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第26話 たどり着くミリーと俊則の過去

 王都でさんざん混乱を巻き起こしながら、男爵令嬢のミリーは男数百人を精神魔法で操り、馬車に乗りウッドストックを目指していた。

 まるで野盗の大連合のような、武装された統一感のない馬車の大軍は多くの破壊を振りまきながら、ウッドストックを目指し突き進んでいた。


 彼女の能力は非常にたちが悪い。

 操った人間の状況が何となくだが把握できる。


 どうやらウッドストックに自分の操った人間が大量に拘束されているみたいだ。


 「もう、どうして私の邪魔をするの。もうすぐ本田先輩と合えるのに。……なんだか知らないけどあっちで凄く邪魔をされている。ほら、あなたたち、私を連れていきなさい」


 そして創造神の言葉を借りれば『因果が巡る』のだろう。

 ミリーは俊則が今この世界のすぐ近くにいることを確信していた。


 「ああ、本田先輩、やっと会える。愛しているの、もう絶対離さない。本田先輩、本田先輩、本田先輩、本田先輩、本田先輩……あああああ、愛しているの」


 しかし彼女は今、能力を使いすぎてもう心は完全に消える一歩手前だった。

 彼女は狂っている。

 だから把握できていなかったが、彼女の心はとっくに壊れて、もう修復がほぼ不可能なところまで追いつめられていた。


 ただ懸念があった。

 神は知っていた。

 そして恐れた。


 因果が巡り強すぎた運命は摂理を覆す。

 悪魔が誕生する可能性があった。


 ウッドストック領の領門があと少しで確認できる場所まで来るとミリーは男たちに指示を出した。

 きっとここで本田先輩と合える。

 ならばもうこの男たちに用はない。


 「貴方達、もういいわ。王都に帰って好きになさい」


 ミリーは運命を妄信していた。

 だから自分に危険があるとは全く思っていない。

 そして一人領門を潜り抜け、自分の運命に導かれるまま東の領門を目指し歩いて行った。


 2時間後。

 ミリーは遂にひとりの男性を目にしていた。


 冒険でもしてきたのだろうか。

 身に纏う衣服はボロボロだし、あちらこちら傷を負っている。

 髪の毛もこの世界に多い茶色い髪だし、瞳は青い。


 背は180センチくらいだろうか。

 かつての俊則とは似ても似つかない。


 ミリーは心が躍りだすのを、抑える事が出来なかった。

 「ああ、ついに、出会えた……ああ、本田先輩」


 そして呟き彼女は男を見つめる。

 運命を信じた彼女が、俊則を間違えることはあり得なかった。


※※※※※


 本田敏則は傍から見ればごく普通のサラリーマンの家庭に生まれた男の子だ。

 父は会社員。

 母はパート。

 どこにでもある家庭の一人息子だった。


 でも彼はいつも泣いてばかりいる子供で、良い言い方をすればとても優しい心を持っていたという事なのだが、母がどうしても女の子が欲しかったこともあり、女の子の格好をさせられて、とにかく意気地のない子供だった。


 少しの事でピーピー泣く俊則は、保育園に通う同じ年の子供たちにとって非常にからかいがいのある子供だった。

 男なのに女の子の服を着て通園する俊則は、どうしても虐められていた。


 毎日毎日泣く俊則を保母の佐々木はとても心配して、俊則の母親と話し合いをしていた。


 「お母さん、俊則くんはとても優しい子です。でも、この子は男の子です。もう男の子用の服を着せてあげませんか?いつも泣いているこの子がかわいそうです」


 しかし俊則の母親は、頑としてその訴えを退けた。

 彼女もまた闇を抱えていた。


 「……先生。俊則がそう言ったのですか?そうでないのなら口を出さないでください。……男は皆ウソつきです。この子はまっとうに育てます」


 実は佐々木は今回でもう数回話をした後だった。

 ため息をつき玄関で靴を履きながら、彼女を見つめる俊則の目を見て、驚いた。


 俊則はまるで大人のような瞳で、そして彼女にこう言った。


 「先生ありがとう。僕は大丈夫だよ。おかあさん、可哀そうなんだ……僕、強くなるから…ばいばい」


 そんなことがあった数日後、保育園に新しい園児が編入してきた。

 髪の毛が金髪のハーフの可愛らしい女の子が両親の仕事の都合で数か月だけ来ることになった。


 お人形のように美しい彼女はまるでアイドルの様にちやほやされた。

 でもすぐに一人でいることが増えていってしまう。

 何故か俊則はよく一緒にいたけれど。


 女の子は日本語がしゃべれない。

 言葉が通じなかった。


 そして子供というものはかなり残酷だ。

 気が付けば彼女はいじめられていた。

 今までいじめられていた俊則がいつも一緒にいることに、嫉妬したのもあるのだろうけれど。


 もちろん暴力ではない。

 言葉が分からないことをいいことに数人の悪ガキが口汚い言葉を浴びせるようになっていた。


 言葉が通じなくても意味は何となく伝わるものだ。

 女の子、ティナはいつも俯いていた。

 そして俊則は泣きながらいつも彼女を守ろうとしていた。


 ある時男の子が俊則を殴りつけた。


 「女の前だからってカッコつけんなよな!この女男!」


 いつも守ってくれる俊則が侮辱されたことでティナがブチギレわめきだす。


 そしてそれを見た男の子4人が、ついにティナに手を出した。

 髪の毛を引っ張られ、手を叩かれ、ティナは泣き出してしまう。


 その時だった。


 いつも泣いていた俊則がティナの前に立ちはだかった。

 そして今まで聞いたことのない大声で、毅然と言い放った。


 「この子をいじめるな!!ティナちゃん何も悪くないよ!!!!」

 「お、おまえたちなんて、恐くないんだからな!!」


 止めに入ろうとした先生をはじめ、周りの園児たち全員が驚いた。

 そして今までずっとそんな様子に憤りを感じていた女の子たちが立ち上がった。


 「そうだよ、健太君たちいつもイジワルばっかりして。舞奈もう健太君嫌い」

 「そうよそうよ、謝りなさいよ」

 「健太君も祐輔君も大っ嫌い」


 その後男の子4人は大泣きし、何故かこの事件をきっかけに、ぎすぎすしていた園の雰囲気が劇的に変わっていった。


 そして俊則も、男の子の服を着用するようになり、泣くこともなくなっていった。


 ティナが退園する日、皆が見守る中、彼女が俊則のほっぺにキスをして大盛り上がりしたのはいい思い出だ。


 そんなこんながあり、それからの俊則は女性にやさしい少年になっていく。

 彼のフェミニストとしての基本はきっとこの頃に形成されたのだろう。


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