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「ねえ、ジーニャ。あれが見える?」ショウは部屋の前に流れる大きな川の岸辺に、何かが引っかかっているのを見つけて言った。

「ええ、見えますよ」

「あれって、アンドロイドじゃないかな」

「アンドロイドはあんなに小さくありません」

「でもほら見て? やっぱりあれはそうだよ、アンドロイドだ。あそこに見えるのはほら、腕だよ。向こうを向いているからわからないけど、その上にあるのが頭だ」

「そう言えばそうですが、やはりアンドロイドではありません。私は製造されたすべてのアンドロイドを知っていますが、あんなに小さなものは知りません。それに川に流されることを期待されるようなアンドロイドはありません」

「でも……、じゃあ、あれは何だと思うの?」

「私には、わかりません」

いや、あれはきっと、アンドロイドだ……。ショウは声に出さず、心の中で確信した。


ショウの暮らす部屋は、大きな川のほとりにあった。川の幅は十二メートルほどもあり、川向こうの岸は森になっていた。時折その森の中に鹿や熊を見つけることができたが、川を渡ってショウの部屋にたどり着こうとする者はいなかった。ショウは今年で十五になる。旅や冒険をするのが好きだった。と言っても、部屋の外に出ることはできないので、フィグツリーを使って疑似体験の旅をした。雪山の過酷な登山から、南の島のリゾート地まで、様々な場所に行った。一番のお気に入りは、カナダでのキャンプ旅行だった。誰もいない森の中を何日も独りで旅をした。凍えるような夜には薪を拾い集め、焚き火をした。雪に湿気た薪はなかなか火が付かず、やっとの思いで火をつけると、もくもくと白い煙が上がって咳き込んだ。夜中にあまりの寒さに目を覚ますと、焚き火が消えていることに気が付いた。空を見上げると、満天の星が輝いていた。朝靄の中、巨大なヘラジカと出くわしたこともある。木々の間から、ぬーっと顔を出したヘラジカは、黒い毛皮に覆われていて、まるで雪男のようだった。


「ねえジーニャ、ラリーを呼んでよ。話がしたいんだ」

「ええ、もちろん。かまいません」ジーニャはそう答えると、部屋のホログラム装置を作動させ、ラリーを呼んだ。

「Alles klar! 」と言って、部屋の真ん中に縮小サイズのラリーが現れた。

「やあ、ラリー、久しぶり」

「や、やあ、今日は was ist los?」

「ちょっと聞きたいことがあったんだ。それよりラリー、今はドイツの子供とでも話しているのかい? なんだかドイツ語が混じっているようだけれど」

「あ、ああ、すまん、Warte,  ちょ……、ちょっと調整する……」

「ああ、待つよ」

そう言ってラリーは何やら頭の中のスイッチを調整しているようだった。

「ああ、ああ、これでいい。どうだ? もう大丈夫だろう?」

「うん、大丈夫みたいだ」

「そうだ。いまちょうど、ドイツ人の男の子と話をしていたところだ。すぐに混線してしまう」

「仕方ないよ。そりゃ同時に何人ものいろんな国の子供たちと話しているんだからね」

「まあ、そう言って許してもらえるのはありがたいな。で、今日はどうしたんだい?」

「ああ、そうそう。ラリー、あの川が見えるかい?」

「川?」

「うん。部屋の前に流れている川さ」

「ちょっと待ってくれ。部屋の屋外カメラにアクセスするから」そう言ってまたラリーは頭の中のスイッチを調整しているようだった。「これでよし。うん、見える。見えるぞ、川だ。確かに川だ」

「その川の途中、部屋から十メートルくらいのところにある岩に、何かが引っかかっているのが見えるかい?」

「何かが? あーーー、そうだな。見える。確かに見える。何かが引っかかっている」

「あれは何だと思う? 僕にはアンドロイドに見えるんだけど、ジーニャは違うって言うんだ。ラリーならわかるかと思ってね」

「ありゃ、たぶん、うん。ソフィじゃな」

「ソフィ? なんだいそれ? 名前かい?」

「ああ、名前だ」

「じゃあ、やっぱりアンドロイドなんだね?」

「いや、違う。人形だ」

「人形? 何だい、それ?」

「玩具じゃよ、子供が遊ぶ道具だ。人間に似せて作られたね。かなり古いものだ。アンドロイドなんかより、ずっとずっと昔に作られたものだ」

「そんなものがどうしてあんなところにあるんだい?」

「たぶん、そうじゃな、前の持ち主が、部屋から出たと聞いた。その子が持って出たんだろ。確かにこの川の上流にある森に住んでいた」

「なんだかすごく興味深い話だね」そう言ってショウは目を輝かせた。



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