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とっくにあきらめた

「シルフ、迷宮は何階層あるかわかるか?」


「うん? 七階層プラス隠し階層があるみたいね」


 グレンの問いにシルフはさらりと答える。


「ええ!? 七階層よりも下があるの!?」


「そんなこと初耳だわ」


 驚いたのは仲間の三人だ。


「あっ、もしかして言っちゃまずかった?」


 シルフが気まずそうな顔になる。


「いやいいよ、彼女たちは仲間なんだから。教えてくれてありがとう」


 とグレンが言うと彼女は「えへへ」と笑う。

 

「どうする? 行っちゃう? マスターなら勝てる相手よ?」


 なんて彼女が発言し、彼は迷ってしまった。


「いや、でも無理はしないって約束したしなー」


 三人との約束は守りたいし、彼女たちを危険な目にはあわせたくない。

 そんな彼の意思が動いたのはシルフの次の言葉だった。


「私だけで十分って意味よ? 無茶でも何でもないでしょ?」


「そうだな」


 グレンは肯定する。

 実のところシルフは彼が召喚できる存在の中で、特に強いほうではない。


 そんな彼女だけで勝てる相手なら無理でも無茶でもないだろう。


「……何かすごい会話がはじまってる気がするわ」


 とエーファがささやく。


「うん、彼らの感覚ではそうなのでしょうね」


 リーエがこめかみに手を当てながら彼女に応える。


「もう驚くことはないと思ってたんだけどね」


 ジーナが乾いた笑みを浮かべた。


「シルフっていう会話ができるほど強大な精霊を呼んで使役するのが、無理じゃなくて普通なのかあ……」


 三人の声が重なる。

 

「普通の召喚魔法だと、とっておきレベルよね?」


 リーエの言葉にジーナは首肯した。


「ええ。グレンさん以外の人はそうでしょうね」


 グレンはどこまで規格外なのだろうか。

 もう何度目なのかわからないことを三人は考えてしまう。


「マスター、あんなこと言われてるよ?」


「もうとっくにあきらめてるさ。驚かせないのは無理だってな」


 グレンはシルフにそんな返事をする。


「というわけで開き直っていこう。まずはゴリゴリ草だね。どうやって行けばいいんだろうか?」


 彼はシルフに聞かず、仲間たちに聞く。

 冒険者としての知識や経験を教えてほしいといったことを忘れたわけではなかったのだ。


「えっと、第二階層よ。じゃあ私が先導するわね」


 とエーファが言って歩き出し、グレンはその左隣を確保する。

 彼らのあとをリーエとジーナが続く。

 

「あ、罠があるわよ」


 魔法を使っていたジーナが前の行く二人に呼びかける。

 

「お、どこ?」


「グレンさんの左斜め前」


「おっと」


 グレンは避けるようにして歩いた。


「罠探知魔法ってすごいなあ」


「グレンさんに言われても複雑……本気で言ってるんだろうけど」


 グレンに褒められたはずのジーナは困った顔をする。


「精霊なら探知できるのでは?」


 リーエがグレンに疑問をぶつけた。

 

「迷宮の罠は土の精霊のほうが適切かな」


 グレンの答えに、


「『ダンジョンメーカー』が作った迷宮を調べるなら、闇の精霊のほうがいいわよ」


 シルフが訂正する。


「そういうものなのね」


 三人は勉強になると受け入れた。


「それにしても他人が召喚した精霊と会話できるなんて」


 ジーナが感動した様子でシルフを見る。


「普通はできないのか、そう言えば」


 グレンはぽりぽりと頬をかく。

 シルフに会話してもらったほうがパーティーの雰囲気もよくなると判断したのだが、また普通ではないエピソードが増えてしまった。


「いっそ隠さずにいこうかな」


 そっちのほうが気楽だとグレンはにやりと笑う。


「か、隠さず……」


 三人は少しひるんだ顔になる。


「だ、大丈夫かしら?」


 エーファがリーエに聞いた。


「正直もう今さらって気はするわね」

 

 リーエは答える。


「うーん、でもグレンさんのことだからまだまだ出てきそうな予感が……」


 ジーナが首をかしげて指摘し、リーエは黙ってしまう。

 エーファもありえるとうなずく。


「俺が原因だと自覚はあるんだが、それはそうとしてそろそろ探索に戻らないか?」


 グレンの発言で一行は迷宮探索を再開する。

 歩いていくとようやくモンスターが出現した。


 大きな角を持ったネズミ、ホーンラットだ。


「ホーンラットが数匹か」


 それだけ見ればレベルの低い迷宮だと言えるが、決めつけるには速い。

 グレンはそう判断して三人に聞く。


「いつもはどうやって戦う?」


「ジーナに援護してもらいながら私が受け止める感じ」


 エーファがグレンに答えた。

 ホーンラット相手でのセオリーだろう。

 

「私は役目がないので周囲を警戒しますね」


 とリーエが言う。

 必ずしも全員が一度に戦う必要ないのだから当然である。


「俺はどうしようか?」


「私と手分けしてホーンラットを倒すというのはどう?」


 エーファの提案にグレンはうなずく。


「それがいいかな。五匹いるので二匹と三匹かな」


「うっかり五匹倒さないでね」


 とエーファが彼をからかった。


「おっと、気をつけなきゃ」


 しかし彼は真に受ける。

 実際シルフの力を借りれば瞬殺どころかオーバーキルの未来しかない。


「じゃあ私は黙って見てよっか? それだとちょっとはマシでしょう」


 シルフはそう言って見物に回る。


「それでいこうか」


 グレンは受け入れた。


「……精霊の加護だけのグレンさんってどれくらい強いのかしらね?」


 ジーナの小声での問いにリーエが答える。


「今からそれがわかるんじゃない? たぶん相当強いと思うわ」


「同感」


 ジーナは短く言う。

 二人はグレンが実はあまり強くないなんてことは想像していなかった。


 グレンは彼女たちの期待をある意味答えたと言える。

 シルフの加護で身体能力は上昇しているので、ホーンラットが反応できないスピードで動く。


 そして体に帯びている微弱な風を刃に変えて、彼らの体を切断する。


「はやっ!?」


「すごい」


 エーファよりも速いスピードに全員が目を奪われた。

 エーファだけはすぐに気を取り直して自分のノルマを達成しようと奮闘する。


 ホーンラットは角をかざしての体当たりしか攻撃パターンがないため、体当たりを一度かわしてしまえばよい。


 真正面から体当たりされる前にバラバラにしてしまうというグレンの戦い方は、エーファにはまねできないが危なげなく勝つ。


「やはりと言うか、グレンさんが一人でやったほうが速かったわね」

 

 そして彼女は苦笑する。


「それじゃ仲間とは言えないからね」


 グレンは気にするなと笑った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほのぼのしてるなぁ(笑)これがチート系の良さ☆ [一言] チート系嫌いにとっては、割と胸糞な展開なんだろうなぁ…(苦笑) チート系好きなオレにはわからん心境ですが。
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