第一章ジャンヌ・ザ・ライトニング 5
「どうやら俺の勝利のようだな」
仮面の男は高らかに言う。
「なんだと! ま、まだ俺は戦える! まだ勝負は決まっちゃいない!」
「貴様のメングローブを見てみるがいい」
言われるまま、メングローブに目を遣る。そして目を見開いた。
「そんな……ッ」
オーダー・ノブナガーのメンコンが粉々になっていた。イエロー・キングの攻撃は、実部にのメンコンを破壊したのだ。元通りの円形に修復することは不可能なほどに。
「う……うわああッ! お、俺のオーダー・ノブナガーが……」
グローブからこぼれ落ちた残骸にすがるタイキ。哀れなその姿を、非常なるザ・マスクは嘲笑う。
「貴様は所詮その程度のメンカーなんだよ。身の程を知らずが、このザ・マスクに敵うなどとつけ上がるな」
「お前は一体……何なんだ。どうして俺たちを襲うんだ」
「答える義理はない。だがあえて答えよう。恨み、憎しみ……だ。番星タイキ、そして番星ヒビキを抹殺するためだ!」
「兄貴のことも知ってるのか!? お前は一体……」
「知りたければ俺に勝つがいい。お前が勝てば教えてやろう。さあ、番星タイキよ! 戦う意思があるのならば立て! もっとも、壊れたメンコンの代わりがあるのならな!」
タイキは悔しさのあまり歯を食いしばる。オーダー・ノブナガーは唯一にして至高の愛機。それが失われた今、目の前が真っ白になりそうな喪失感と屈辱に苛まれている。
「俺は力が欲しい……。力があれば……。奴をぶっ倒す力があればッ!」
「見苦しいぞ! 貴様は負けたのだ。認めるがいい。負け犬が何をほざいても無駄なのだと。だがバトルは止まらない。この最後の一撃でお前の全てを終わらせてやる。行くぞ、我が王の攻撃を喰らえッ!」
それはフィールドではなく、タイキを直接狙ったスマッシュ・インだった。回転するイエロー・キングの星形のフレームは風を切り、一直線に飛んでくる。
普通、ただの映像が当たろうが怪我をすることはあり得ない。だがこのバトルは普通ではない。ザ・マスクのスマッシュ・インには意図があるに違いない。命を脅かす危険な考えが隠されているはずだ。
「な、なんだとッ!?」
タイキは見た。イエロー・キングの高速回転が、背の高い雑草を刈り取る瞬間を。人体に触れれば間違いなく皮膚を裂き肉を抉り、骨を断つ。
しかしタイキに身を守る術はない。王の禍々しきメンコンから逃れる術はない。魔の手を受け入れるしかないのか。
「く、くそーッ!」
その叫びは空からの轟音によってかき消された。
唐突に天を割って雷鳴が轟き、タイキのメングローブに雷光が突き刺さった。
メンカーとしての直感で、グローブに漂う光に手を入れる。本能が、戦士としての勘が、光のあるべき姿を想起させる。
(優しい光。……これはメンコンだ)
丸いフレームの手触り。傑面界ヒーロー・サークルの象徴たる円系はタイキを救う英雄となるのか。
「なんでもいい。俺に力を貸してくれ……。その力で奴を打ち砕けええ!!」
迸る稲妻とともにスマッシュ・インを決める。火花を散らしながらメンコン同士が空中で衝突し、激しいスパークが空間を白く染め上げた。
「あなたが邪悪からの解放を望むのなら、私が盾となりましょう。あなたが邪悪を打ち払う力を求めるのなら、私が剣となりましょう。あなたが望むのなら――ともに戦いましょう」
凛とした少女の声。
白煙の中に煌めくのは、白銀の鎧。
風にたなびく金色の髪。
精悍な顔つきは戦場に生きる、勇ましき戦士のそれだった。
閃光に浮かび上がる彼女の姿に、タイキは目を奪われた。
やがてまばゆい光が収束し、視界が晴れていく。徐々に裏路地の風景が目に入ってくる。
タイキは息を飲んだ。夢や幻ではなく、目の前にその少女はいた。美しく、気高い後ろ姿は実際の体躯よりも何倍も大きく見える。敵に立ち向かう鋼の意志がオーラとなって、彼女の体を巨大に見せていた。