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第一章ジャンヌ・ザ・ライトニング 4

「リンリンちゃんの写真集か。どんな写真があるんだろうなー」

「全国ツアーの時の衣装、可愛かったよな。あの時の動画、何度も見返しちまったぜ」

「俺だってスクショ撮りまくっちゃったよ。小学生のお小遣いじゃ、ボックスには手が届かない。ヤストはいいよな。自分ちのお店でお手伝いすればお小遣いがもらえるんだろ?」

「それがよ、そううまくはいかねえんだ。小学生の分際でバイトなんかさせるかって、何時間お手伝いしても一日五十円しか貰えないんだ。六年生になれば六十円にアップしてくれるっていうけどよ、今の時代じゃ買い食いもできねえよな……」

「いざという時は俺もやらせてもらおうと思ったけど、うまくはないな……」

「うちのお好み焼きがまずいって!?」

「んなこと言ってねーよ……」


 坂を降り階段を飛び越え、道行く人の間をするすると抜ける。一度飛び出した小学生に、障害物など無きに等しい。


「なあタイキ。路地裏を突っ切って行こうぜ」

 ヤストが提案したのは、学校から本屋地への最短ルートだった。

「魚屋の横のか? でもあそこは通っちゃダメって言われてるだろう」

 老舗鮮魚店の横に狭い路地が伸びている。近くの住人も滅多に足を踏み入れず、野生の動物が我が物顔で闊歩している。脇を通る水路に子供が転落した事故があったため、その路地を子供に通らせないよう学校から指導がされている。

「今は緊急時だ。きっと先生達も見逃してくれるさ」

「そうだな!」


 鮮魚店のおじさんに見つからないようこっそりと路地に入る。今の時間は魚屋に人気がなかったので見つかる心配はなかった。


 二人で手を広げれば塞がる広さの路地裏は、まだ太陽が高い位置にあるにもかかわらず夕暮れのように暗かった。風通しが悪くじめじめしているので、至る所が苔むしている。ろくに手入れされていない雑草はタイキの膝くらいの高さまで成長している。長い間人の手が入っていないことがわかる。暗がりで光ったものは猫の目だろう。ここは本当に慣れ親しんだ金畑市の一部なのかと疑いたくなるほど現実離れをしていた。


「うへえ、想像以上に暗いところだな。さっさと通り抜けようぜ」

 ヤストは腹回りの大きさに合わない小さな肝っ玉で、おどおどしながら進む。ここを抜ければ本屋はもうすぐだ。


「なんだ、あいつ」


 タイキは反対側からやってくる人影に気づいた。人通りは稀といえども、通行できないわけではないからおかしくはない。だがその人物の格好がおかしかった。


 薄暗い路地でもはっきりと見て取れる、金色のマント。顔の半分が隠れる、棘のような突起がついた歪な形のマスクが銀色に光る。あからさまに異端な人間がいた。


 その人物が、立ち尽している二人の前で止まった。


「番星タイキ。……俺と戦え!」

 声変りが始まってない少年の声だった。身長はタイキよりも高いが、歳はさほど離れていないようだった。


「お前、何者だ? なぜ俺の名前を知っている」

「我が名はザ・マスク。貴様を深淵の彼方へと叩き落とす者だ!」


 ザ・マスクと名乗った少年は右腕を上げる。腕にはメングローブが付けられていた。


「タイキ、奴はメンカーだ! お前と戦う気だぞ!」


 ザ・マスクがグローブを起動させると、立体ディスプレイが浮かぶ。バトルの意思表示だ。彼はここを通さないつもりだ。


「俺のイエロー・キングが貴様の魂を食らってやろう」

 禍々しい星形のメンコンは怪面界コズミック・スターの象徴。宇宙の深淵より来たる、未知の侵略者。

 メンコンをセットすると、メンブレムに描かれたメンモンが映像として投影される。ザ・マスクと同じような黄色のローブで全身を覆い、青白い磁器を思わせる仮面は素顔を隠している。全身から滲み出る威厳はキングの名にふさわしい面妖さを放っていた。


