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I can’t help falling love with you

 沖縄にきて1年が過ぎた。15歳の夏はどこか淡くて甘酸っぱくて、幻想的な想いに駆られていた――



 俺は広島で生まれて、14歳の時に沖縄にきた。父が電気屋に勤務しており、父の転勤を機に父とともに引っ越してきた。



 元々は父が独りで単身赴任する予定だった。だけど俺はどこでも浮いた存在になっていた。友達なんて物心ついた時から一人もいない。気がつけば、親からの言いつけも守らず勝手に父のギターに触れていた。そして自己流でギターを弾き続けた――



 実は俺の親父は沖縄生まれだ。このたびの単身赴任はいわば彼の帰省にもなる。ぶっきらぼうな彼もどことなく機嫌が良く、俺はこの地で自分のギターを買って貰った。それは自分の誕生日の事。俺はまるでもっと幼い時の自分のように凄くはしゃいでいたようだ。ギター店の店主と親父はそんな俺を笑ってみていた。



 ここに来たって俺は何ひとつ変わらないと思っていた。でも思っていた沖縄と実際の沖縄は何か違った。



 気がつけば友達ができていた。友達とバンドを組んでいた。



 誰も俺をほっとく人間がいなかった。



 友達と何をするのも楽しかった。スポーツ大会では自分達のオリジナルシャツなんかを皆で作って始まりから終わりまで皆で楽しんだ。



 でも、1番驚いたのはクラスで自分の誕生日を祝って貰えた時の事だ。家族にすらそんな事をして貰った記憶のない俺は、そんなひと時が凄く眩しくみえた。



「やまと! おめでとう!」



 ひときわ彼女の笑顔が眩しかった。



 彼女はマーキーという女子だ。顔立ちが日本人のそれらしくなくて、父を異国に持つハーフの日本人もしくはハーフのうちなんちゅうだ。



 彼女に首飾りをかけて貰った俺は感謝を言うのもためらった。



 その日、学校終わりにバンド友達と夕焼けに染まる海岸まで出てきた。



「おまえ、マーキーに御礼さ言わなかったなぁ。アイツのこと、嫌いか?」

「違うさ。ただはじかさんだけさ。広島じゃこんな事なかったから」

「マーキー、ちゅらさん思うけどなぁ」

「りょう、店さ開いてねぇか?」

「上等! 今日は平日だってばー。うっとぅー、しーじゃーも呼ぼうさ。きっとアンマーもでぇじ喜ぶ」



 俺は何だかちょっとホッとした。あまり触れて欲しくない事に彼らがやたらと踏み込んでこなかったから。それからの二次会も賑やかで楽しかった。



 りょうの店に来たのはいつもバンド活動で一緒に絡んでいる面々だ。



 1時間ぐらい貸し切りで使わせてくれるとの事。



 俺は感謝に絶えなかった。



 だけど何かずっと頭のなかでぼやけているようにして離れないものがあった。



「うぁっ! やんばー?」

「はぁ? 手が滑っただけさ! ごめんってばー」



 ヒロキが踊りながら飲み物を飲んでいると、俺に飲み物を吹っ掛けてしまったらしい。故意でないらしいが、俺がボーっとしていたのも悪いと言えば悪いか。




 帰りがすっかり遅くなった。でも親父はそれに対して何も言ってこなかった。ただ一言「誕生日おめでとう」とだけ。りょうの店で御馳走になっていたことも知っていたらしい。俺はベッドに倒れるようにして横にーー



 マーキーに掛けられた首飾りを掛けたまま、俺は夢の中に潜っていった。



 目が覚めたら翌日の朝になっていた。



 ラインがたくさん届いていた。広島にいる母から学校で絡んでいるみんなから。そりゃあもう、嬉しかったけど1つ気になってしまった。



 マーキーからはなかった。



 学校の支度をして、いつもの通学路へ。だけどそもそも制服のままだったからちょっと手間は省けたか。




 それからの日常も変わらなく過ぎていった。バンド仲間達とは相変わらず絡み続けているし、学校で誰かの誕生日を祝うことも、行事で皆とはしゃぐ事も変わらずだ。



 だけど何故かあの日あの時からマーキーの姿を目で追うようになった。



 誰かの恋バナとあればさりげなく耳に傾けてみたりもした。



 俺達と積極的に絡んでいるマーキーの友達である茉莉はドラムにして町で評判高い料理店の息子、りょうに恋慕っている事が俺のリサーチで判明した。っていうか、もはや周囲も周知している事だ。交際を始めてしまうのも秒読みにみえた。



