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夜が更けていった。

ショウが空を見上げると、こと座が深夜の一時を告げていた。

ソフィは確かに僕のシェヘラザードだ。と、ショウは思った。

聡明で、その声と話で僕の心を惹きつけてやまない。

長い夜の時間があっという間に過ぎてしまう。

川の音も、夜に眼を光らせる動物の気配も、ソフィの声の前では何もショウの意識に入り込むことはできなかった。

この部屋で、フィグツリーのプログラムでしか行くことのできなかった世界へ、ソフィは僕を連れ出してくれる。

そんなことを考えるうち、ショウの外の世界への憧れはどんどんと膨らんでいった。


「科学者夫婦が世界に呼び掛けたことで、やがてアラは世界中の科学者や医療関係者たちの注目の的になったわ。その当時、誰も人のことなんて考えている余裕はなかった。ただ静かに孤独に生き延びることしか考えていなかった。まして、ウィルスに感染した子供の命を救おうなんて考える人は誰もいなかった。けれどアラのニュースは、人々を繋げ、心の底に眠っていたものを呼び起こすように熱気を帯びていった」

ショウは固唾を呑んでソフィの話に聞き入った。

「あらゆる科学者と医療関係者たちが、アラを回復させようと自分たちの知恵を振り絞った。アメリカ、日本、オーストラリア、ドイツ、スイス、本当にあらゆる国の人々が、自分にできるありったけのことをしたわ。ある者は隔離された部屋の中で、身体を清潔に保つために老廃物や汚れを除去するバクテリアを混ぜた水を開発したり、アンドロイドの開発や、それと同時に培養脳、あるいは脳の神経回路から出される信号をデータ化してコンピュータに保存したり、その逆にデータを脳にインプットする技術。その技術の応用は、二つに分かれて進化し、一つはメンテバンク、一つはフィグツリーへとなっていった。また、フィグツリーの応用で、子供たちの健康状態をモニターしたり、隔離された部屋での運動機能向上なども考えられていった。それらの爆発的発展を遂げた技術は、すべて世界各国の見ず知らずの科学者たちの独自の研究の成果であったけれど、その目的はただ一つ、『アラの命を救う』ことだったのよ」

「そんな壮大なことが……」

「ええ。けれど、どうしても克服できない問題があった」

「それはなんだい?」

「仮にどれだけ有用な技術や機械を開発しても、それを輸送する手立てがなかった。当時の世界は、飛行機も車も船も、それを運用するための道路や空港や港も、すべて破壊しつくされていたのよ」

「じゃあいったいどうすれば……」

「ついには、軍用宇宙開発の科学者までもが手を差し伸べてくれたわ」

「その人はいったい、何をする人だったんだい?」

「主に、反重力の研究をしていた」

「反重力ってことは、もしかしてグラビティコントロールベッドは……」

「ええ、そうよ。その科学者が開発した技術が使われている。彼が手を貸してくれたおかげで、当時試作機であった反重力の飛行船を使って、世界中からアラの元へあらゆる物資が届けられた。そしてその科学者の役目はそこで終わらなかった」

「どういうことだい?」

「まずその科学者は、先に作られたメンテバンクに自分をアップロードしたの。まだメンテバンクの研究は完全ではなかったから、半分は賭けのようなものだったわ」

「どうしてそんなことを」

「彼は、すでに寿命が決まっていたの」

「どういうことだい? 彼もウィルスに侵されていたのかい?」

「いいえ、彼は戦争が始まる前から癌と戦っていたの。反重力理論を完成させたとき、彼の寿命はもうすでにあと一年と言われていたわ。けれど彼にはまだまだ続けるべき研究が残っていた」

「続けるべき研究?」

「ええ。彼は自分の研究していた反重力理論を使って、後に宇宙船のワープ航法、またそれを応用した転送装置を開発することになる」





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