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第24話 恐ろしい気付け薬

 「ルイラ、教えてほしい。……君は気づいたんだね。そしてあの子は……」


 執務室で領主のジェラルドは妻を見つめ、自分の疑念を確認するようにゆっくりと問いかけていた。


 先ほど部屋に引きこもり出てこない愛娘を心配して、ルルと一緒に様子を見に行っていた。

 実はあの時、ロナリアが光に包まれたとき、ジェラルドは部屋にいたのだ。

 憔悴しきり、涙を流し倒れ伏す我が子が、部屋全体を白く染めるような神聖な光に包まれた。


 そして思いだす。

 あの子が乗馬で怪我をし、心臓が止まっていたことを。

 そう確かに、ロナリアは命を落としていた。

 何故か彼女にかかわる全員がそのことを忘れていた。


 まるでおとぎ話に出てくる転生の物語そのものだった。


 「ルイラ、頼む。教えてくれないか?あの子は、ロナリアは……誰なんだ」


 ルイラは大きくため息をついた。

 そして愛する夫を見つめる。


 「あの子はわたくしたちの愛するロナリアです。たとえ中身が違っていてもそれは変わりません。あの子はわたくしたちを救ってくれたのですよ。そしてルルも」


 「っ!?……すまない。そうだな、俺を、そしてルルを救ってくれた。そしてエリス嬢も」


 窓の外では多くの領兵が指示を出し合い、的確に対応している。

 かつてない混乱が国中で起こっているというのに。


 ルイラが冷静に助言してくれていた。

 今領都の北部の門は封鎖されている。


 被害は初日に集中し、今は落ち着きを見せていた。

 今は取り押さえた犯罪者の取り調べを進めているところだ。


 「あなた、お願いがあります。あの子を、ロナリアを、ここに置いてやっては頂けませんか。わたくしあの子と約束したのです。きっとあの子はこの国を救うでしょう」


 「何を言うんだルイラ。当たり前だろう?可愛い娘を追い出す馬鹿な親がどこにいるというのだ。……失った我が子が戻ってきてくれたのだ。……絶対にこの領を守ろう」


 ジェラルドの目に光が戻ってきた。

 立派な領主が宣言する。


 「ルイラ、もうくだらない事は聞かない、だから協力してくれないか?あの子が守ったこの領を、王国を、元気になったあの子に見せてやりたいんだ。頼む」

 「ええ、そうですわね。ふふっ、ここで失敗したらあの子に笑われてしまいますわ。あなた、これを」


 ロナリアは部屋に引きこもる前に、起こりうることと騒動の元凶を記した書類を、通信機とともにルイラに託していた。


 「これは?……そうか。精神魔法か……厄介だな」

 「ええ、これでカイザー殿下がおかしくなった理由につながりますわ」

 「そうだな、確かに愚暗ではあったが、あそこまでではなかったはずだ。…恐ろしいものだな」


 ジェラルドはロナリアの記した書類を見つめた。

 意味の分からない物がいつくか記載してあるが、ロナリアが守ろうとしている意志は充分すぎるくらい伝わった。


 「取り敢えず、解呪できる人を探そう。俺は魔法省へ行こうと思う」

 「危険ですわ。今王都は無法地帯です。それよりもこれを」


 ルイラが小さなカバンの様なものから、おどろおどろしい色の液体の入った瓶を取り出しジェラルドに差し出した。


 ロナリアが解呪できないことに気づいて作成した気付け薬だ。

 密閉しているというのにすさまじい悪臭が部屋に立ち込める。


 「うっ?な、なんだこの匂いは…頭がおかしくなりそうだ。ルイラ、これは」

 「うっぷ、臭いですわね……まったくあの子はなんて物を……後でお説教ですわね」


 ルイラは心底嫌な顔をし瓶をカバンに詰め込んだ。


 「おそらく死なないとは言っていましたが…気付け薬らしいですわね。捕縛した犯罪者に飲ませてくださいます?」


 なんだろうか?希望のはずなのに二人は心底嫌な顔をしてしまう。


 「あ、ああ、誰かにやらせよう。……すまないが俺は嫌だぞ?」

 「そうですわね。……まさかわたくしに、とか言いませんわよね?」

 「あ、当たり前だ。……こんなにおいでは愛せなくなってしまう」

 「はい?……何か仰いまして?」


 何故か二人が険悪になったことを、気を失っていたロナリアが知ることは永遠になかった。

 

※※※※※


 気付け薬はその効果を恐ろしいまでに発揮した。


 ロナリアの注意書きを重く受け止めたルイラは、ジェラルドとよーく話し合い、屋敷から5キロ以上離れた人家のない野外演習場の1か所に囚人を集め、遠くから薬を投げ込んだのだ。


 そして顕現する阿鼻叫喚の悪臭地獄。

 まさに地獄のような悪臭に包まれた囚人たちはのたうち回り、濁っていた目は一瞬で元通りになったものの…


 誰も近づく事が出来ず、倒れ伏す彼らを確認できるものはいなかった。


 瓶を投入れた領兵の一人は後でこの時のことを死んだ目で語ったという。


 「あれは地獄だ」


 そして口をつぐんだ彼は、およそ30メートル離れていて、なおかつ投入れた瞬間に全力疾走で避難したにもかかわらず、数日間誰も近づく者はいなかったという。


 ロナリアはすでに世界最強の女に認定されていたのだった。


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