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精霊祭り

二階の施設はグレンの予想よりもずっと広かった。


(六畳間が八から十くらいある感じか)


 わら人形やトレーニング用らしき器具が置かれていて、三人の男性が先にトレーニングをしている。


「何からはじめようか?」


 グレンが聞くとリーエが答えた。


「まずグレンさんの近接戦闘を見せてもらえるかしら。疑ってるわけじゃないけど、どれくらいなのか見たいの」


「グレンさんのことだから私よりずっと強かったりして」


 とエーファが苦笑まじりに言う。

 他の二人は笑わず「ありえそう」とつぶやく。


「じゃあ精霊を呼ぶところからだね」


 グレンは言って、該当精霊を呼ぶ。


「エンラ・メディオ・シエロ」


 彼の召喚に応じてシルフィリアと少し似た青い髪の小さな少女が姿を見せる。


「風の中精霊シエロだよ」


 彼の紹介にあわせてシエロは三人にニコリと微笑む。

 幼くも神秘的な美貌の持ち主だった。


「おお~」


 三人からは感嘆の声があがる。


「精霊が契約者以外に反応するのね」


 エーファが感心して言った。


「グレンさんの実力がそれだけすごいのよ。たぶん強い精霊だし」


 ジーナがシエロを見つめながら話す。


「名を持つ精霊は全部強いと聞いたことはありますね」


 リーエもやはりシエロを見て言う。


「まあ近接戦闘をやるために加護をもらうわけだからね。強い精霊じゃないとわりときついよ」


「そうでしたね」


 グレンの説明に三人はてへっと笑った。

 ごまかし笑いも可愛いなと彼は思いつつ、シエロに呼びかける。


「シエロ、エレメンタルクロス」


 グレンの指示にシエロは彼の右肩の上に乗って、彼に加護を与えた。

 うすく光る渦巻に包まれたような状態になったことを、ジーナとリーエは見て取る。


「じゃあ動いて見せるね」


 グレンが床を蹴ると一瞬で施設の端から端まで移動した。


「はやっ!」


「速すぎて見えない」


 最初に反応したのはエーファで、残り後衛二人はまったく認識すらできない。

 彼女たちの前まで戻ってきたグレンはつぶやいた。


「ここちょっと狭いな」


 それが本音だとわかっただけに三人は苦笑する。


「ははは……」


「これ、連携無理じゃない? 私たち、足手まといじゃない?」


 リーエの言葉にエーファがこくりとうなずく。


「グレンさんすごすぎ、強すぎでしょう。仲間いらないんじゃない? てくらいだわよ」


「う、うーん」


 この展開を予想していなかったグレンは困ってしまう。


「私たちが追いつけばいいのよ。ねえグレンさん」


 リーエが言った。

 彼はうなずいたが、ジーナとエーファは目を丸くする。


「相当無理があるんじゃない?」


「グレンさん、何でCランクなのか不思議なんだけど……Aランクでもおかしくないくらいよ」


 二人の主張にリーエは笑顔で答えた。


「そりゃいきなりAランクは無理なんじゃないの?」


 グレンは何気なく言う。

 別に彼は現状に不満を抱いていなかった。


(いきなりAランクだったら悪目立ちするかもしれないからな!)


 Cランクなら目立たないとは思わないが、Aランクよりずっとマシだろう。

 そう考えればオレリーの対応に感謝したいくらいだった。


「まあグレンさんが不満に思ってないなら、私たちが言うことじゃないわね」


 ジーナはそう言って引き下がる。


「問題はグレンさんとの差をどうやって埋めるかだけど……」


 リーエが真剣な顔で考え込む。

 グレンもまた考えたが、すぐにアイデアがひらめく。


「俺が三人を強くすればいいんじゃないかな」


 と提案する。


「えっ!?」


「いくら何でもそれは受け取れませんよ!?」


「私たちが冒険者としての知識を教えることで、お礼代わりになるんですよね?」


 三人ともしてもらうわけにはいかないと主張した。


(律義だなぁ……だからこそ信用できるってことだ)


 グレンは彼女たちの反応を予想していたので説得を試みる。


「その分より多くのリターンをもらえばいいのさ。価値は人それぞれだし、ほしいもの同士を交換できればいいじゃないか」


「たとえば?」


 リーエが興味を持ったように聞き返す。


「近接の技術自体は低いからそれをエーファに教えてもらうとか、魔法は独学なのでジーナに教わるとか、そういったことだよ」


 グレンはさらに伝えると、リーエはうなずいた。


「そういうことでしたらお受けします」


「え、いいの、リーエ?」


 残り二人は彼女にたずねる。


「教わってばかりだと申し訳ないけど、私たちにもできることはあるのだし、私たちが強くなればグレンさんのメリットにつながるわよ」


 彼女の説明にジーナとエーファは納得したようだった。

 そしてリーエは二人に顔を寄せてささやく。


「それに強くなれば長くグレンさんと組めるわよ」


「あ……」


 二人はハッとする。


「ね、いいアイデアでしょう?」


 顔を離して微笑むリーエに二人はもう一度うなずいた。

 そんな話になったと知る由もないグレンはシエロと念話している。


 精霊とコミュニケーションをとるのも強くなるコツだった。


「グレンさん、お待たせしました。話はまとまりました」


 リーエが声をかけるとグレンは三人に向きなおる。


「お願いすることにします」


「よかった」


 グレンはホッとした。

 彼は純粋に好意で申し出たのだが、だからと言って受け入れてもらえるとはかぎらない。


 そう思っていたからである。


「私たちを強くするって具体的にはどうなさるのですか? 召喚魔法を教えていただけるんですか?」


 ジーナが半信半疑という顔でたずねた。

 召喚魔法は教えようとして教えられるものではないと彼女は習っている。


「召喚魔法は無理だけど、相性といい精霊と引き合わせることならできるよ」


 グレンは答えた。


「……えっ?」


 三人は理解できずきょとんとしてしまう。


「やっぱり見せたほうが早いんだな」


 グレンは頭をかき、そして詠唱に入る。


「エンラ・アメット・ウォカーレ・スピリッツ」


 魔力が吹き荒れて彼の呼びかけに応じた数多の精霊たちが出現した。


「え、え、え?」


 展開についていけないエーファは混乱する。


「ま、ま、まさか……」


精霊祭エレメントパレード!?」


 リーエとジーナは知識があったので、グレンが何をやったのか予想できた。

 精霊祭。

 

 各属性の精霊を同時に呼ぶという高等魔法だった。


「小精霊、精霊、中精霊しか呼んでないから厳密には違うな。小規模版って感じかな?」


 グレンはあっけらかんと笑う。

 

「すごすぎるわよ、グレンさん」


「精霊祭って伝説だと思っていたわ」


 リーエとジーナは尊敬の念を込めて彼を見つめる。


(うーん、神霊クラスを呼ばなきゃ大丈夫だろうと思っていたんだが)


 なんか思ってたのと違うとグレンは反省した。

 もっとも同時にある程度はやむを得ないとあきらめる。

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