 そりゃあアイツはカッコいい顔をしているし、人当たりでも俺なんかと比べて凄くイイ奴だ。羨ましい気持ちが湧かない訳もないけど、だけど納得してしまう自分がどこか恥ずかしい気もしていた。



 やがて俺はある噂を耳にする。それは夏が迫ってきた先月の事、マーキーに好きな人がいるというっていう話題だ。



 俺にその情報を提供したのは授業中でも家でも寝ることが生き甲斐だと言っているヒロキだ。とても信用できない情報発信源だったが、彼がうたた寝から目を覚ましたところ、そんな話を耳に入れたという。



「誰さ! 誰さ!? その男は!?」

「知らねぇって! なんでおめぇさ、そんな必死になる!?」

「えっ……それは……」

「もしかして付き合っているのか?」

「違う。最近そういうのに興味でてきて……」

「恋バナに? 女かよ? やっけぇ奴さ」

「そういう歌ばかり歌っているから……多分……」

「やっさー、たまには違う歌を歌うのもいいかなぁ」



 ヒロキは極めし能天気な男だから変に勘づかれることはなかった。



 それが良かったのか悪かったのか。



 余計に俺はマーキーへの想いを秘めるようになった。




 そして7月になった。彼女の誕生日月でもある熱い真夏の月だ。



 彼女の誕生日会でプレゼントの渡し役に俺はさりげなく立候補してなっていた。ここに至るまで結局誰が彼女の意中にある人物なのか分からずじまいだった。



 そしてクラスみんなで彼女の誕生日を祝う。



「マーキーお誕生日さ……おめでとう……」

「ありがとう!」



 首飾りを掛けたのは俺、そして眩しい笑顔を返してくれたのは彼女だった。



 そしてその誕生日会で衝撃の事実が明かされた。



「私、アメリカに行くことになったさ、みんな、今までありがとう!」



 みんな「寂しいなぁ」と口を揃えて彼女との別れを惜しんだ。



 本当は準備していた物があったけど、俺は何もせず呆然とするばかりで――




 そして時は過ぎて俺は俺の部屋のベッドで無機質な天井をボーっと眺めた。



 でも何故だろう。居ても立っても居られなくて俺はギターを片手に近所の海岸まで繰り出した――




 空は無数の星空に包まれている。その先に真っ暗なブラックホールがあって、そこには何もないのだという。俺は彼女の事が気になってどうしようもない状態なのだが、これは地獄なのだろうか? 天国なのだろうか?



 わからない。



 むしゃくしゃする!



 誰か助けてくれ! 誰か助けてくれよ!



