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第5話 神子の願い

クェリケーから離れた場所にある遺跡。そこには神子と呼ばれる何かがいた。S級ドワーフの1人を殺害し、願いを叶えると言いながら迫るが…。

予想外のリアクションだった。神子は2歩、3歩と後ろに下がる。


「もっと普通の事であればその期待にお答えしましょう」


私はずんずんと進んで神子の頬に触れる。そしてでこを近付けた。


「妥協は許さんぞ!私の願望を視ろ!叶えて見せろ!」


神子は顔をしかめて嫌がる。腕をも千切れようが構わないつもりで迫ったが、先程スィトの剛腕から放たれた一撃を受け止めたとは思えない程に神子が私の腕を振りほどこうとするとする力が弱い。


「うぐぅぅぅ、やめてください、そんな願望を僕の頭に流し込まないでください…」


バリアを張って私を押し出す。気分悪そうに呼吸を整える神子。私は次の行動を注視した。


「不敬です、不敬ですよあなた…!初対面なんですよ!限度があるでしょう!!」


後ろを振り向いた。スィトはまだ神器らしい物を見つけていない。クソ、こんな時間稼ぎもいつまで通用するか分からない。本気で怒らせればそのまま殺される事だって有り得る。怖いがまだ奴に立ち向かわなければならない。


私が近付くと神子はバリアを張って私を遠ざけようとする。光魔法のバリアには闇魔法のバリアをぶつけ、闇魔法のバリアには光魔法のバリアを張って相殺して近付く。神子はフラフラしながら私から1歩2歩と下がる。


「シンダーさん、どんな願望をぶつけてるんでしょう。神子が精神攻撃でダメージ受けるってよっぽどですよ」


「私の心を読めオラッ!心を正視しろッ!お前に私の願望を全部流し込んでやるからな!!」


私はでこを神子のでこにグリグリと押し付けながら心から湧き立つ願望を一身に流し込む。神子は涙目で苦しんでいる。


「うげえぇ~っ、ひゃめてください~。吐きそう…」


神子は精一杯の腕力で私を突き飛ばした。弱っているらしく怪我をさせるには至らなかった。神子はその場で先程食べた物を嘔吐している。私は神子の傍で背中をさすった。神子は息を荒くしながら私の方を向く。


「はあ…はあ…お気遣いの所申し訳ないのですが、ちょっと離れてもらえませんか…」


私はハンカチを取り出すと神子の口周りを拭いてあげた。神子は私の後ろにいるスィト達の方を向いた。そこで私達の目論見に気付いた様でスィトの方へ飛んだ。武器を構える暇もなく押し倒されるスィト。ヒュリマが斧を振り下ろすが刃を右手で受け止めると斧ごとヒュリマを遠くへぶん投げた。


神子はスィトを押さえつけたままニヤリと笑う。


「ほお…神器をお探しですか。僕を殺そうって言うんですね」


スウィフトは辺りの遺物をとにかく神子に投げつける。私はすぐに神子の元に駆け付けて頭突きをする。今度はもっと刺激の強い願望を流し込んでやった。神子は頭を両手で抑えながら転げこの場から離れた。


再び嘔吐すると最初に会った時よりも気分悪そうな表情でこちらを睨む。


「このエルフ頭おかしい…」


「見つけたぞシンダー、これだ!!」


スィトが叫んだ。それは礼拝堂で見かけた神の石像に掛けられていた額飾りだった。遠くに投げられたヒュリマも戻って来る。


「一気に畳みかけるぞ!!!」


「「相分かった!」」


私は神子の元に走る。神子は魔法を滅茶苦茶に放って抵抗する。スィトが私の前に立って魔法を弾いたりヒュリマが身代わりになって攻撃を受けたりしながら共に前進する。神子の振り下ろす手刀はスィトの血の刃が受け止め砕けた。私はスィトの投げる額飾りを受け止めると神子の懐へ飛び込む。


