第3話 神聖な伏魔殿
身体も心も疲れたシンダーは娯楽に飢えていた。あと数日小銭を稼ぎながら待てば飛行船に乗られただろう物をイカサマ屋という店で大金を失ってしまう。もはや望みは断たれたかの様に思われたが、まだ運はシンダーを見放してはいなかった様で…。
夜の闇も濃くなった頃に私はギルドに戻った。これからどうしようか考えているとジェスリーとコトリーが食事に誘ってくれたので一緒の席に座った。何も注文しようとしない私の事が気になってた様子だったので今朝から今まで何をやっていたのか話した。
一文無しになって飛行船どころか明日生きていく金さえないと言う所まで聞いてジェスリーは机を叩きながらゲラゲラ笑った。
「おいトカゲ野郎」
「いやいやいや、分かるよ。俺もよくスッカラカンになってたから」
「だったなぁ。私達もこいつのギャンブル依存には困らされたよ。一番年下のコアトに鬼の形相で叱られてからは凝りてやらなくなったけど」
コトリーがジェスリーを小突きながら言った。私はそれを聞いて腹を抱えて笑った。
「耳を引き千切るぞクソエルフ」
私達のやり取りが可笑しかった様でコトリーも笑った。多少元気になったようだが泣き腫らした目元が痛々しかった。ジェスリーはコーヒーを飲みながら私にチラチラと視線を送る事で何か話題を変える様に訴えて来る。
私もちょうど1つ思い出し事をしたのでその話題を振る事にした。ポケットから古臭い硬貨を取り出してそれを机に置いた。
「そのイカサマ屋って奴、私の事が大変気に入ったらしくてな。今後もご贔屓にってこれをくれたんだ」
コトリーは一瞬ギョッとしていきなりそれをぶん捕った。
「お、おい何するん…」
「(馬鹿、こんな所でそんな物を出すな!)」
小声で私を叱るコトリー。ジェスリーもコトリーが何をそんなに怒っているのか分からない様子だ。コトリーは周りの目を気にしながら私の掌の上に硬貨を置いた。これが一体何だと言うのだろう。
「(知らない様だな。これは大魔法使い達だけが住んだと言うパスツールと言う国で使われた硬貨で世界にたった25枚しかないと言う超レアなエラーコインだ。、その製法は未だに謎に包まれているが、その秘密を紐解くのにそのエラーコインが必要とされてる。売る相手によっては莫大な財産が転がり込むが持ってる事がバレるだけでそれ目当てに暗殺者を送り込まれるレベルの財宝だ!どんな安値で買い叩かれようが構わず質屋で捨てて来い!)」
「(そ、そんなにやべえのかよそれ…)」
ジェスリーも小声で驚いた。
正しいデザインが分からないのでどう不良品なのか分からない。そんなレア物を雑に手放すのはもったいない気がするが高値で買ってくれそうな大富豪は知り合いにいない。ここは忠告に素直に従っておくことにした。
質屋のカウンターに出すとそれを見た店員がその場で引っくり返った。まずは眼鏡をかけ直してじっくり眺め、手袋をしてダイヤルのついた眼鏡を付けてしっかり観察する。
偽物だったとはいえ昨日のブロンズ像の時でも眉一つ動かさなかった店員が慌てふためいている。「ままま、待ってててください」と言って店の奥に消えて行った。しばらくすると奥から目つきの非常に悪い獣人がやって来る。しかしエラーコインを見るなり目を皿の様に開いて引っくり返った。
さっきの人と同じように手袋をしてダイヤルのついた眼鏡でそれを眺める。
「一体どこでこれを?」
私はコトリー達の方を向いた。コトリーは首を横に振る。
「近くの排水溝に引っ掛かってたんだ。いくらで買い取ってくれる?」
獣人は少し待つ様に言って部屋の奥に消えると袋一杯の金を持って来た。
「すまん、今払える金の全てだ。確認してくれ」
私は袋の中を確認しようともせずに獣人の目を見つめる。獣人は何か思いついた顔をするとまた部屋の奥に消えて戻って来た。饅頭の様なサイズの宝石だ。
「これもつける。頼む、譲ってくれ…」
