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千年に一人レベルの逸材

「六大神霊って世界の風・水・土・火・光・闇を構成してる?」


「そうよ。よく知ってるわね、坊や」


 グレンの言葉にシルフィリアはにこりと微笑み、彼の頭を優しくなでる。

 六大神霊は「創世神話」にも登場する偉大な名前だった。


 厳密には神ではないとされつつ、神と同等とも言われる特別な存在。

 それが六大神霊である。


(え、俺、いきなり神クラスの存在を引き当てたの?)


 さすがにこの展開は想像すらしていなかったとグレンも仰天した。

 しかし、召喚に成功しても契約できるとはかぎらないという文面が頭をよぎって冷静になる。


「えーっと、さすがに契約は無理だよね?」


 グレンは残念そうに聞いた。

 最初は感情を抑えようかと思ったのだが、今の彼は七歳児である。


 感情を上手にコントロールできなくてもいいんじゃないかと思いなおしたのだった。


「いいわよ。あなた、面白そうだから。魔力も私の好みだし」


 そう答えたシルフィリアはそっと彼の右頬にキスをする。


「はい、契約成立ね。ただし私を呼ぶ時は本当に危なくなった時にしなさい? そのほうがあなたのためでもあるわよ?」


「了解」


 グレンは素直にうなずいて、次の問いを放つ。


「召喚魔法はこれが初めてなんだけど、どうすればもっとちょうどいい存在が呼べるかな?」


 今の自分が七歳であることを利用して彼はヒントを求めた。


「初めて!?」


 シルフィリアはぎょっとして叫ぶ。


「そ、そうだけど……」


「うそでしょ。信じらんない」


 美しい少女の姿をした神霊は右手を口に当てて緑の瞳を丸くしている。

 よほど驚いたのだろう。


「そんな驚くことなの?」


「当然じゃん!?」


 グレンのつぶやきにシルフィリアは勢いよく返事して身を乗り出す。


「千年に一人レベルの才能だわよ……まあ私の興味を引いたことは差し引くけどさ」


 じっとグレンの顔を見つめるとニパッと笑う。


「気が変わったわ。私がいろいろと教えてあげる。手取り足取りね」


「え、いいの?」


 グレンがきょとんとする番だった。

 神話にも名前が出てくる強大な存在が教えてくれるなんて、それは何の問題にもならないのだろうか。


「いいのよ。私がルールだから」


 シルフィリアはきっぱりと言い切る。


(神と同等の存在じゃなかったら言えないよな)


 グレンは感心した。

 自分がルールだと臆面もなく言う人物は地球にもいたが、スケールが圧倒的に違う。


「わかった。じゃあさっそく聞きたいんだけど、魔力を増やすコツとかある?」


「魔力を増やすコツ? 私が増やしてあげよっか?」


 質問に想定外の返事がきてグレンは「はっ?」と聞き返す。

 シルフィリアは今度は唇にキスをする。


「私の祝福よ。と言ってもあなたの潜在能力を解放しただけだけどね」


 そう言ってウィンクをした。

 直後、グレンの魔力が一気に増加する。


(今までのが五だとしたら、今は二十くらいか?)


 と彼は直感した。


「魔力量は人並みみたいだけど、修行で増やせるから安心してね」


 シルフィリアはそう言って微笑む。


「うん、六大神霊の修行が楽しみだよ」


 グレンも笑顔で応じた。

 

「まずは魔力の収束からはじめましょうか。指先に集めるのよ」



「ふむふむ」


 グレンはさっそく彼女の説明に従う。


「最初は私が補助をしましょう」


 とシルフィリアは言って魔力の練り方、使い方を教えてくれる。


(人差し指を立ててそこに神経を集中させて、大きな渦がだんだん小さくなっていくイメージか)


 グレンは自分なりに感覚を言語化し頭の中で反すうした。

 

「そうそう。上手よ。飲み込みが早いわね!」


 シルフィリアが笑顔で褒めてくれるのでやる気も出るし、集中力も続く。

 ある程度時間がたつとさすがに疲れてきた。


「ふふふ、休憩しなさい。一日で達人になるのはいくら何でも無理なんだから」


「そうだよね」


 グレンは心地よい感覚に包まれて笑う。

 

(わからなかったことがわかるようになるって感覚は楽しいな)


 まさか異世界に転生して上達する喜びを実感する日が来るとは夢にも思わなかったが。


 そこへメイドに呼ばれたらしい父と長兄がやってくる。


「えっ? 六大神霊? まさか本物?」


 顎が外れんばかりに大きく口を開けていたのは父だった。


「すごい魔力を感じる……グレンすごいね」


 長兄フェリックスは驚きはすぐ消えて、グレンを褒める。


「失礼な人間ね。この国を廃墟にして証明してあげましょうか?」


 シルフィリアが怒りを見せると突風が吹いて父と兄がしりもちをつく。

 手を貸すべき執事とメイドも同様だった。


「ひいいっ」


 圧倒的な迫力にメイドも執事も父もフェリックスも震えあがる。


「やめて、シルフィリア」


 グレンが制止すると荒れる風がやんだ。


(怒りの表現のスケールがデカすぎるだろ)


 と彼は思わざるを得ない。


「ふふ、人に無礼を言われるのも人に制止されるのも久しぶりすぎるわね」


 シルフィリアは笑い出しやがて言った。


「今日のところは帰りましょう。休んだらまた召喚魔法を使ってみなさい。別の子が召喚に応じるかもしれないから」


 笑顔を残して風の六大神霊は姿を消す。


「なんて魔力……なんて神々しさ……」


 グランの父はまだ呆然とした顔でつぶやいた。


「すごいよね。六大神霊様を召喚できたのって建国王陛下以来じゃない?」


 フェリックスは微笑みながらグレンの頭をなでる。


「これじゃ家督をグレンに譲ったほうがいいんじゃないかな?」


「えっ」


 長兄の言葉はグレンにとって意外過ぎた。


「不思議じゃないよ。六大神霊様を召喚できる使い手が当主をしたほうが、きっと家も発展するはず」


「いやダメだ」


 ようやく正気に戻った父が力強く否定する。


「うちはしょせん田舎の男爵家だぞ。グレンをとどめるには小さすぎる。必ず持て余す」


「それもそうですね」


 父の言葉を聞いてフェリックスは考えなおした。


「グレン、君は冒険者になったほうがいいかもしれないね。しがらみが少ないほうがきっといいよ」


「六大神霊様を召喚できるとなると、いいように利用したい奴らはいくらでもわいてくるだろうからな」


 フェリックスは優しく、父は吐き捨てるように言う。


(貴族社会のしがらみとかそんな感じか)


 グレンは想像しただけで頭が痛くなり、こくりとうなずく。

 彼だって厄介ごとはごめんだった。


「できれば成人するまで力は隠しておけ。じゃないと逃げるのが難しくなるぞ」


 と父は言う。

 その真剣なまなざしを見て、グレンはもう一度首を縦にふった。


 厳しい父と優しい長兄のどちらも心から彼を心配している。

 その忠告は真摯に受け止めようと思った。

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