私、何故か彼氏できません
「え?新しい彼氏ができた?!」
通話越しでも伝わってくる嬉しそうな彼氏できました報告。
そのテンションに釣られて思わず声を上げてしまった。
「うんっ、あのね、新しい彼氏顔は普通だけど性格まじでイケメンなの」
「ほぉ。てか、莉乃。あんたさ、二ヶ月前にも彼氏できたよ報告してこなかったっけ?あの彼氏はどうしたの」
そうだ、そうだ忘れてはいけない。この女、二ヶ月前にもイケメンの彼氏ができたとか言ってなかったか?あまりにも早い乗り換えで驚いてしまう。私なんて彼氏なんてできたことないんだけど。
「あ〜あの人ね。浮気してたから即ふっちゃった。浮気とかまじサイテー」
まずあんたはなんでそんなに彼氏ができるんだと聞きたかったがここはやめてこう。
私とて女子力がないわけじゃない。お化粧だって、服だって莉乃のアドバイスを受けてきちんと整えている、が、一向にできない。
「そろそろ結衣も作らないの?彼氏」
「できないの!わかる?嫌味?」
違う違うと笑っているがこちとら笑い事では済まされないのだ。
中高と女子校に通って、大学生の時は仲介役になることはあったが自分には彼氏ができなかった。
そして社会人にまでなり、今に至る。
大学生の時、彼氏がいる幸せさというものを莉乃から散々聞かされていたが、正直経験したことがないのでわからない。というよりまず恋愛なんて小学生以来していないので是非ともそこから教育してほしいと頼んだら断られてしまった。
「んも〜結衣可愛い顔持って、頭も良くて、なんでこんなに彼氏ができないのかなあ」
「私が知りたい」
切実に教えてほしい。
私だってみんなみたいに恋人との楽しい時間というのを経験くらいしてみたいものだ。
「でも、あれじゃない?」
「何?」
「仕事ができすぎるから逆に彼氏ができない、とか」
「何それ」
そもそも仕事ができて何が悪いのだろうか。
迅速に業務をこなし、いいアイデアが思いついたら発言をして提案をする。
資料をまとめる過程までも楽しい。仕事ができない方が怒られるのが常じゃないか。
「案外抜けてる方がモテるっていうよ?」
「そんなことしてたら上司に怒られちゃうよ」
「んも〜、真面目だなぁ。あ、私彼氏からメッセージきたから落ちるね」
「はいはい、楽しそうですね」
ぶちっと電話を切っては思わずため息が出てしまう。
モテる女の考えというのは大変難しい。正直理解し難い。そこに彼氏ができない理由が組み込まれていると言われれば否めないが、彼氏を作りたいからと言って理解ができるものなのかと言われればそれは違うから困ったものだ。
「仕事だって怠るわけにはいかないしねぇ。仕事は仕事だし」
じゃあどうしたらいいのかと言われてもわからないのでさっさと寝てしまおう。
うん、もう寝よう。
***
「おはようございます」
「おはよう田代さん、今日も早いね」
「はい、少し資料で直したいところがあって。気になってしまって」
むむっと資料と睨めっこなのはいつものことだ。朝早く来ているのに莉乃に言われた通りきちんと髪はセットして服もきちんとしたものを着ているのは褒めてほしい。
が、やることもいつも一緒だ。資料と睨めっこをしてより良い方に持っていって提出する。期限厳守。
「あ〜終わった。始業まで時間あるのかぁ」
「結衣偉くない?あんた何時に朝いっつも来てるの?」
「七時とか?」
「うへぇ、金融会社じゃん。うちの始業8時半だよ?」
とは言っても朝早く来たら来たでやることはあるので、朝早く来て困るということは基本ない。
「んなもん普通勤務時間で終わらせんだよ」
「おはようございます黒田さん。私は黒田さんと違って処理が遅いんです。それを補うために朝早く来てるんですよ」
夜遅くだとあなたみたいな上司に残業になるだろとか怒られるので。
そのために早く来てるんです。仕事は終わらないと進まないでしょ。
「処理速度を上げればいいだろ」
「これでも入社当時より速度は上がりました」
「当たり前だろ。入社当時と比べんな」
「いや、黒田さんも結衣も部署の中でトップクラスに早いですからそこまで気にすることでは──」