両手を滅茶苦茶に振り回して抵抗を続ける神子。私は肩や目の上の肉が削がれながらも抱き着く。


「うがああああああああっ!僕の精神が汚染されるううううううう!!!」


手に握った額飾りを奴の背中に押し付ける。肉が焼ける音が聞こえる。やがて神子の抵抗も大人しくなった。私はただ神子を抱きしめながら絶命の時を待つ。弱弱しい両手が私の両肩を掴んだ。


「…あなたは気持ち悪いエルフです。でも不意に見せる優しさは嫌いじゃないですよ」


そう言うと腕に力を入れて私から僅かに離れ、私の首元に腕を絡ませて私の唇にキスをした。その瞬間に何かぬめり気のある何かが口から喉の奥に入っていくのを感じた。


「(な、何をした…)」


小声で聞くが神子は微笑むばかりで答えず、やがて全身が白い煙になって消えた。何だか急にドッと疲れが降りて来て、そのまま私も眠ってしまった。





…夢だと気付きながら見ている夢を明晰夢と言うらしい。とするとこれがそうなのか。何もない真っ白な空間に私はぽつんと座っていた。えっと確か神子との戦いに勝って…そこから意識がない。どうなったんだ。できれば早く目が覚めるべきなのだろうが。


「おお、気が付きましたか」


声がした。何かと思って視線を向けるとそこには神子がいた。


「何でお前が私の夢の中にいる」


「あなたの願望の1つを叶えたからですかね」


あの時は必死にありったけの欲望をぶつけたのでいちいち覚えていない。一体どんな欲望を叶えたと言うのだろう。夢の中だからかあまり頭が回らない。ただ1つだけ確かに分かる事があった。


「なんでもいい。そろそろ起きなきゃ」


「もっと驚いてくださいよ。神子があなたの夢の中にいるんですよ?」


「はいはい。夢の中なんだ。ハイントやらイールやらシグレットがいても驚かないよ。そうだ、起きたいって願いを叶えてくれ」


「むう…もう少し話したいって思ってたのに。いいですよ。起きるがいいです」


夢の中の神子は一体何を怒っているのだろう。そう考えていると急に足場がなくなって体は落下を始める。そうだ、目が覚めるんだ。私は落ちて行く感覚に身を任せていた。


目が覚めると何やら美しい模様が描かれた天井が見える。全身が柔らかい何かに包まれている。どうやら私はベッドの上にいるらしい。屋根付きベッドで寝ている。いつまでも寝ていたくなる様な寝心地だ。…しかし、その睡眠欲はやがて空腹に妨害された。


身体を起こすと辺りをキョロキョロ眺める。まるで小さな王室の様だ。まだ夢でも見ているんだろうか?


「神子、起こしてくれって頼んだよな」


『ちゃんと起こしましたが…』


どこからか声が聞こえた。見渡せども姿はない。何だ今の声は。


この部屋には洗面台やトイレもある。私は洗面台で顔を洗った。顔は…傷がない。夢だからだろうか。あの場に自分以外に傷を回復できる者はいなかった。私は神子の抵抗を受けてあちこちに傷を作ったはずなのだ。幸い重傷ではなかったが。


「ああ、もう起きてましたか。今から起こしに行こうと思ってたんです」


スウィフトが曲がり角から現れた。


「スウィフトか…。ここはどこなんだ?」


「シンダーさんはあれからしばらく目が覚めなかったんです。大変でしたが皆で運んでクェリケーまで戻りました。ここは王宮です。あの場で起きた事について私達は重要参考人として色々と話すためにここに招かれたんです」


そう言えば神子の事は国家機密だと言っていた。私達に下手に喋られては困るのだろう。私はスウィフトの案内に従って食事場へ向かった。お腹が空いて仕方がなかった所だ。今は何でもいいから胃に詰め込みたい。


ようやく到着するとヒュリマとスィトが先に食事をしていた。私も席に着いた。2人が私に挨拶してくるので私も挨拶を返した。


「しばらくぶりだな、体調の方はどうだ?」


「ああ、大丈夫だ。どのぐらい寝てた?」


「3日ぐらいな所だな」


3日…。


「飛行船が出る日じゃないか…!」


時計を確認するとまだ時間に余裕がある。私はスウィフトに報酬の相談をするとすぐに手渡してくれた。親切にもヒュリマ達が信頼できる所で遺物の換金も済ませてくれたらしくそれも込みになっている。遺物ごとの詳細と金額を記した書類を眺め自分の所持金と合算した。


