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歯術師〜はじゅつし〜  作者: 白井刃人(しろい・はと)
第2章 学院の異端と風
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第1話 学院の門をくぐるとき

 王都の西に広がる緩やかな丘を越えた先、白い尖塔が天を突くように建っていた。

 魔術学院——王立アウストラ魔導学府。

 その門の前に、レオ=アーデルは立っていた。

 革の鞄を背に、制服ではない地味な旅装。村人の寄付で用意された粗末な外套は、周囲の煌びやかな学生たちと比べて明らかに浮いている。

 「……でかいな」

 口から漏れた言葉に、自分でも苦笑した。

 だがその目は真剣だった。あの夜、ミアの歯を治したときの感覚——魔力が“歯の奥の痛み”を感じ取り、流れを繊細に調整するあの術。それは単なる癒しではなく、“治療”そのものだった。

 次の日、巡察官のセラが来た。

 彼女はレオの力を警戒しながらも、“可能性”を感じたと言ってくれた。そしてこの学院への入学を命じた。いや——機会を与えてくれた。

 「ミア……元気にしてるかな」

 呟いて、門をくぐる。

 その瞬間、空気が変わった。

 周囲の魔力が濃密になり、肌にまとわりつくような感覚。

 ——これが、“魔術学院”か。

 中庭には新入生が集められていた。制服に身を包んだ生徒たちの中で、レオの姿は目立っていた。

 「おい、あれ仮登録の……」「庶民枠だろ、推薦もないのに」

 声が聞こえる。噂はすでに回っているようだ。

 その中で、ひとりだけ違う視線があった。

 銀髪の少女。エルフの制服。目が合った瞬間、彼女は小さく頷いた。

 「……なんだ、あれ」

 混乱のまま、入学式が始まった。

 教務長の長い訓話。王族の祝辞。どれも耳に入らない。

 レオはただ、自分の立ち位置を測っていた。

 「自分の力が……どこまで通用するのか」

 ──初期適性検査は、三つの試験で構成されていた。

 一つ目は、魔力素質の測定。手のひらを検知球にかざすことで、魔力量とその性質を数値化する。

 「ふむ、これは……やや低いが、性質は極めて安定している。制御向きか?」

 ざわめく教官たちの中、レオは次の試験場へ向かう。

 二つ目は、基本術式の模倣。提示された“初歩魔法”を再現できるかを見るものだ。

 周囲の生徒たちが火球や風刃を模して詠唱する中、レオは提示された術を使うのではなく、術の“流れ”そのものを観察していた。

 「……いける。ここが乱れてる」

 彼は構築過程を修正し、提示術よりも魔力の流れが滑らかで、効率の良い術を展開してみせた。

 「術式……変えてないか?」「いや、これ……こっちのほうが洗練されてるぞ?」

 三つ目は、制御試験。

 空中に浮かぶ数本の細糸に、魔力を通して“糸を断ち切らずに動かす”という繊細な課題。

 「多くの生徒がここで魔力暴発を起こす。君は、どうかな?」

 「……やってみます」

 レオは魔力を指先に集中し、流れを視る。

 糸に触れた瞬間、その魔力が微細に震える。

 “魔流視”が発動していた。

 彼はわずかに魔力を練り直し、糸にそっと添わせる。

 ゆっくりと、糸が揺れる。断たれることなく、まるで生き物のように舞い、戻る。

 「……これは」

 「精密すぎる。意図的な……干渉か?」

 教官たちは息を呑んだ。

 名前が記録される。

 異例の仮登録生——レオ=アーデル。

 静かに、だが確かに。

 学院に“異端”が刻まれた瞬間だった。



ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

「歯科」と「異世界」、一見ミスマッチなようでいて、

実はかなり深く魔法とつながっている――そんな世界を描いていけたらと思っています。


本作では、ただの回復魔法では治せない“痛み”と、

それを癒す力を持った少年レオの成長を描いていきます。


もし気に入っていただけたら、ぜひブックマーク・評価・感想など頂けると励みになります!

次回もどうぞよろしくお願いします!

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