6
「ねえソフィ、どうしてリナは、生きたいと願う想いを見出そうなんて考えたのだろう」
「たぶん、私の話のせいね」
「ソフィの話?」
「ええ。私の旅の話よ」
「旅の話? ソフィは、旅をしたのかい?」
「ええそうよ。とてもたくさんの旅をしたわ」
「そう言えば僕はまだ、ソフィのことをよく知らないな。よければ僕にも、その旅の話を聞かせてくれないか?」
「ええもちろん。私はかまわないわ」そう言ってソフィは、リナに話したミルとの旅の話をショウに話し始めた。
ソフィの話に夢中になり、気が付くと夜明けになっていた。
薄いブルーの空気が辺りを包み、朝靄の立ち込める幻想的な風景が広がっていた。
ショウは明るくなると、ソフィの後ろ姿を探した。
そしていつもの場所にソフィがいることを確認すると、安堵した。
「リナにした旅の話はここまでよ」
「それはとても静かで悲しい話に思えるよ」
「ええ、そうね。静かで悲しい話だわ」
「リナはいったい、その話をどんなふうに受け止めたのだろう」
「残念だけれど、その質問はしなかったわ」
「ソフィなりに、どう思う?」
「私なりに……、そうね、リナはある意味、自分の属するべき世界を私の話の中に見つけたのではないかしら」
「ソフィとミルの、悲しい旅の話の中に?」
「そうよ。リナにとっては、今の自分に悲しみさえ存在しないことが耐えられなかったんじゃないかしら」
「悲しみさえ存在しないことが耐えられない、か……」なぜだかソフィのその言葉に、ショウは心を揺さぶられるのを感じた。
なぜだろう。
ショウはリナのその想いに沈んでみたいと言う衝動にかられた。
なぜだろう。
リナと言う少女にではなく、リナの胸の中に芽生えた未熟な憧憬の念に思慕をつのらせた。
なぜだろう、なぜだろう、なぜだろう……。
リナに少しでも近づきたくて、目を閉じ、ソフィとミルが過ごした寒くて悲しい旅の日々を胸の奥に思い描いた。
吸い込むたびに肺が凍り付きそうなる空気、飢餓と心を失いそうになるほどの疲労、希望のない旅路……。
救いのないその話に、リナはいったいどうやって「生」を見出そうとしたのか。
わからない。
わからない。
わからない……。
わからないのだけれど、リナの想いに近づこうとすればするほど、胸の奥に芯のようなものができて、それが呼吸を止めるほどに疼くのだ。
気が付くと、ショウは眠っていた。
酷く疲れる夢を見ていたのだけれど、内容は何も覚えてはいなかった。
目を覚ました時には、辺りはもう薄暗かった。
部屋の調光のせいで暗く感じるのだと最初思ったのだけれど、どこを探しても太陽はもう見当たらなかった。
目を覚ましたショウに気づくと、ジーニャが冷たい飲み物を持ってきてくれた。
「ありがとう」そう言ってショウはそれを一気に飲み干した。
「ああ、ジーニャ、こんなに寝てしまうなんて」
「あまり体によくありませんよ」
「明け方までソフィと話をしていたんだ。それから……」
「それから?」
「いや、それからは、プライベートなことなんだ」
「プライベート?」
「ああ、そうなんだ。心の中で、とてもデリケートなことを考えていたんだ」
「年頃の男の子にはよくあることです。詮索はしないので心配いりません」
「あ、いや、そういう事じゃないんだ」
「かまいません」
ショウは肩をすくめてあきらめた。