頭の中で所持金を計算すると私は頭を抱えた。


「足りない…」


…いや、まだだ。まだアテはある。ギルドの質屋でもらった宝石だ。あれを信頼できる町の質屋に持って行けばまだ可能性がある。まだ希望は潰えた訳じゃない。私は決意を新たにした。


『そもそもあなたは重要参考人としてここに呼ばれたんですよね?そう簡単に解放してもらえるとは思えませんが』


「知るか。私は飛行船に跳び乗ってでもオルテナに行くぞ」


『やめておきましょうよ。下手すると指名手配されますし思うような生活なんて絶対できませんよ』


「う…それもそうだな…」


ヒュリマ達はお互いに顔を見合わせたりしながら不思議そうにこちらを眺める。


「どうしたんだ、さっきから1人でぶつぶつ言って」


「気を失ったのが3日前だ。まだ混乱しているんだろう。そっとしておいてやれ」


スィトがヒュリマを諭す。何だか私の言動かおかしいみたいなリアクションされてしまった。スウィフトは私の瞳を眺めたり目の前で指を振って見たりして首を傾げる。彼らはまだ私を休ませた方がいいと言う話をしている。私はこの通り正常だ。


私は今日中には飛行船に乗らなければならないのだ。ゆっくりしている暇などない。とにかく知っている事を全部話せばいいんだろう。私を心配する3人を説得して王との謁見ができると伝えた。完全な疑いは晴れないままだが王達も暇ではないためさっさと予定を組んで会ってくれることになった。


私はひとまず空腹を癒すために食事を始めた。そして思い出した。クェリケーの料理はとてもまずい。これに関してはヒュリマ達の口にも会わない事が食事が進んでいない事からと伺い知れた。とは言えしばらく食べてない体には少しでも栄養が必要だ。やや飲み込むようにして無理して食べた。


一日でも早くギルドに帰りたい…。


何とか食事を終えてスウィフトに案内されるままに玉座の間に向かう。その途中であの声が聞こえた。


『もし王に会うのであれば僕の声が聞こえてる事は話さない方がいいですよ』


「(だからお前は誰なんだ)」


『やだなぁ。僕ですよ。神子。みーこ』


王座の前に来ると私は3人に申し出て緊張でお腹壊したからトイレに行って来ると伝えた。いよいよトイレに着くとドッと冷や汗が滝の様に流れる。私の中に神子がいる。3日前に殺し合ったあの神子がいる…!!!


「み、神子は死んだはず…。夢じゃなかったってのか?!」


身体の中から強い喜びの様な物を感じる。神子の感情だろう。


『んん…ゾクゾクします。人の頭に望まない物が流し込まれる気持ち少しは分かりましたか~~???』


私は神子を思い出しながらえっちな事を考える。


『おえええっ!わかりました、わかりましたやめてください!意地悪しないのでやめてください!!ニッチもののエロの大百科事典みたいなレパートリーの豊富さしてんなこのエルフ…』


神子はあの日何をしたのか説明した。本来はあの場にいる全員を殺して取り込み自由の身になろうとしたが、私と言う誤算から負ける可能性を考えた神子は戦いながら生き残る方法を考えていた。その結果、自身を仕留めに来るであろう私に身体の一部(神器)を流し込み生き長らえる事に成功したと言う訳だ。


失敗作として生まれては殺された神子は生まれて死ぬまでの繰り返しの記憶を所持していた。そのため日々神器に対する対策を考えて来たのだと言う。神器で殺害された瞬間の油断をついて私の体に寄生したと言う訳だ。


