とある邂逅
お久しぶりです。
A4一枚以内、という縛りで小説を書く機会があったので載せてみました。
「すみません遅くなりました、お疲れ様です」
「はい、そこでストップ!」
部室に入ろうとした瞬間、入口で止められる。先輩は、立ち上がってスカートの裾を直しつつ、読んでいた最近お気に入りのミステリー小説を少し名残惜しそうに椅子に置いた。
「そこだと人の邪魔になるでしょ、暑いし扉開けたままでいいから、もうちょっと中に入ってよ」
「理不尽だ…」
言われた通りちょっとだけ部室の中に入ると、いつの間にか先輩が机を通り過ぎて目の前に来ていた。
「ねぇ、私に君が君であることを証明してみせてよ」
指で短い髪をくるくるさせて、ニコニコしながら先輩は言った。真っ直ぐにこちらを見据える目はからかっているようで、しかし存外真面目そうだった。
「なんでですか?」
「いいからいいから」
「…はぁ、ちょっと待ってくださいね」
仕方ない。この要求をなんとかしないと座らせてもらえなさそうだ。そもそもこの部活に来るのは先輩と僕だけなんだから、ここに来た時点で証明終了だろうに。仕方なく僕はパイプ椅子にリュックを置き、開く。…あちゃー。
「本当にちょっと待ってくださいね」
「そんなに念を押さなくてもちゃんと待ってるよ」
今日は科目が多かったせいで、リュックの中では授業道具たち、特に数学と古文のプリントが一緒に乱舞していた。もうめちゃめちゃである。どうせ踊るならば、そのまま駆け落ちして教科ごとどこかに行ってしまってほしい。
探索が終わり、こちらを窺うようにじっと見つめ続けていた先輩に学生証を提出する。ウィズ、ドヤ顔。
「…馬鹿なの?」
どうやら全く期待に沿えなかったようだ。真夏なのに視線が冷たい。日差しと目線で完全な板挟みだ。まさに今僕のところで梅雨前線が生まれそうな気温差である。「ジト目」って、もしかして湿度が高いからなのかもしれない。言い得て妙だ。
「まぁでもある意味で、その馬鹿さ加減は確かに君なんだけどさ。それが証明って言いたいの?」
「普通に失礼ですからね、それ」
ごめんごめん、と言いながら学生証を返される。
「でも、なんでそんなこと急に聞いたんですか」
「聞きたい?」
にや、と先輩がこちらを見た。この人がこの顔をする時は碌なことがない。やれ先生から頼まれて新聞を作ることになったから原稿を書けだの、やれこの学校の屋上には幽霊が出るらしいから一週間張り込みをするだの、何か面白いこと(先輩比)を持ってきた時の顔だ。
「はいはい聞きたいです教えてください」
「やる気なさそう」
めんどくさいことになるのが分かっているんだから、聞こうとする姿勢を作っただけ褒めてほしい。
「じゃあ言うけどね。聞いて驚け!」
このとき、僕たちは二人とも廊下の方には全く意識を向けていなかった。だから気づけなかった。
「食堂で、君のドッペルゲンガーを見たんだよ」
「すみません遅くなりました、お疲れ様です」
個人的には、昔からこういう最初と最後が同じ文章を書くのが好きなんですよね。余談でした。
続きそうな終わり方ですが続きません()