後ろでさっきの店員も祈る様に手を合わせている。私は首を傾げながらそれを眺める。獣人は歯を食いしばってカウンターの下から魔石を取り出して私に差し出す。現代技術では再現できない極めて貴重な石だ。魔力節約に使うもよし、砕いて魔力を回復するもよしの便利な品だ。
それを見て薄ら笑いを浮かべ腕を組んでみせる。獣人は瞬きの頻度が増え、後ろにいる店員はオロオロしている。
「(なあ、あんたこの硬貨がどれだけ貴重か分かった上で交渉してるんだろ??パスツールの技術は凄まじい物だった。謎を1つでも解き明かす事ができればこの国の文明レベルが1つも2つも上がると言っていいだろう。その鍵がここにあるかもしれないんだ。あんたの生活だってもっと豊かになると思うぜ?)」
「近いうちにクェリケーを去る身だ。関係ないね。出せるのはそれだけかな?」
獣人は歯を食いしばって握り拳を作ってわなわなと震わせる。これ以上粘っても出て来る物はなさそうだ。だが…。
「実は今大変困っているんだ。ギルドで寝泊まりしようと思ったら空き部屋がないんだって。困ったなぁ。野宿なんてしたくないし」
それを聞くと獣人が「待っててくれ」と言って下がった。店員に何かを話して2人一緒に奥の部屋に消えた。しばらくすると何か金色のカードを持って来た。
「客室は満室だ。だが俺の使ってる部屋がこのギルドにはある。そこで良ければ使っていい。これは特別会員カードだ。所持者だけここでの飲み食いが無料になる。これで勘弁してくれないか」
「交渉成立だ」
獣人がホッと胸をなでおろす。そしてさっきの硬貨を大事にしまうと窓口を締めて『しばらく休店します』と書いた紙を張り、私を部屋に案内し鍵をくれた。客室より広くて快適だ。私は手荷物を置いてジェスリーたちの元に戻った。
皆の所に戻って特別会員カードを使用し一緒に夜ご飯を食べた。そして酒を浴びる様に飲んだ。ジェスリーと飲み比べ勝負を挑んだものの私が先に酔いつぶれてしまった。ジェスリーに運ばれて彼のベッドに寝かされた。ここに来て最初に仲間になったギルドメンバーがこいつらで良かったとしみじみ思う。
私は胸の奥で僅かにぽかぽかと温かい物を感じながら眠りについた。
翌朝、私は起きると床で寝ているジェスリーや隣のベッドで寝ていたコトリーに小声で礼を言って自室に向かった。渡された袋のお金を数えるためだ。本当にありったけを詰め込んで来たみたいで数を数えるのは中々に骨が折れる。しかし、これだけあっても私が昨日失った金の半分ぐらいしかない。飛行船に乗るには金が足りない…。
「くそお…いっそここに永住してしまおうか…」
昨日はノリと勢いで強気の交渉をしたが正直この特別会員カードもこの部屋の利用もいつまで有効か分からない。いや、それどころか刺客を送られてエラーコインの出所を聞き出すために拷問とかされるかもしれない。ひょっとしたら自分は恐ろしい事をしでかしたのかもしれない。
やはり何としてもオルテナへ向かわなければ。飛行船が来るまでに稼げる気がしないが…。とにかく今は少しでも稼がなければ。さっきの宝石も売って金にしたいが今はギルドの質屋が閉まっているのでお金にはできない。町の質屋は相場が分からなければ足元を見られて再安値で買い叩かれかねないので下手に売るのは得策じゃない。私はギルドで何かお金になりそうな任務を探す。いずれも高額なのは間違いないが空いた穴を埋めるには全然足りない…。
一瞬イカサマ屋を殺害して金を奪う事も考えた。しかしこの町で殺人を行う事自体もリスクが高い上に、バレればいつ誰に殺害されるとも分からない得体の知れない遺物を持ち歩いていてそれを気分1つでポンと他人にやる様な人物だ。返り討ちにされかねない。
もし同じ場所にいれば勝負でも…とも考えたが今度こそ一文無しになりそうだ。さすがに何度もそうレア物をくれたりしないだろう。
「いや待てよ…」
私はふと思いついた。