とはみんないうがこの黒田さんと呼ばれる先輩の処理速度は尋常じゃないくらいに早い。本当に。私の業務を勤務時間内にきっかり全てを終わらせる。それも数日で。
仕事量が増えても同じ調子なので逆に限界が気になってくるほどだ。
「黒田さん並みに早くなればいいんですか」
「俺に追いつくのは無理だろ」
「本当、事実なのにその自信満々な感じ、嫌味ですか」
「先輩にそんな口聞く後輩も初めてだけどな」
これまで幾度となく優秀な成績を収めてきた私だったが、この先輩はもはや天才なんじゃないかと一瞬疑うことは何度もある、多分これからも。
「ほら、結衣、始業始まっちゃうよ」
「わかってるわかってる〜今行く!それでは先輩、後ほど資料の確認をお願いします」
頭をぺこりと下げてさっさと同期の元へ戻る。始業が終わればまた仕事だ。始業が始まる前に入れたコーヒーを一口含むのがもはや日課となっている。
「げ、結衣、カフェイン中毒ならないでよ?」
「うぅ…気を付ける。でも家ではあんま飲んでないんだ」
「会社で何倍飲んでると思ってるの」
「ふふ、心配してくれてありがと、気を付けるね」
確か今回は若い人の意見も欲しいとやらで上司が私に何か資料を制作するようにと言っていたのでそちらにも手をつける。
「あ〜もっと早く仕事できるようになりたい」
「いや、さっきも言ったけど結衣はできてるって。私の遅さをみなさいよ」
「私は麗ちゃんは仕事できると思うよ」
同期の中でも仲のいい麗ちゃんは基本要領がいいいので普通に上司にも後輩にも頼られているからそれはそれでいいと思うので笑顔で返しておく。
「あんたは天使か何かか。どうしてそんな可愛い笑顔して彼氏いないのよ。彼氏でも作って息抜きしなさいよ」
「げ、それ昨日管理部の莉乃にも似たようなこと言われたんだけど。彼氏なんてみんなみたいに簡単にできないの。はい、麗ちゃんこれ確認しておいて」
さっさとまとめた資料を担当の麗ちゃんに確認をしてもらうために手渡すと麗ちゃんは何やら呆れた様子でこちらをじっとみてくるので、一応聞き返した。
「なんでこんなに仕事もおしゃれもこなせるのに恋愛はそんなできないのよ」
「私に言われてもなぁ。恋愛する機会もあんまなかったし。あ、私ちょっと資料室行ってくる」
「はいはい、社畜にならないようにね」
別に私だって社畜になりたいわけじゃない。仕事は好きだが会社と仕事が全てだと思ってるわけでもないし、私生活も充実してないわけじゃない。ただ恋愛がないだけ。
そういっても今年で25だ。周りでは結婚し始めた人もちらほらみられてきた。
(んで私は彼氏いたことない歴は年齢か)
なんとも悲しくなってくる。
「あ〜、人生って難しいなぁ、あ、あった」
「その年でもう人生に迷ってるのか」
「あ、黒田さん。別にいいじゃないですか」
「仕事の速さか?」
この人は私のことを頭の中全部勉強か仕事のことしか考えていないとでも思っているのだろうか。私だって一応女なのでそのイメージは若干ダメージがくる。
「そんなことで人生に悩みませんよ」
「なんだその言い草は。社内ではそつなくこなす方だから悩んでるのが珍しいと思ったのに」
「私は見せ物じゃないです」
「そこまで言ってないだろ。んで?何に悩んでんの?」
真っ黒な髪の毛に真っ黒な瞳。
部署の中でもイケメンだと言われている先輩だが、本当にその仕事の速さに負けるので、少し羨ましいと思ってしまうのもまた事実だ。
「そんなに大きな話じゃありませんよ」
「なんだ?失恋でもしたのか?」
「違います」
「ふぅん?じゃあ今日奢ったら話してくれるか?」
「お金を払うほど面白い話じゃないんですけどね」
奢りならいいですよ。
とりあえず私は仕事をしなくちゃいけないので失礼します。
というより、承諾をしてしまったがいいのだろうか。この私、田代結衣、小学生以来一度も恋愛をしてないので、恋愛がよくわかりません、彼氏ができません。
この話をまず男性に話していいのかすらわかっていない女です。
……ああ、待って、今からでも断れないかな。




