第一章ジャンヌ・ザ・ライトニング 3
「はあ、写真集?」
「そうだ。今日発売だから、これから買いに行くんだよ」
一日を終え、放課後のチャイムと同時に教室を飛び出そうとする問題児二人組を、ランは引き止めて尋問する。
「あんまり数が出ないらしく、本屋さんで一冊しか予約できなかったんだ。だからその一冊を巡って俺とヤストは戦ったんだ」
「学校でやるんじゃないわよ」
結局、勝敗をじゃんけんで決められた。小学校高学年レベルの高度な読み合いを制したのは番星タイキだった。
「これからソッコーで本屋に行ってゲットしてくるぜ。その後はタイキんちで開封式をやるんだけど、お前も来るか?」
「写真集って結城リンリンのでしょ? ならやめとく」
「なんでだよ! リンリンちゃん可愛いだろう!」
歌って戦える小学生メンコアイドルの結城リンリンは幅広い世代からの人気を得ている。高いルックスと歌唱力、そして何より華麗なメンスマッシュの腕前で人々を虜にしていた。
「いいよな、リンリンちゃん。いつか俺もバトルしてみたいぜ」
「別に私はどうとも思わないわ」
「お前おかしいぞ! リンリンちゃんの良さがわからないなんて人間じゃねえ。メンカーじゃねえ! ゴリラだ!」
憤るヤストをタイキが諌めた。
「待てヤスト。ゴリラかもしれない可能性はさておいて、メンカーじゃないランにはリンリンちゃんの魅力はわかりっこない。仕方ないことなんだ」
「そうか、残念だぜ。オレたちでランを一人前のメンカーにしてあげられればいいんだけど、ゴリラを人間にすることはできない。悔しいけどこいつにはリンリンちゃんの魅力は理解できないままなんだな」
「誰がゴリラか」
肘鉄が無遠慮な男子二人を打った。
「と、とにかく行こうぜヤスト。リンリンちゃんが俺たちを待ってるんだ。じゃあな、ラン!」
ランは、慌てて教室を出て行った二人に手を振って見送った。
彼らの姿が見えなくなると、ぽつりと呟く。
「結城リンリン、ねえ」
そして、腕をそっと撫でた。