「遺跡漁り…」
ふと思い立って私は部屋を出て依頼ボードを確認する。遺跡の探索の依頼は…。あった!!遺跡調査の依頼だ。報酬も高額だしそこで発見した物次第では追加報酬アリ!護衛対象とは言え専門家もついて来るから少額のゴミを持ち帰って肩透かし食らうリスクも少なく済む!!最高の任務だ。問題と言えばこれが張られてから随分経つのに誰も触れてない事だ。
仕方がないので私は辺りのギルドメンバーに声をかけてまわった。B級帯は全然駄目だった。C級帯にも声をかけて回ったが中々快く返事をしてくれない。まあそれもそうだ。一昨日自分でも言ったが死にに行くようなものだ。
私は一度飛行船に乗るのを諦めて次にこの国に訪れる時に乗ればよいのではないかと考えた。しかし、関係者を伝って聞き込みを行うと衝撃の事実が発覚した。私が乗ろうとしていた飛行船は今回でラストランになると言う。つまりこの期を逃せばもう乗る事はできない。老朽化が著しく多くのパーツが現代技術では修理ができないらしい。そんなの聞いてない…。
トボトボとギルドに戻った。さすがに遺跡漁りにコトリーとジェスリーを誘えるほど私も無神経じゃない。どうすべきか…。コーヒーでも飲みながら今後について考えていると私の席の前に誰かがやって来た。
「聞いたよ。遺跡調査の任務に同行する相手を探してるんだって?」
顔を上げるとパッとしない顔のエルフが2人いた。
「んだよ」
「オイラ達が同行するよ!」
あまり覚えてないけどギルドメンバーか。私は端末情報を調べた。彼らのランクはE級だった。お話にならない。
「せめてC級までランクをあげて来てくれ」
「こんな端末のランクは何の参考にもならない。オレのランクは間違いなくB級だ」
「そりゃ良かったな…」
よほど金に困っているのかしつこく粘った。段々イラついて来て近くの依頼書を2人に叩きつけた。下水道に現れると言う親玉ネズミの退治だ。推奨ランクはD~C級。彼らはそれを見て顔を見合わせる。
「この依頼を達成できたら同行してやる」
「これはD~C級だ。オイラ達はE級だぞ」
「よく読んでるじゃないか。私が募集してる遺跡調査はC~S級向けだ。繰り返すがお前らじゃ話にならんぞ」
「そんな事は分かってる。でも…」
どんなに説得しようにも詭弁を弄して中々諦めない。いっそ肉体言語で説得してやろうかと考えていた頃、ついさっきまでギルドで手続きをしていたこの辺では見ない顔のドワーフの3人がこちらにやって来た。ドワーフ達は私の目の前にいる2人の前に立って挨拶した。何でもドワーフ達は私に用があるらしい。
私は端末で調べてみた。町やギルドを転々としている冒険者だった。ランクは…。
「!!!!」
全員S級だった。しかも1人はヒーラーじゃないか…!一体、一体私に何の用があると言うのだろう。先程のE級の2人は恨めしそうな表情でこの場を去った。良く分からないが説得が済んだらしい。
彼らは私と同じ席に座る。三つ子だろうか。全員顔がそっくりだ。
「遺跡に行くんだって?」
「ああ…遺跡調査の任務がやりたいんだ。でもメンバーが集まらなくて」
「なれば私達と共に行こう。仲間のシグジーがメガコンドルに食い殺されてしまってな。等級の高いヒーラーが欲しかったのだ」
「それは良かった…。あなた達がいれば心強いだろう。しかし護衛対象を連れて行くとなると5人行動になる。誰か置いていくべきだろうか」
「その必要はない。多少の魔物なら大歓迎だ」
口が動いている人物に注意しなければ誰が話してるか分からないな…。
血気盛んな冒険者は多いが大半は死ぬ。勇気と知恵を持った臆病者が等級の高い冒険者となって生き残るのが常識の世界だ。こいつらはそうじゃないらしい。見た目は頼りないが…S級に至るまでその様子で来たのなら妄言と言う事もないだろう。私は彼らとパーティーを組んで依頼を受ける事にした。