「どうして私がこんな目に…」


『あなたが僕を体の中で飼いたいって言ったんですよ』


「言ったっけ」


『言いましたよ。こいつヤベー性癖持ってんなって思いましたよ。その言葉に着想を得てこうして生き延びる事ができましたが』


「出て行ってくれって言ったらそうしてくれる?」


『できますけど…今出て行ったら僕死んでしまいます。願わないでください』


心に強い悲しみが伝わって来る。目には見えないが神子が泣いている。


私は黙った。正直あんな得体の知れない物を自分の身体で飼いたいなんて本気じゃ思わない。あんなに恐ろしくて凶暴な奴なのだ。何よりこいつは私達を殺すつもりでいた。自分は殺さないでなんて虫が良すぎる。神子もしばらく黙っていたがやがて言葉を続けた。


『…神子は本来楽園に向かうためのナビゲーターとして創られました。長い時と数多の犠牲の上に僕が生まれたんです。自我が生まれる頃には楽園に行くと言う当初の目的から外れ僕は死なないと言う事を良い事に体のいい慰み者にされてました。好き放題されましたよ。逃げないように、暴れない様に杭を抜いたり打たれたりしました。辛かったのは本当です。暑い日も寒い日も、生きてるともとても言えない環境で死ぬ事も出来ず悠久の時をあの狭い檻で過ごしたんです』


私の心の棲む事で感情の訴え方が分かったのだろう。感情が濁流の様に流れて来る。話し方も感情の表し方も3日前と比べ物にならないぐらい豊になっていた。結果的に神子は私達を殺すつもりだったとはいえ、スウィフトの言葉を鵜呑みにして怖がるあまり戦わずして話し合う事を一切考えなかったのも事実だ。


地下での光景を思い出す。どれほど辛い思いをして来たのか想像もできない。私は内心再び同情心を持ち始めていた。


『外の世界で生きたい!風を全身で浴びてみたい!幸せになりたい!それが僕の願いです!自由を得るために人殺しだってやりました!!虫が良すぎるってわかってますよ!誰かに奪われるばかりの半生を過ごした僕が、誰かを奪ってでも幸せになりたいって願う事が罪なんですか!?僕は生きたい!!死にたくない!!…死んで欲しいなんて、願わないでください……』


私はトイレを後にして謁見の間に向かう。


「変な真似はするなよ。そしたら外の世界を満喫させてやるから」


心の中でまた喜びが広がった。神子が喜んでいるのだろう。彼は生まれてすぐから邪気に当てられて今日まで生きて来た。存在が善良か邪かはこれから考えればいいだろう。たぶんそうだ。きっとそう。


はあ…今、マクマを殺した奴を自分の身体に宿してるなんて聞いたらヒュリマもスィトも俺を殺すだろうな…。私は玉座の間に向かった。





私達は長らく玉座の間ので質問攻めを食らった。私に関してはパスツールのエラーコインについても尋ねられた。あまり適当な事を言うと後が怖いので素直にイカサマ屋について答えた。まあ口止めもされていないし。大臣は嘘を言っているのではないかと疑ったが王様は私の言う事に偽りはないと判断した。あの口ぶりからしてイカサマ屋については何か知っている様だ。


これから神子についての調査のために遺跡を入念に調べる事になるのだそうだ。私達は国家機密に触れてしまったので国王としては私達をしばらくの間は解放する事ができないらしい。また可能であれば調査に協力して欲しいとの事だ。


ヒュリマ達は諦めて調査に協力、クェリケーでの長期滞在を認めた。仕方がない。冒険者は各地でギルドの協力を得られなければ旅は非常に厳しい物になる。勝手に抜け出して前科持ちになれば他の町や村でギルドを利用できず大変不便をする。


私は少し悩んだ。確かに私はオルテナを経由してミキトーへ行きたい。しかしそれは私の全財産で遊んで暮らせそうな場所がミキトーみたいな田舎しかなかったからだ。今回の長期滞在は国の都合なので私は無料でここに滞在する事ができる。ここは1つ無礼を承知で交渉をしておこう。


「王様、私は本来飛行船に乗ってオルテナへ飛ぶ予定でした。ルナエルフとしての能力は枯れて衰え行くばかりの私はギルドで働く事が出来ません。調査のお力にもなれません。国家機密を守るためとあらばクェリケーでの滞在も快く受け入れますが…」


