5年前に亡くなった妻が孫になって戻ってきた
ある日のこと。数年前に嫁いでいった娘が変な電話を掛けてきた。
「今週の日曜日に家に来るから。花梨に会ったらきっとビックリすると思う」
花梨とは娘の子──つまり、僕の孫で。今年4歳になる。その孫とは毎年何度か会ってる、が。
「ビックリするって、何だ?」
電話を終え、僕は首をかしげた。
そして、日曜日。娘は孫を連れて家に来た。すると孫は、僕に会うなり泣きながら思いきり抱きつくと。
「久しぶり、陽一さん」
「……え?」
僕は驚いて、思わずメガネを落としそうになった。会うたび僕のことは「おじいちゃん」と言っていたのに、何故か今日は、僕のことを名前で呼んだ。
「花梨?『陽一さん』はちょっと……。『おじいちゃん』って呼んで──」
しゃがんで孫と目線を合わせ、そう話してる途中。僕の唇に柔らかいものが触れた。
孫が、僕の唇にキス、したのだ。
僕が驚いて固まってると、娘は慌てて僕の唇から孫の唇を引き剥がした。
「ちょっ!?も~…何見せつけてるのよ、お母さん!」
と、娘は孫にそう言った。
「何言ってるんだお前?お母さんって……」
「あのねお父さん、ビックリすると思うけど……花梨はどうやら、お母さんの生まれ変わりみたいなんだ」
「そうなのよぉ~!まさかよりにもよって、娘の子供に生まれ変わるなんて~ねぇ?というわけで、私は花梨だけど、貴方の……陽一さんの妻だった弘美です。お久しぶりです、陽一さん」
そう言って孫は、ぺこりと頭を下げた。
「……は?はああああ!!!?」
◇
僕の妻……弘美は、5年前に病気で亡くなった。僕は妻を一途に愛していたので、妻が亡くなった後、ショックで仕事以外家から殆ど出ない、引きこもり人間になってしまった。
そして妻が亡くなって一年後。孫の花梨が生まれた。孫が生まれ、時折娘が孫を連れて遊びに来るようになると、塞ぎ込んでいた僕の心は少しずつ解放されていった─のだが。
「嘘、だろ?花梨が弘美だなんて……そんなジョーク洒落にならんぞ─」
「『弘美さんの全部を僕に下さい!結婚してくださいっ!』」
「それは……僕が弘美さんに言ったプロポーズの言葉。何で花梨が知って……?」
「私がその弘美だからね~。まあ、幼い孫の姿で急に『亡くなった貴方の妻です』なんて言われても、すぐには信じられないわよね~。でも私は弘美よ。そして、生まれ変わっても、貴方のことが……陽一さんのことが大好きよ」
そう言って微笑んだ孫の顔は、確かに妻によく似ていた。