第二章 VSバーン・ライオン 1
「これはなかなか……」
「ヤスト見てみろ。この衣装、初めて見たよ」
「海外の大会のやつだな。映像があまり出回らなかったからレアモノだと言えよう」
「こっちのロケ地、県立運動公園じゃないか? 見覚えあるぜ。あそこのところだろ?」
「リンリンちゃんはこの辺が地元だっていう噂だ。初期の頃はこの県内を中心に活動していたそうだな」
一ページめくるごとに息を飲み、手を止めて食い入るようにグラビアを眺める。ようやく手に入れたお宝を前に、二人のテンションは静かに燃え上がる。
無事に結城リンリン写真集を手に入れた彼らは寄り道もせず、まっすぐにタイキの家へと向かった。
タイキの部屋は勉強机がひとつとキャビネット、ベッドが設えてある。壁にはプロのメンカーのポスターが煩雑に並び、部屋の一角にはひっそりと結城リンリンのグッズが集まっていた。
カーペットの上に写真集を広げ、開封の儀は進行する。
「………………」
それをジャンヌは最初の内は興味深く眺めていた。すぐに飽きるとベッドに座り、所在なく自分の赤髪を梳いていた。
「やべえなこれ。すごくやばい」
「ああ。特に目を引くのは豊満な胸だ。プロフィールによると俺たちと同い年らしいが、本当に小学生なのか疑わしい」
「この胸にスマッシュ・インしたい……」
礼賛の言葉は尽きることなくとめどなく溢れる。彼らの情熱は迸り、グラビアの一枚一枚に注がれる。
「そんなにいいの? ランランちゃんって」
「リンリンちゃんだ二度と間違えるな」
ものすごい剣幕でヤストは訂正した。
「いいかジャンヌ。リンリンちゃんは俺たちメンカーの、いやさ人類の妹なんだ。可愛いだけじゃなく歌も踊りも抜群。そしてメンスマッシュも強い。大人の大会に参加しても十分通用するレベルなんだ。守ってあげたいが俺たちが守るまでもなく強いんだよ。むしろ守られたい……! それがメンコアイドル、結城リンリンちゃんなんだ」
タイキは熱く語った。
「妹より強い兄など存在しない……」
ヤストはそう締めた。
「ふうん」
ジャンヌは感心したように、あるいは初めから聞く気がなかったかのように相槌を打った。
「リンリンちゃんならきっと、さっきの仮面野郎なんか蹴散らしてくれるよな」
「……いや、それはどうだろう」
直接戦ったからこそあのメンカーの恐ろしさは身に染みて理解している。本物のメンモンとの戦いでは並のメンカーでは歯が立たない。タイキ自身、もう一度対峙した時に膝の震えを止められる自信はない。
「リンリンちゃんだろうともあのメンモンの前では勝てる見込みはないに等しい。だが、俺は兄貴のことを知るあいつにもう一度会わなきゃならないんだ」
「タイキくんにはお兄さんがいるの?」
「ああ」
被っていたキャップを取り、壁にかかったコルクボードに目を移す。いくつもの写真が飾られた中の一枚に、タイキと肩を組んでいる少年の姿があった。
「番星ヒビキ。俺の……尊敬する兄貴だ」
ボードの写真は兄弟で映る写真が多く、仲の良い兄弟であることがうかがい知れる。
タイキよりも背が高くスラっとした体型ながらも弱弱しさのない体つき。小学生を超えし者、中学生。
「ヒビキ……」
ジャンヌはそのその写真に釘付けになった。
番星ヒビキという少年が気にかかる。何も覚えていない彼女の胸の内に、ざわざわとした感覚がこみ上げてくる。
「私、知っているような……」
「な、なんだと、それは本当か? どこで会った? 兄貴は今どこにいる?」
「ちょっと待って。初めて見た気がしないっていうだけだよ。デジャヴって奴かな?」
「紛らわしいなジャンヌねーちゃん。まあ、タイキとヒビキにーちゃんは似てるからな。そう思うのも無理はねえぜ」
ヤストはため息をついた。
タイキは写真の一枚を手に取り、言う。
「兄貴はしばらく前から行方不明なんだ。家に帰ってこないし学校にも行っていないという。小さなことでもいいから情報が欲しいんだ」
いつも一緒に居て、常にタイキの先を行く理想の兄。優しさ、強さを兼ね揃えた、あこがれの存在だった。無事であることは疑ってないが、姿をくらませた理由が知りたい。
「じゃあバトルしかないね」
「……なんだって?」
唐突に言い出す彼女に不安を覚えずにいられなかった。呆れた気配を感じ取りジャンヌは続ける。
「私の記憶を確かめるにはバトルするしかないってこと」
「言ってることが変わんねえぞ。戦いたいだけじゃねえか?」
憤るヤストを手で制し、続きを促す。
「私の記憶がないのは戦いによって力を失っているからなの。だから力を取り戻せば記憶も蘇るはず。回復するためにはバトルが必要なのよ」
「戦って回復するのか?」
「異世界からやってきた私たちメンモンは、メンコンが裏返ることによって発生するエネルギー、メネルギーを活力とするの。そのエネルギーを手に入れるためにバトルするということよ」
「変なの食ってんな、メンモンってのは」
「それが本当なら早速バトルしようぜ。ヤスト、わざと負けてくれよ」
「マジかよ……」
うきうき笑顔になったタイキにヤストは反論する勇気が持てなかった。