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・絶対不可侵の塔に隠された氷のフロドの本性 1/2

 絶対に笑わないというあの性質のせいで最初は冷たく感じたけれど、彼の行動は誠実そのもので、かつ几帳面でとても知的だった。


 あまり相手ができないと言っていたのに、毎朝私の部屋を訪ねてきてくれて、不便はないかとまるで執事さんみたいに気を使ってくれた。もちろん、あの冷たい無表情で。


 どちらにしろ、それは私が抱いていた人物像とはまるで異なっていた。人は見かけによらないと言われるけれど、フロド様において『見かけだけではわからない人』だった。


 あのかわいらしいランディが言うには、ランディもフロド様の笑顔を1度も見たことがないそうだ。見てみたいかと私が彼に聞いてみたら、それはそれでイメージが壊れるからどっちでもいいと返された。


 ただ、1つだけ気になることがある。


『それとあそこに白い塔があるだろう。あそこには絶対に近付くな』


 それはあの言葉だ。フロド様は公務以外ではずっと塔にこもりきりで、屋敷には昼食すら食べに戻らない。朝から夜更けまであそこに詰めて、とても疲れた様子で毎晩私の部屋を訪ねてくる。


 立派なお屋敷があるのだからこちらの書斎で仕事をすればいいのに、彼はあの塔にこだわっていた。


「まだ俺が怖いか?」

「いえ、だいぶ慣れてきました……。あのときは、大変なご無礼を……」


「だから、謝るなと言っている。俺は生まれたときからずっとこうだ」

「そんな……」


「同情もするな。人のように愛想笑いができないのは確かに不便だが、俺にとってはこの状態が自然だ。そういった人間に憐憫の目を向けることは、それこそ失礼なことだと俺は思う」

「あ、確かに、そうなのかもしれません……。私も『臆病で可哀想ね』なんて言われたら、傷つきますから……」


「臆病は何も悪いことではない。……どうやら我々は性質こそまるで合わないが、似た部分を持っているようだな」

「わ、私の問題は、フロド様ほど深刻な問題ではありませんから……」


「ならばそっくりそのままの言葉をお返ししよう。俺から見ても、その性格はなかなか難儀そうだ……」

「ぅ……そ、そうかもしれません……」


 毎晩訪ねてくれるのは、きっと彼なりに客人をもてなしたいのだろう。けれど彼はあの白亜の塔でのことの方が客人よりも大切で、だからこうやってわずかなバランスを取ろうとしている。


「すまないがもう眠くなってしまった。おやすみ、ディシル」

「私もです。おやすみなさい、フロド様」


 いつしか私は、この夜と朝だけのささやかなやり取りを、心のどこかで楽しみにするようになっていった。


 そんな彼があの塔でいったい何をしているのか。仲良くなったランディに訪ねてみても秘密だと言われる。あるいは、子供たちのためにキャンディを作っているとか、実は私と会うのが恥ずかしくて隠れているとか、陽気な嘘でランディは話をごまかした。


 彼が悪い人とは思えない。だけど良い人だって悪い顔を持っている。私は次第に、彼はあの塔で何をしているのか、気になってたまらなくなっていった。好奇心は猫を殺す。何事もなくこのオフェウクスの儀を終わらせたいなら、好奇心を持つべきではなかった。



 ・



 そんなある日、空いた花壇の1つを貸してもらえることになったので、私はそこにジャガイモの種芋を植えていった。ランディはそれを面白がって、フロド様の手伝いがあるのにこっち手伝ってくれた。


「花じゃなくて芋なんだね……」

「だって、ジャガイモの葉ってかわいいと思うの、大きな傘みたいで。それに花も小さくて白くて綺麗よ」


「それは僕もわかる。葉っぱにたまった朝露とか飲んだりするよねっ!」

「そ、そうなの……?」


「するよ! 今度ディシルも飲んでみるといいよ!」


 種芋を全て植えて、ジョウロで土を軽く湿らすと、ランディはフロド様が気になり始めたのか私の前から白亜の塔へと立ち去っていった。


 男の子なのにその後ろ姿がとてもかわいくて、フロド様に彼が小姓として愛されるのもよくわかった。で、でも、本当に彼が男色家だったらどうしよう……。


 私は園芸道具を片付けて、井戸水で軽く手足を拭ってから、もう1度ジャガイモ畑に戻った。湿った黒土はエメラルドグリーンの庭園の中で黒々と引き立っていて、それを眺めていると今からもう双葉の芽生えが楽しみだった。


「あ……!?」


 さあ帰ろう。少し部屋で休んでからここの図書館で暇を潰そう。そう思ってフロド様とランディのいる白亜の塔を眺めると、このお前友達になった黒猫が塔に入ってゆくところを目撃してしまった。あの黒猫は私の心の癒しで、私を構ってくれる数少ない相手だった。


「近くで見ると、こんなに大きい……。あの子、大丈夫かしら……」


 塔の地下には拷問部屋がある。塔には拉致された被害者たちが監禁されている。もしそれが本当だったら、あの子が無事に戻ってこれるとは限らない。捕まったら大変だ……。


 今日に限って入り口の扉が半開きだった。隙間からのぞいてみると中は真っ暗で、目で探しても猫の姿はどこにもなかった。私は思い切って、恐怖にバクバクと鳴る胸を押さえながら中へと入った。


 どこにもいない。1階にはいなかったので、勇気を出して2階を目指すことにした。ちなみに、この塔に地下はなかった。つまり拷問部屋は存在しなかった。2階を調べ尽くした頃には、暗闇に目が慣れてきていた。


 2階にあったのはよくわからない木箱や、ガラクタとしか言いようのない変な物だ。けれど今は友達の保護こそが大切だったので深くは考えず、私は3階に上がっていった。


 すると上の階から『ミャー』とあの子の鳴き声がした!

 よかった、ついに見つけた! 私は階段を駆け上がった!


「猫さん、ここは危ないから外に――あっ?!!」


 3階は窓が全開になっていてまぶしかった。世界の白さに私が目くらんで、黒猫を抱き上げるその人影が誰なのか、最初はわからなかった。


 ところがその人影の正体は、あの氷のフロドだった。黒猫は見つかったけれど、私がフロド様に見つかってしまった。約束を破った私を、彼はいつだって鋭いあの素顔でなんとなしに見つめている。


「ディシルか。ここには勝手に入るなと、そう言ったはずだな……」

「ご、ごめんなさ、ごめんなさい……。そ、その子……」


「これか? うちの屋敷に勝手に住み着いてしまってな……。さて、どうしてやろうか」


 氷のフロドに恐れをなしてか、黒猫は抱かれたまま『シャーッ』とうなった。凄い、この子小さいのに私よりもずっと強い……。一方のフロド様の方は黒猫に威嚇されても平然としている。


「待って下さい……」

「ほぅ、君はこのヤンチャ娘の肩を持つのか?」


「はい……。中に入ったことは、お詫びします……。だけどっ、そ……その子だけは虐めないで下さい!! その子、わ、私の、友達なの……っ!!」


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