「うむ。そなた達は意図せずして国家機密を知ってしまった。遺跡調査の依頼も本来国がせねばならぬ事を業を煮やしたスウィフトが独断でやってしまった事。この事態の責任は本来我々にある。その後の生活に支障がないようにこちらから手厚いフォローを提供する事を約束しよう」


「恐悦至極です」


これで話はひとまずまとまった。ホッとしていると王様はまた1つ提案した。


「こちらの都合で飛行船のラストランを邪魔する事になってしまったが、もしどうしても乗りたいのであれば条件付きで空の旅を許可できるが…」


意外な申し出だった。飛行船は飽くまでミキトーへ行くための手段に過ぎなかったが、何だかここまで来ると確かにちょっと乗ってみたい気がする。


『シンダー…』


まるで袖を引っ張る子供の様な神子の声が私の名前を呼んだ。


「そうですね。条件をお聞きしてもよろしいですか?」


私は王様の言う飛行船に乗る条件を聞くとそれを快く承諾した。見張りを付けるのかと思いきや逆に私にある人物を見張って欲しいのだと言う。その人物と同行して空の旅を終え、そしてクェリケーに戻って来るという条件だ。どうにも変な条件ではあるが…。


私は一度ギルドに戻って支度をする事にした。途中でコトリーに会った。ジェスリーは倒れた私が王宮に運ばれたと聞いて大変心配していたと言う話をしていた。私はこの通り無事だがしばらくまた会えなくなる旨を伝えた。コトリーも軽い仕事であればできる程度に復帰してるらしくジェスリーも安心して仕事ができるらしい。


それを聞いて私も少し安心した。遺跡について色々と尋ねられたがあまり多くの事は語れなかった。コアトやミードルについてやはり思う事があるのだろう。ただ彼らの死体があり一応の埋葬を行った事を伝えた。コトリーとしてはやはりいずれちゃんとした場所に墓を移したいと言っていた。機会に恵まれたならば私も協力したい。


何か良い物があればジェスリーやコトリーにお土産を買って来る事を約束してその場を後にした。


支度を済ませると城へ向かう。道中で花を売ってる子供を見かけた。人に話しかけては断られ、人に話しかけては断られ…。ガラの悪い獣人にも売り込んでは花を地面に叩きつけられ踏みにじられていた。その姿にかつて薬屋だったダイアと買った薬を目の前にで踏み潰した自分の姿を重ねる。


踏みにじられた花を拾い集め篭の奥にしまった。それでもくじけずに通行人に声をかけている。


「あの…」


長らくその様子を眺めていたもので私と目が合った。


「この間来てくれた人ですよね。すみません、前回は顔も見せる事もできず」


「?」


人違いじゃないかと言おうとしたその人間は言葉を続ける。


「おかげで私はこうして元気になりました。コアトと、心優しい仲間の皆さんには大変感謝しています」


ああ…コアトのご家族さんか。外で動ける程度には元気になった様だがまだ病み上がりの様子でやつれている。辛いだろうにこんなにも一生懸命今日を生きている…。私は財布を取り出した。


「それは良かった。ちょうど贈り物をしようと思うんだ。篭一杯の花束をくれ」


「ありがとうございます…!」


私は財布の中を確認すると敢えて金がないフリをした。この間の礼に無料でもいいと言うがそえは遠慮した。代わりに懐からある物を取り出すとそれをお代として手渡した。


「こ、こんなの受け取れませんよ!!」


手渡したのは以前ギルドでパスツールのエラーコインを質屋に出した時にもらった饅頭の様な宝石だった。相場は知らないが高価な物には違いない。


「受け取ってくれないと花が買えない」


「でも…」


「急いでるんだ。頼むよ」


「この恩は一生忘れません」


「さっさと忘れてくれ」


私は花束を受け取ると少しだけいつもより軽い足取りで城へ向かった。…が、売る場所は必ずギルドの質屋で行うように忠告するのに駆け足で戻る事になった。きっといつか家族全員元気になるといいな。


エアアアアアアッ!!!

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