第二章 VSバーン・ライオン 3
「スリー、ツー、ワン……」
「ゴー・スマッシュ!」
二ラウンド目の戦いが始まった。タイキがこれに勝利しなければ、勝敗が決してしまう。
後がないというのに、スマッシュ・インは最悪なものだった。手からすっぽ抜けたように弧を描いて、十分な力を発揮できない投擲だった。
「やる気あるのか? 遊んでるんじゃねえんだぜ」
案の定、ジャンヌはうまく戦えていなかった。防御に精一杯で攻めに転じられない。スマッシュイン・の精度がそのまま戦いに反映されている。
「くそ……俺が負けるのか? 俺のせいで、負けるのか……?」
獅子に嬲られ続けるジャンヌを見守ることしかできないことが悔しい。
オーダー・ノブナガーだったら。
あのメンコンならばこんな窮地はない。手によくなじみ、癖も完璧に把握していたあのメンコンだったならば凡ミスは起こらない。何より長く共に戦ってきた相棒への信頼は厚い。
しかしあの武人はもう……。
「タイキくん!」
大声にはっとして顔を上げる。
ジャンヌは笑っていた。
どんなに傷ついてもどんなにボロボロでも輝きは失われない。
ジャンヌ・ザ・ライトニングという輝きは戦場で光を放っていた。
「そうだ……ここにあるのはオーダー・ノブナガーじゃない。ジャンヌ・ザ・ライトニングなんだ」
メングローブをそっと撫でる。ヒーロー・サークルの丸い形は同じでも、全く別のメンコンだ。
今の相棒はジャンヌ・ザ・ライトニング。タイキと絆を結ぶ戦友なのは彼女なのだ。
「うおおおおおおおお!」
タイキが吠えた。
一瞬の静寂の後、キャップを深くかぶる。
「すまなかった。俺は心のどこかでお前を信じきれていなかった。今まで一緒に戦ってきたオーダー・ノブナガーのことを重ねていたんだ。でも気付いた。ノブナガーはノブナガー、ジャンヌはジャンヌだって。あいつとの思い出は胸の中に、お前とはこれから戦っていくんだ。……ここからが本番だ、ジャンヌ。思いっきり行くぞ!」
「うん!」
聖女の体に今までとは違う活力がみなぎる。メンカーと心が通じ合うことで、今出せる力を十二分に発揮できるようになったのだ。
「でやあああッ!」
飛びかかる獅子の下を滑りぬけ、背面に回る。そして必殺の一撃を放つべく、剣に雷の力をまとわせた。
「いけえ、《ライトニングスピード・ボルテックス》!」
激しい雷鳴が轟き、斬撃が雷の雨となる。高速で繰り出される聖なる剣が巨大な獅子を瞬く間に切り刻む。
「ガァルフウウ……」
全ての攻撃を受け、さすがの炎の獅子といえども力尽き、横たわる。
バーン・ライオンのメンコンがリングアウトした。
「はあ……はあ……」
勝利に喜ぶよりも、全身にかかる鈍い痛みに呻いた。戦いのダメージは想像よりも過酷だった。彼女のパートナーとして戦い続けるのは一筋縄ではいかない。タイキの手が震えた。
メンコンの力を引き出せるかどうかはメンカーの腕にかかっている。彼女のパワーにタイキは応えることができるのだろうか。
同時に理解もする。まだ完全にジャンヌの力を引き出せていないと。メネルギーが足りていないせいなのかタイキの力量が足りていないのかはわからない。だが、もしもパーフェクトな力を発揮することができるならば。
「へへっ。こんな痛みくらい、わけないぜ。このまま勝つぞ、ジャンヌ!」
一勝一敗の戦いはいよいよ最終局面を迎える。スリーポイント・バトル・ルールに則り、次の一戦で勝敗が決まるのだ。