不安からの迷路
ボールが転がっていた。
どこからか転がってきたのだ。
そのボール、風もないのに転がっていた。
不気味だった。
持ち主もそばにいないはずなのに…。だって近くには子供は1人もいないから。
転がる先には何がある?
そう…雑草がぼうぼうに生えていた。
まるで侵入させない為にでもあるかのように獣道すらない。
ユラユラと葉が揺れていた。
なんで?
風…吹いてないよ?
そっちには行きたくないのに足はそっちに向かっていた。
雑草の中をどんどんと入っていく…。まるで何かに引っ張られてるかのように。
あちこちに切り傷を作りながらも高い雑草を抜けることができたが、そこには古びた廃屋があるだけだった。
何年まえのだろうか?
建物はほぼ崩れてきており、おそらく数十年は経っていたに違いない。今にも何かが出てきそうだ。
怖い。
逃げなきゃ。
後ろを振り返ったときにはさっきまで歩いてきた道が無くなっており、大きな竹がたくさん自生していた。
あの雑草はどこへ?
その時建物内が明るくなった。
僕は1人で来たことを後悔した。
だって絶対何か変だ。
こんなのないよ。グスッ…泣き出してしまった。でも人の影が建物内に見えたので思わず竹藪に隠れた。
もしかして幽霊かもしれないし…怖いよ〜。
この竹藪を抜けたら元のところに帰ることってできないのかなぁ?そう思い竹薮の中を奥へ奥へ進んで行った。
こんな時に腕時計をしていないことを後悔した。それがあれば光の加減で方位がわかる。
そうすればここから抜け出せると考えたのだ。
携帯にそんな機能あったか?
あっ!
あった!
確かこの辺だったかなぁ〜?
スライドさせて目的のものを見つける。
北はどっちだ?
動かすと何とかわかった。
助かる。それだけが頭にあった。
だけどいっこうに出口に出られない事に焦り出す。
どれくらい走っただろう…。竹藪からどうやら抜け出そうだ。嬉しくてニンマリしたのだが、その顔は一瞬で凍りつく。そう、出られたのだが元いた場所に戻ってきていたのだ。まるで樹海の様な竹藪だったのだ。あり得ない。
携帯の方位磁石が狂うなんて…。
もう逃げることができないのか?
そもそもここには転がってきたボールを追いかけてきたのだ。持ち主もここにきたりなんかしないか?
そうなったら僕と同じ目に合わないか?
震えながらも周りを見回すがそれらしい子供の姿はどこにもなかった。
そもそもそのボール自体何処にある?
見つからない…。
竹藪の中で縮こまっていたら、遠くから音が聞こえてきた。そう、落ち葉を踏む音だ。
灯りが見える。
その灯り、徐々に近づいてくる感じだ。
こちらに気づいたのか?
この暗闇で気づくって…どうよ?
ただ足音だけしか聞こえてこないと思っていたのだが、どうやら違うようだ。何やら声が聞こえる。掠れて聴こえる…。
耳を澄ませても聞き取りにくいほど小さな声だ。
「…頃合いか?…だな。そうだ、そうだ。今日のメニューは人肉か?クックックっ。」ってどう聞いたってヤバいやつじゃん!人肉って…俺の事か?
「ヤバいよ。ここから逃げないと。」
独り言が大きく聞こえて怖さが倍増される。
それでも足は動いたよ。だから前に動かすことだけに集中する。
携帯の方位磁石は当てにならない。
ならなにを頼りに向かうかって?
そんなのなにもないって。
ただ木に傷をつけてまっすぐに進む事だけ。それでも逃げ出せなかったら俺の運命もここまでという事なんだろう。
ただ普通に傷つけるだけなら後ろからやってくる奴に勘付かれてしまう為、俺だけしか分からない目印をつける。
そうやって少しずつ距離を取れるように祈りながら前に前にと進む足を止めない。
そのせいか少し距離が離れてきている感じがする。だって雑音が小さくなってるから。
雑音というのは…そうだな…簡単に言ってしまえば謎の物の発する叫び声とか…草を踏む音とか…。相手はこっちを探すので必死で隠れようともしない。
見つけられると思っているようだ。
こっちとら逃げ切ってやるつもりなんだが…。
携帯の時間はゆうに二時間は過ぎていた…。
足音も全く聞こえなくなっていることに初めて気づき、その場にじっとして耳を澄ませた。
風の音、草を踏む音、臭いなど、考えることは山ほどある。
でもどれにも当てはまらないようだ。
ようやく逃げ切ったか?
でもここどこ?
全く知らない場所に出た。
只今までとは違うように感じる……。
暖かく感じるのだ。
ここは天国か?
僕はどうなったんだ?死、んだのか?
あたりは雲がモヤのようにかかり、遠くまでは見ることが出来ない。
足元を見ると人々が歩いているのを見る。
空中にでも浮いているのか?
冷や汗が背中をつたい落ちる。
「これは夢なんだ!そうだ、そうに違いない。なら起きないと。」その場で眠ろうとしたが眠れそうもない。なんで??
諦めしか無かった。
そう思うしか無かった。
そしたらさ、昔の事思い出しちゃったよ。
子供の頃、そうだな……5歳の頃だったか友達とドッチボールしてたんだ。だけど友達が上手くとることが出来なくてボールを追いかけてったっけ。
その後…その後は…??なんだったっけ?覚えてない。覚えてないや。なんで?ちゃんとバイバイしたよな?
僕は気になりだしたら手がつかなくなって何故かそばにいた母さんに聞いてみた。初めは口を濁していた母さんだったが、僕はもう大丈夫だと納得したのか話し始めた。
仲良くしてくれてた子は死んだのよ?って。
そ、そんなはず……だって昨日も一緒だったんだよ?
え?だれが?だって?僕だよ。
「変なこと言わないで。あなたへんじゃないの?だってその時だって一人で喋ってたじゃない。ナーンにも覚えてないの?」
その薄気味悪い返事に背筋が震えた。
じゃあ、あの子は一体?
僕が遊んでいた子は誰だったの?
そしてその時コロコロところがってきたものに僕は驚きを隠せなかった。
そう、見失っていたボールだったから。