 まるでこれじゃあ……



 運命にもてはやされている少年。



 これじゃあまるで……



 これが恋じゃないか。



 俺は想いそのままにエルヴィス・プレスリーの名曲を歌った――




 やがてその日はやってきた。明日か明後日にはマーキーがこの街を出ていく。この国を出ていく。俺はヒロキの家の八百屋を手伝っていた。



「やまと君、ありがとうさー」

「いいえ、あの、準備はできていますか?」

「ああ、そこ、乗って!」



 ヒロキのお母さんが指指した先に軽トラを停車させたヒロキのお父さんがいる。俺は深々とお母さんに礼をして、今日限定で俺用の臨時タクシーに乗った。



「しかし、アメさんとこで歌うだなんてさ、度胸あるコやっさー」

「いや……歌うって約束した訳じゃあないけど……」

「え?」

「でも、彼女に歌ってあげたい歌があって……」

「そうか! 彼女さんに! イイはず!」

「あ、ありがとうございます……」

「ウチの息子は休みの日はいつも寝てばかりだからさ。やまと君をでぇじ見習って欲しいさ」

「あはは」




 そして俺は米軍基地の近くまで来た。



「ちばりよ~!」



 ヒロキのお父さんが手を振る。



 俺は事前にアポを取った米軍基地の職員さんと話して、マーキーがいる所に案内をして貰った。彼女は軍人である父さんとその同僚ら? の人たちとで和気あいあい話していた。



「えっ!? やまと!?」

「あ、あははっ……ハロー? エブリワン?」



 マーキーの父さんは知ってないからか、もの凄い形相で俺を睨んでいた。ある壮年の軍人さんが「ボーイフレンッ?」と聞いていたから尚更だろう。



「あの……ほんとうはマーキーの誕生日会で歌うつもりでした。だけど何か急に恥ずかしくなっちゃってさ……今日はあの日できなかった事をします」



 マーキーたちの視線が俺に集まる。



 なんだよ、コレ? 武道館でやるよりやっけぇよ。



「ちむどんどんする」



 そして俺は演奏を始めた。



 エルヴィス・プレスリーの「監獄ロック」だ。



 そのイントロが始まった瞬間から、オーディエンスはノリにノってくれた。



 おぼろげなカタコトの英語の歌唱でも彼らは楽しんでくれた。



 そしてマーキーも楽しく踊る。それにつれて俺のパフォーマンスも爆発した。




 楽しい瞬間はあっという間に終わる。




 俺のパフォーマンスは2曲まで。俺はマーキーに「すごく練習した」と前置きを話して「I Can’t help falling love with you」を弾き語りした。監獄ロックよりも演奏と歌唱に力が漲る――




 そして俺のショーは終わった。拍手喝采。マーキーから頬にキスまでして貰う。あんなに恐い顔していた彼女の父親もこうしてみると彼女のように優しい顔した白人のオッサンだ。「ブラボー!」と彼から握手をして貰えた事も凄く嬉しかった。




 そして彼女は飛行機に乗って沖縄を発つ。



 俺たちは飛行場からそれを見守った。



 俺の横にはりょうとヒロキ。これからまたコイツらとありふれた日常を過ごす事になるのだろう。りょうには茉莉って彼女ができて、暫くウザくなりそうだが。



「帰ろうか」

「ああ、やまと、そういやマーキーが俺の彼女に手紙渡してさ、それをやまとに渡してくれってさー」

「まどろっこしいな。どういう意味さ?」



 りょうから手渡されたモノ、それはハートがいくつも詰まったマーキーからの手紙。



 俺が生まれて初めて貰うラブレターだった――



∀・)なろう恋フェスの「ご当地になろうフェス」へ贈る作品です。ええ、とっくに期限過ぎたんですけども許してください(笑)僕的には沖縄在住のかつてなろう作家だったコハさまに書いてくれるかなと淡い期待を込めてたんですが、そうはならなかったので自分で書きました(笑)やまと君が米軍基地でミニライブをやったくだりはリアルじゃまず無理な事なんですけど、小説だから許してちょうだいね。やまと、りょう、ヒロキでピンとくる人はピンとくると思うんですけど、そこからのネーム採用です(笑)エルヴィス・プレスリーはいま、映画になってもいますよね!今度みにいこうかなぁ~と思ってたりしてます。宜しければ感想残してやってください。読了ありがとうございました♪♪♪

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― 新着の感想 ―
[一言] すごく、青春ですね……! 彼女のために米軍基地で歌うエルヴィス・プレスリーとか、シチュエーションが良すぎです。ラストも爽やかでとてもいいなと思いました。 沖縄弁がすごくリアルで、びっくりしま…
[一言] お~~小学生の時思いを告げられず転校した子を思い出しました。 懐かしい。 感想ありがとうございますW
[良い点] すごくよかった。恋心に気づくところとラストの一文が、心の琴線に触れてきて、思わず目頭が熱くなってしまいました。青春の1ページが眩しいです。 [一言] 沖縄には行ったことがないのですが、朝ド…
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