私達は各々自己紹介する。まずはヒュリマ。このパーティーのリーダーだ。頬に傷があり身の丈ほどはある両手斧を使って戦う。次にスィト。何故か剣の柄の様な物を持っている。長いひげを蓄えている。マクマ。ヒーラーなのに体が傷だらけだ。何でも強い敵と戦うたびに記念に残してるらしい。一見じゃわからないが片目は見えていないらしい。
依頼を受けた翌朝、待ち合わせ時間に依頼人がやって来た。優し気な人相だが同行人が4人いる事に驚いていた。ズレた眼鏡をかけ直しておそるおそる私達に尋ねる。
「あの…あなた方が同行するパーティーですか?」
「という事はあなたがスウィフトか。よろしく」
私は手をひらひらとして挨拶した。
「5人で大丈夫ですかね?1人誰か抜けた方が…」
「問題ない。獲物は多い方が得物も喜ぶというもの」
スィトは柄の様な物を強く握りしめ掲げる。
「は、はあ…。了解です。無理だけはしないでください」
そうして私達は遺跡に向かう。道中彼らは魔物の気配に全く気に掛ける様子もなくずんずんと先に進んで行くので私とスウィフトはおっかなびっくりしながら進んで行った。それはそうだ。普通は魔物が怖い。
やがて期待に応える様にローパーと言う魔物が現れた。体長は3m前後、頭と尻に10本ずつ蛇の頭を持つ持ち太い1本の胴で命を共有している。それが5体ほどこちらに迫って来る。スウィフトは悲鳴を上げると跳び上がって私に抱き着く。私だって怖いんだが…。
ヒュリマは地面を揺るがすほどの雄叫びをあげながら敵に突っ込んでいく。その巨大な斧で果敢に立ち向かい胴や蛇の頭を斬っていく。その小さな体からは考えられない程の腕力だ。スィトは柄の様な物を掲げる。
「おお、我が愛しき御敵よ…!」
柄の先からは果物ナイフの様に短い刃物が生えた。スィトはその刃で自分の首を斬った。勢いよく血が噴き出すとその血は霧状になって柄から先に集まって行く。やがてそれは半透明の剣の輪郭を持った。私は急いで回復魔法でスィトを治した。スィトは自分の身長の2倍はある長さになった血の剣を振るってローパーを斬りって行く。
これまで色んな奴に会ってきたがあんな滅茶苦茶な戦い方をする魔法剣士は初めて見た。呆気に取られていると近くにヒーラーのマクマがいない事に気が付いた。前方を確認するとローパーを相手に素手で首を引きちぎったりぶん回したりしている。パワー系ヒーラー…。
私とスウィフトはまるでおとぎ話ん中にいる様な心地でそれを眺めていた。誰かが負傷すればその度に回復魔法をかけていたが、正直私はいらなかったんじゃないかと思う。結局マクマの回復魔法を見る事はできなかった。
訳が分からないドワーフ集団と出会ってしまったが、今ただ一つ言える確かな事は私が知る中で一番楽園に到達できそうな実力を持った連中だと言う事だ。願わくばこれから旅先でハイント達と会って争う事になったりしない事を祈る。
それから大きなサイズ、小さなサイズの魔物とあったが果敢なドワーフ達は全て倒して遺跡に向かって突き進む。スウィフトはあれは貴重だ、これは貴重だと死んだ魔物を物色していた。遺跡に向かう前から荷物を増やしてて大丈夫なんだろうか。
スウィフトが歩き疲れて辛そうにしている頃、やっとの事で遺跡に到着した。事前におそろしいスライムが中にいる事やどういった手で襲って来るかについて説明しておいた。今回はマクマが先行する事になった。あの強さを見れば納得ではあるが前衛のヒーラーってなんだ…。
入り口に入る前にマクマは聖水を体に浴びたり口に含んだりして中に入った。そして遺跡に入る第一歩目からスライムが降って来て全身を覆った。
「マ、マクマ!!」
私は叫んだが仲間2人は特段気にする様子がない。スライムは肉の焼ける音と共に強い悪臭を放ちながらが段々と膨れ上がっていく。内側から金色の光を放つ球状のオーラが広がっていく。マクマは無事なようだ。金色のオーラは部屋中を満たすほど広がり潜んでいたスライムを焼いて押しつぶして行く。