「くうっ……」

 ただの立体映像のはずが、肌を突き刺すプレッシャーはリアルと変わらない。


「オレたちはこんなところで足止めされるわけにはいかねえ。オレがぶっ倒してやる」

 ヤストはメングローブを着けるとバーン・ライオンをセットする。

 炎のたてがみを持つ獅子が火の粉をまき散らして姿を現した。


「よかろう。まずはお前から葬ってくれる」


 互いのグローブが対戦相手を感知し、バトルをセットアップする。二人の手にメンコンのソリッド・ビジョンが反映された。


「スカーアウト・ルール!」

「スリーポイント・バトル!」


 ヤストとザ・マスクの間に赤い円形のフィールドが現れた。公式大会でも採用されるスリーポイント・ルールでは先に二勝した方の勝利となる決闘形式だ。


「スリー、ツー、ワン……」

「ゴー・スマッシュ!」


 同時にメンコンを放つ。狙い通りのポイントにスマッシュ・インするのはメンカーとしての基礎にして極意のひとつ。


 二機のメンコンが激しくぶつかると、連動してメンモン同士の白兵戦が始まる。


 バーン・ライオンのたてがみが炎の渦となってイエロー・キングに襲いかかった。仮面の王は一歩も動けずに灼熱の渦へ取り込まれた。焼き尽くす炎によって、仮面も残らず蒸発するだろう。


「無駄だ」

 ザ・マスクの口がニヤリと歪んだ瞬間、炎の内側から強い風が吹き出し、取り巻く炎がかき消された。

「古よりの呪術の前に、王はいかなる攻撃にも傷つくことはない」


「ならば爪だ!」

 ライオンの鋭い爪が敵を切り裂かんと肉薄する。かすっただけでも肉をこそぎとる威力だ。強靭、凶暴な野生の力は弱き者を駆逐する。


 だが、全く動じることもなくザ・マスクは言う。

「この程度の相手では王が本気を出すまでもない。指先だけで十分だ」


 つい、とイエロー・キングが指を動かす。その軌跡は光の尾を引き、空中に魔法陣のような幾何学的紋章を作り出した。

 陣が完成すると、一層強い光を放った。すると、まるで光に圧し飛ばされたかのようにして獅子の巨躯が弾き飛んだ。


「ぐわああッ!」

それに続いてヤストの体も吹き飛ばされ、数メートル後方へ転がった。


「ヤスト!」

 タイキが慌てて駆け寄り、抱え起こす。


 メンスマッシュは立体映像による戦いで、操るメンカーに危険が及ぶことはない。そのはずなのに、ヤストは負傷していた。


 イエロー・キングの攻撃は現実に影響を及ぼしたのだ。


「まずは俺の一勝だな」

 笑いながら言う。フィールドに残っていたのはイエロー・キングのみ。ルールに従い、ザ・マスクにポイントが入った。


「お前……なんなんだよ」

 目の前の男は普通ではない。理解しがたいおぞましい脅威にタイキは戦慄した。


「言ったはずだ。お前を深淵の彼方へ突き落とすものだと。そいつは戦闘続行不能か? ならば俺の勝利だな」


 腕の中のヤストは痛みに呻くだけで目を開かない。見た目よりもダメージが大きいようだった。


「くそ、俺に代わりに俺が相手だ!」

 オーダー・ノブナガーをメングローブにセットする。武人のビジョンが出現し、相対する。


「フン。代理か。よかろう。だが、貴様は確実に倒させてもらうぞ! スリー、ツー、ワン……」

「ゴー・スマッシュ!」


 ヤストの仇を討つため、渾身の力でスマッシュ・インする。一撃で相手を場外へ押し出す気迫でもって挑みかかる。


「いいスマッシュ・インだ。だが……貴様では王を倒すことはできない。食らうがいい、《フロム・ザ・カルコス》!」


 怪面界コズミック・スターのどこかにあると言われるカルコスでは、常に強烈な風が吹き荒ぶ。イエロー・キングが両手をかざすと、ローブの内側からその激しい風を呼び寄せた。

 荒れ狂う風の暴力がノブナガーを、そしてタイキを襲う。踏ん張ることもできずにタイキの体は空へ舞い上がった。


「ぐうう……うわーッ!」


 地面に叩きつけられ、息が詰まる。

 薄く片目を開けると、フィールドの外に飛んでいったメンコンが消えていくところだった。

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