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Aランク千人分?

「さあ、それぞれ相性のいい子を探してくれ」


 とグレンが呼びかけると、精霊たちは三人の間を飛び交う。

 基本的に精霊たちが選ぶ側で人間は黙って受け入れるしかない。


 ジーナとリーエはもちろん、エーファもその知識はあったようでじっと精霊たちを見守っている。


 やがて三柱の精霊が一人ずつのところに残り、あとの精霊たちは消えてしまう。


「……一人一柱だけだったか」


 グレンは少し残念だった。

 力を貸してくれる精霊たちが多いほど戦力は向上する。


 複数の精霊の加護を受けられれば、彼女たちは飛躍的に強くなれたはずだった。


「何を言ってるの、グレンさん。今まで接点のなかった私たちを気に入ってくれた精霊が一柱でもいるってことがびっくりよ」


 とジーナが言い、リーエが大きくうなずく。


「何となくだけどグレンさんの頼みだからって言ってる気がするのよね。グレンさん、どれだけ精霊に好かれてるの……?」


「そんなことはないと思うけど」


 グレンが首をひねったのは他意はない。

 

(だって六大神霊全部と契約できたわけじゃないからなあ)


 そんなに好かれてるとは思えないと彼は認識している。

 要するにズレまくっているのだった。


「グレンさんすごすぎて感覚がマヒしてるのでは?」

 

 とリーエが遠慮がちに指摘する。


「普通、他人が呼んだ精霊と仲良くなるのは難しいんですよ」


 ジーナがゆっくりと話した。


「それは君たちの素質の問題もあるから」


 グレンはそう弁明する。

 別にうそはついていない。


「とりあえず会話してみて」


「え、どうやって??」


 グレンの言葉に三人はあわてる。

 彼女たちは精霊と会話するノウハウなど持ちあわせているはずもなかった。


「ああ、精霊たちが交信してくれるよ」


 彼が説明すると同時に三人はそれぞれ精霊の声を聞く。

 いずれも可憐な少女のような声だった。


「え、すごい」


「念話なんて初体験です」


 三人はそれぞれの面持ちで感動している。

 心なしか頬が紅潮していた。


 やがて三柱の精霊は姿を消す。


「契約は結べた?」


「はい」


 グレンの問いに三人とも首を縦にふる。


「まさか私たちが精霊と契約できるなんて」


「すべてグレンさんのおかげです」


「本当にありがとうございます」


 三人は感動してかわるがわるグレンの手を握って礼を述べた。

 

「まあここから大変だけどね。精霊の加護を使いこなすのがさ」


 まだ礼を言われる段階ではないとグレンは笑う。


「それでも大きな一歩には違いありません。グレンさんは本当にすばらしいですね」


 リーエが目をうるませながら熱く話す。


「君たちの素質があってこそだ。俺はあくまでもきっかけを作っただけだよ」


「ありがとうございます」


「グレンさんのおかげなんですけど」


「グレンさん本当にすごいですよ」


 グレンに褒められたのがうれしかったのか、三人は恥じらってうつむく。

 遠くで見ていた冒険者たちが舌打ちするが、彼らの耳には届かない。


「精霊に関しては少しずつ練習していくとして、今日のところはどうしようか?」


 グレンが聞くとリーエが返事をする。


「グレンさんさえよければ私たちの援護をお願いできますか? もともと今日も迷宮に行く予定だったので」


「いいよ」


 グレンは即答した。


「先輩たちの行動を実際に目で見るのも勉強になるからね」


 彼は彼女たちを手本として勉強するつもりなのである。


「そういう目で見られるなんて何か恥ずかしいですね」


 とジーナが言った。


「実力だとグレンさんがずっと上なのに」


 エーファもそう言う。

 力が上のグレンに教えるという構図が落ち着かないようだった。


「知識ではみんなのほうが上じゃないか。よろしくお願いします」


 グレンがぺこって頭を下げると、三人は照れくさそうに笑う。


「グレンさんって腰が低いわね」


「あれだけすごいのに全然偉ぶらないところが素敵だし、グレンさんらしいというか」


 エーファとジーナに褒められてグレンも気恥ずかしくなり、頬をかく。


「グレンさんはもう少しご自身の力を自覚なさったほうがいいですよ」


 とリーエに忠告される。

 

「自覚しているつもりなんだが……ありがとう気をつけるよ」


 グレンは苦笑気味に応じた。

 

「心配してくれるリーエは優しいな」


 彼が言うとジーナとエーファが一歩前に出る。


「私たちだって心配です」


「そうですよ」


 グレンは笑いながら二人に言った。


「アピールが可愛いな」


「うっ」


 二人は照れると同時に少しだけ悔しそうな顔になる。


「はは、二人も心配してくれてありがとう」


 彼はからかっているような表情で礼を言う。


「ううう」


「完全に手のひらの上で転がされてるわね」


 二人は勝ち目がないという顔になった。


「グレンさん……末恐ろしい」

 

 とリーエは独り言をつぶやく。

 いいように翻弄されても少しも不愉快にならないどころか、うれしささえ感じてしまう。


 それがグレンの人徳であり、彼女は脱帽した理由だった。

 おそらく本人は無自覚なのだろうし、リーエとしては指摘したくない。


 その理由は彼女も気づいていなかった。


「今日は無理だろうけど、少しずつ精霊を呼んですごしてみようよ。そうすれば強くなれるから」


「精霊召喚ってそんな気軽にできるものではないはずですが」


 何気ないグレンの一言に三人は顔が引きつる。

 

「そうなのか?」


 グレンは本気で首をかしげた。


「……グレンさんは私の推測ですと、Cランク冒険者百人分くらいの魔力がありそうですよね」


 ジーナが真剣な顔をして告げる。


「そうなのか?」


「え、たった百人?」


 前者はグレンで、後者はリーエだ。


「私に判断できる範囲で、という意味よ。グレンさんは全然疲れてないようだから、本当はもっとすごいんでしょうね」


 ジーナの発言にリーエはうなずく。


「Aランク千人分なんて言われても私は信じちゃう」


 エーファは笑って言ったが、ジーナとリーエは笑わなかった。

 本当でもおかしくないからである。


「自分の魔力がどれくらいあるのかなんて、気にしたことはなかったな。そう言えば」


 とグレンがつぶやくとリーエとジーナがギョッとした。


「まさかそんな……」


「召喚魔法は普通の魔法よりも魔力消費が激しいはずじゃ……」


 またまたグレンは彼女たちに衝撃を与えたようである。


(やばいな、俺。ぼろ出しまくりどころか、ぼろ以外出してないレベルじゃん)


 どうしようと思ったが、彼にはどうすることもできない予感がした。

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