金色のオーラがマクマの中に戻って行くと何もなかったかの様に歩き出した。あれであのスライムを倒してしまったのか…。あれは異国の魔法なんだろうか。スウィフトはまず入り口から入ってすぐのフロアの調査を始める。その部屋にはヒュリマを残して私達は次のフロアに向かう事になった。
入り口であんなスライムが待ち伏せているのだからその次のフロアもどんな魔物がいるやらと思っていたがざっと見た感じはどこにも見当たらない。隠れているんだろうか。手あたり次第探してみたが魔物はおらず金目のものもなかった。スウィフトもここちらの部屋にやって来たが軽くノートに何かペンを走らせるともうこのフロアには用事はないと言った。
「スウィフト、この遺跡は元々どんな場所なんだ?」
「聖堂ですね。ここは2000年以上の歴史があって、クェリマイル教が一番力を持っていた時代では国王の戴冠式をここで行う事もありました。残念ながら後世になるにつれて色んな犯罪の温床となりましたが…」
クェリマイル教。この世界の3大宗教の1つだ。細かく言えば宗派は数えきれないほどあるが。元々楽園に住んでいた住民は外の世界で神話を伝えたが言葉の齟齬やら解釈違いやら色々あって神の姿から教えまでバラバラになった。楽園に住んでいたとされる種族が追放された理由も宗教によってバラバラで結局何が原因なのかはっきりしていない。私達ルナエルフが買ったと言う怒りも諸説ありはっきりした事は分からない。3大宗教に比べれば規模は小さいが楽園を追放した事を恨むあまりに魔物を信仰する人々もいた。
いずれも教会も祈りを捧げるのは楽園に帰る事を許してもらうためだ。それを数千年繰り返しているがいずれの祈りも届いていない。そうする事が正しいと教わっているので祈りも半ば形骸化しているのでそれが原因かもしれない。
追放後しばらくは何らかの方法で楽園に帰る方法を模索していたようだが外の世界の生活に慣れてからは段々とその願望は薄れて行った様だ。魔物に日常を脅かされながら暮らすなんて状況じゃなきゃ私も楽園を目指そうなどと思わなかった。
「私は冒険者として楽園に帰る方法を探っていたが、こうして聖堂が犯罪の温床になったり魔物の蔓延る伏魔殿になってるあたり本当に楽園があるのかも神様がいるのかも疑わしく思えて来たな」
「そうでしょうか。むしろ私はより一層信じる様になりましたが」
「どういう事だ?」
「これまで魔物ではないかと考えられる動物はいましたが、世界ではっきりと伝説通りの魔物が現れたのはつい最近の事です。それまでどこにいたのか。何故突然現れたのか。何故暴れ回って我らに危害を加えるのか。一切が謎です。事情を知っているとすれば神様ぐらいでしょう」
「なるほど。確かに」
魔物は突如現れては世界中で暴れ回ってあらゆる破壊の限りを尽くした。あの時は何もかも終わりかと思われたが今は下手に外を出歩かない限り積極的に私達の生存圏を襲って来る事はない。世界の殆どの建造物が破壊されたが綺麗に残っている物も少なくなく偶然とも取れるし何か意図があると言えばそうかもしれない。
魔物の生態について研究も進んでいるが、最近だと魔物は生きるのに食事が必要ないのではないかと言う説が上がっている。腹を満たすためでないのなら一体何故私達を襲うと言うのか…。皆目見当もつかない。
「ひょっとして神様が魔物を使役して私達を滅ぼそうとしてる?」
「むしろ生存圏内の我々を守ろうとしていると私は考えています」
次のフロアに向かう途中でまたスライムが襲って来た。マクマはあの金色のオーラでスライムを焼き殺した。その付近には見覚えのあるものが転がっていた。コアトとミードルの死体だった。状態は酷かったが間違いない。ヒュリマに相談して近くで簡単な埋葬をしてあげた。
それからまた私達は奥へ奥へと足を進めた。
これから5話の執筆にとりかかる所です…