2
ここが小説の世界だと気づいたのはルネが5歳頃のことである。
前世の記憶自体は生まれつき持っていたが、それまではただたんに異世界に転生してしまったんだなくらいに思っていた。
貴族子息としての教育が始まった頃から違和感はあったのだ。国名や現国王の名前、有力貴族の家名などに聞き覚えがあったから。
そして5歳のときに、この国の王子の名前がテオドール・ネクレンブルクだと知ったのだ。
「いや、テオドールって『フランツ王国記』の主人公じゃねーか!えっ?ここフランツ王国記の世界⁉」
一瞬喜びかけたが瞬時に自分の未来を把握、見事撃沈した。
それから一ヶ月はとにかく覚えている限り小説の内容をノートにまとめた。
もちろん誤って人に見られたときのためにノートは全て日本語である。
まあ、そもそも当時はまだこちらの文字を完璧に習得していなかったため日本語以外の選択肢はなかったのだが…。
ノートをまとめて解ったこと、物語は主人公が16歳のとき、王子とルネは3歳差なのでルネが13歳の時から始まる。
とはいえ物語序盤はテオドールとアレクシスの学園での青春が主で、ここでは終始なごやかに話が進んでいく。
ちなみにヒロインであるコゼット・ド・サヴォワとの出会いも学園である。この学園パートでは後々テオドールを支えることになるキャラクターも登場する。
波乱万丈な物語中盤を見たあとに読み返すと初々しいキャラにほのぼのしてしまい何度も読み返したものだ。
さて、肝心のカンテミール家についてだが実は兄のリオネルもこの学園でアレクシスと出会っている。
辺境の田舎出身とはいえ、カンテミール家は国境を守護する武門の家系であるため地位としてはそれなりに高いものになる。
しかし、王都から遠い田舎で暮らしていたため学園内に旧知の者もおらず入学当初は一人で過ごすことも多かった。
そんなリオネルに声をかけたのがアレクシスだったのだ。
「つまり、兄さんをこの学園から遠ざければフラグを一つ折ることが出来る。」
もちろんれっきとした貴族家の後継者が学園にも行かずに領地に引きこもるなんて許されるものではない。なので近隣諸国でリオネルの興味を引く学校を探し留学していただくことにした。
当時5歳だった弟から大量の諸外国学園の資料を送られた兄や諸々の資料の手配を頼まれた執事の当時の心境は分からないが、よほど衝撃的だったのかまだに小言を言われる。
「本当にあのときは驚いたよ。ルネは遠くの国に追いやりたいほど俺が嫌いなのかとおもったね。というか普通5才児ってこんな事思いつかないでしょ?」
多分兄さんには俺が色々隠しているのばれているだろうなと思う。
「いつか兄さんにだけはホントのことを話せたらいいな」
そうこの没落回避作戦が全て終わって前世の記憶の悲惨な未来から抜け出すことができたら…。
ルネは改めて気合を入れ直す。