訓練施設があるらしい
三人娘を宿まで送っていき、グレンは紹介された宿でひと晩を明かした。
「ふう、今日もいい天気だな」
朝食をすませて外に出たグレンは太陽の光を浴びて、気持ちよく背伸びをする。
「グレンさんおはよう」
目の前の宿からリーエが出てきて、彼にあいさつした。
残りの二人もすぐあとから出てくる。
「おはよう。三人とも朝は強いんだな」
彼がそう言えば、
「最初は苦手だったけど、朝起きれないとつらいことが多いからね。慣れちゃった」
とジーナがはにかみ笑いを浮かべた。
残りの二人は彼女に微笑ましい視線を送ってるので、もともと問題なかったらしい。
「グレンさんは平気なの?」
エーファの問いにグレンはうなずく。
「ああ。貧乏貴族の四男に生まれたら、いやでも規則正しい生活が身に着くさ」
ただでさえ負担をかける存在だと周囲が冷たくなりがちなのだ。
その視線をやわらげるためには、規則正しい生活が一番である。
「つらそう」
リーエが同情してくれたが、グレンは笑って否定した。
「兄上たちは優しかったから大して問題じゃなかったぞ」
でなければもっとつらかったことは否定できないが、とつけ加える。
「貴族の兄弟って仲が悪いって思ってたんですが、そうでないケースもあるのですね」
リーエが珍しそうな顔で言った。
「まあ長男の人柄が大きいかな。弟全員に優しくて面倒見がいいから、あの人を敵視するのは無理だろ」
とグレンは返す。
もしかしたら内心快く思ってない兄がいたかもしれない。
そこまではわからないが、いたところで敵意はけっして表には出さないだろうなと彼は思う。
「そんな人がいるのね」
三人はなぜかグレンを見て納得する。
「それより今日はどうする? どこかの迷宮にもぐりに行って連携する?」
とグレンは話を変えようと聞いた。
「連携訓練ならギルドの施設が使えるわよ」
エーファがそう答える。
「え、そうなんだ」
グレンは知らなかったと目を丸くした。
「本当に冒険者になりたてなのね、グレンさん」
「一か月もやれば誰でも覚えることを知らないものね」
『ロングアイランドホワイト』の三人は新鮮な驚きを得たようだ。
「昨日この街に来たばかりだからね」
グレンは苦笑する。
新人っぽく見えないのは褒め言葉なのだろう。
「じゃあ案内してあげる」
エーファがそっと彼の手をとった。
「あっ?」
ジーナが声をあげるが、エーファは知らないフリをしてグレンに微笑む。
「行きましょう」
「お、おう」
グレンは手を払うのも悪い気がしてされるがままになって歩く。
ギルドのドアをエーファが開けるとそこで手を離し、受付嬢に話に行った。
「すみません、『ロングアイランドホワイト』なんですけどメンバーの変更と練習場の使用許可をお願いします」
「はい。メンバーはどうなったのですか?」
顔なじみらしい受付嬢は笑顔で応対する。
「グレンさんが加入します。昨日Cランクの推薦状を持ってきた人です」
エーファが言うと、受付嬢はぎょっとして手を止めた。
そしてエーファと後ろのグレンをかわるがわる見つめる。
「え!? グレンさんが!?」
栗色の髪の受付嬢は叫び、そしてハッと我に返った。
「失礼しました」
謝ったあとでグレンに問いかける。
「『ロングアイランドホワイト』はDランクパーティーです。グレンさんはパーティー用依頼だとDランク以下しか受けられなくなりますがいいのですか?」
受付嬢の真剣な表情に、彼は真剣に答えた。
「ええ。わからないことだらけなので、勉強をしていこうと思って」
その意味で経験のある先輩と組むのは大いにメリットがある。
彼を言葉を聞いて栗色の髪の受付嬢はうなずいた。
「素晴らしい考えです。単に強いだけじゃなくて考え方も素敵ですね」
「いきなりCランクなれる人だからもうちょっと高慢かと思ってた。冷静で現実的な判断を備えていた人なんですね」
他の受付嬢たちの反応もいい。
「グレンさんみたいな人ばかりだったら私たちもちょっとは楽なのにね」
そして苦笑が起こる。
いろんな冒険者がいるせいで彼女たちは苦労しているらしい。
「施設はいいのですが、グレンさんは召喚魔法使いですよね? 前衛と後衛のバランスが悪いのでは? 余計なお世話かもしれませんが」
栗色の髪の受付嬢が指摘する。
本当に彼らのことを心配してくれているようで、グレンは不快にならない。
「余計ではありませんよ。ただ俺は前衛もこなせるので。召喚魔法を使えばね」
と簡単に説明する。
「え!? それってすごくないですか!?」
「前衛ができる召喚魔法使いって初めて聞きましたよ!?」
受付嬢たちが騒然となった。
(そんなにすごいことなのか?)
グレンは首をひねり、教わったのがリアだからと結論付ける。
別に隠すつもりがないことなので気にせず彼は言った。
「ええ。それで施設を借りたいんですが」
「あ、はい。二階です。自由にお使いください」
栗色の髪の受付嬢が教えてくれたので、グレンは礼を言ってその場を動く。
『ロングアイランドホワイト』のメンバーがそのあとを追った。
「グレンさん、言ってよかったの?」
リーエが階段をのぼりながら彼にたずねる。
「前衛をやれることなら別に隠してないからね」
グレンは振り向きもせず答えた。
彼にとって隠したいのはリアや一部の規格外の存在を召喚できることくらいである。
「グレンさん、豪胆だよね」
「うん、カッコいいよね」
三人はひそひそと会話した。
グレンたちがいなくなった一階では受付嬢たちが、グレンの話題で盛り上がっている。
「何と言うかクールな人ね」
「まだ十五くらいのはずなのに落ち着いた物腰よね」
「領主様が気に入ったのも納得だわ」
「それにしても『ロングアイランドホワイト』が男性を入れるなんてね」
意外だったと受付嬢たちは話す。
「グレンさん強くて頼りになりそうだからなぁ」
「わかる。あんな仲間がいたらいいわよね」
「このギルド専属になってくれないかしら」
「あれだけすごかったら王都にだって呼ばれるんじゃない?」
華やかな笑い声が起こる。
それを面白くなさそうに見ている男性冒険者たちがいた。




