 後悔を漏らした。デカラビアの方はといえば、契約者の悩みなどどこ吹く風である。


『よしよし、乱数は整ったであるな。では参ろうか』


 巨眼を更に見開いて画面を凝視している。デカラビアはアナログゲームが好みであるが、ここ最近ソーシャルゲームもプレイしていたことを思い出す。


「堕天使が乱数とか言い出すのか。まーたガチャ回して。てかよくジェムが続くな。昨日も一昨日もずいぶん回して……」


 そこで嫌な可能性に行き着いて、言葉が途切れた。デカラビアからスマホをひったくる。


「――おい。この“有償石30000”ってのはどっから湧いてきた?」


 有償石は、現実に金銭を支払って手に入れることしかできない。その分ゲーム内で優遇される措置が多数あるが、割高に設定されていた。


「あれだけ課金はするなって言っただろーが!」


 高校生の蓮に3万円は痛い出費だった。デカラビアの魔眼にかかれば、個人情報など丸裸に等しい。そして、スマホでの課金はクリック1つでできてしまう。


『案ずるな。最初の10連(3000円)で当ててやる。マスコットキャラが背を向けた瞬間に引けば当たるとネットの有志が教えてくれたのだ』


「堕天使がオカルトに頼ってるんじゃねーよ!」


 蓮がやや破綻した叫びをあげたとき、スマホが着信を告げた。

群羽ぐんはね新洋しんようは2人の名字で1つのアナグラムです。

「ぐんはねしんよう」のアナグラム元は万でしょうか?

 解答は2話の後書きで。

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