ロングアイランドホワイト
グレンたちは近くの酒場へと移動する。
腹ごしらえをしたかったし、お互いのことを教えたかったのだ。
「グレンさん宿はどうしてるんですか?」
とリーエがたずねる。
「ギルドに紹介してもらったんだよ。アテがなくて。相部屋らしいけど」
「グレンさんなら探せばあると思いますよ」
エーファがそう言った。
「そうかな?」
「何なら紹介しましょうか。ギルドのものより高くなりますけど、その分設備がいいですよ」
ジーナが提案してくる。
「え、いいのか? でもすでに取っちゃったからなあ」
キャンセルしてもいいのだろうか。
グレンは前世日本人としてそこが気になってしまう。
「よりいい宿を見つけたらさっさと解約していいんですよ。宿を探せない、探す時間がない人を支援するためのものなんですから」
リーエがクスリと笑った。
「ああ、そうなんだ。じゃああとで解約しようかな。おススメの宿ってどの辺にあるんです?」
「あとで案内しますよー。今はご飯食べましょ」
そう受け流され三人はそれぞれ料理と飲みものを頼む。
グレンもまねしてとりあえずは腹ごしらえをした。
「へえ、グレンさんは元貴族なんですか」
「追い出されて平民になったけどね」
エーファに言われてグレンが自嘲を返すと、二人は首をかしげる。
「あんなにすごいのに家を継げないものなんですか?」
「そうでなくてもお抱え戦力として残れるのでは……」
例外はリーエで何となく察した顔でうなずく。
「大きな家ならともかく、男爵家ならかえって火種になりますからね。グレンさんを守り切る力がないならいっそ手放したほうがいいです。少なくともデメリットは何もなくなります」
少量のメリットと大量のデメリットがくるなら、最初から捨てる。
ファード家の選択をリーエは理解できるようだった。
「貴族って面倒なんだねー」
エーファが苦い顔で言う。
「あなたたち三人はどこ出身? 前からの知り合い?」
グレンは自分の番だとたずねる。
「知り合ったのはこの街に来てからです。私はもともとこの街の神官の両親のもとに生まれました。信者としての修行の一環で迷宮探索をしています」
リーエは最初に話した。
「私は祖父のような格闘家にあこがれて両親の反対を押し切ってこの街に来ました」
エーファがてへっと可愛らしく笑いながら打ち明ける。
「私は偶然村にやってきたお爺さんに魔法使いの素養があるって教えられて、この街の学校に来たんですけどお金がなくて、基礎しか学べなくて……」
ジーナは恥ずかしそうに笑う。
「なるほど、見事にバラバラだね」
「グレンさんは何か目的があってこの街に来たんですか?」
リーエが問いかける。
「いや、領地から一番近くの冒険者ギルドで登録したかったから。あと道わからないし」
グレンの正直な回答に三人は苦笑した。
「おかげで私たちは危ういところ助かったのね。天におわす『慈愛の女神』に感謝いたします」
リーエはまじめな顔になって短く祈りを捧げる。
「大げさだな」
グレンは笑うが自分の現状を考えるとあながち間違っていない気がした。
少なくともシルフィリアの存在は大きすぎる。
「グレンさんはじゃあ特に目的があってこの街にいるわけじゃないのね?」
「まあ稼いで知名度あげたら何か割のいい仕事もらえるかなと思っているけど」
真摯な顔のジーナの問いに対してグレンは適当に答えた。
「欲がないですね。王宮お抱え魔法使いにだってなれそうなんですけど」
ジーナが意外そうに目を丸くしている。
「しがらみ大変そうなんだよね」
グレンが言えばリーエが「あー」と言いたそうな顔になった。
「安定はない分冒険者は自由だからね」
「それはありますね」
エーファとジーナは理解を示す。
「しかし困りましたね。我々はみな特に目標がないのですか。何か目標を作れたらと思うのですけど」
リーエが苦笑ぎみに言った。
「たしかに」
グレンは彼女に同意する。
「ただ、知り合ったばかりだし連携を確認するほうに時間を使ったほうがいいかもしれないな」
「おっしゃるとおりですね」
リーエは彼に賛成した。
「前衛が一人で後衛が三人なのはバランスが悪いかも」
エーファが言うと、グレンが右手をちょっとあげる。
「召喚魔法発動中にかぎれば俺は前衛もやれるよ」
「えっ、本当ですか?」
ジーナがすっとんきょうな声を出す。
他の二人も目を見開いて声を失っている。
「精霊の加護を受ければね」
グレンは簡単に説明したが、すぐに言葉だけでは限界があると気づく。
「精霊魔法ってそんなこともできるんですね。すごい」
「すごいのはグレンさんでしょ?」
エーファをジーナがたしなめる。
「もちろん、グレンさんがすごいのよ」
エーファは笑顔で肯定した。
「精霊の加護……話には聞いたことはあるのですけど」
冷静になったリーエが信じられないという顔つきで言う。
(リアは出さないほうがよさそうだな)
とグレンは彼女たちの表情で判断する。
他の精霊も呼べると知られたら騒ぎになるかもしれないが、神霊だと気づかれるよりはよっぽどマシだ。
当たり前だが神霊の加護は普通の精霊と別次元なのだから。
「もしよかったら明日にでもやって見せようか」
「そ、そうですね。実際にどうやって連携するかをたしかめたいですし」
三人との話はそれで一つ終わった。
次に手をあげたのはジーナだった。
「グレンさんは精霊魔法に特化しているのでは? それだったら複数の精霊を召喚できることも説明できます」
「そういうことだったの」
彼女の意見に仲間二人は納得したと顔を輝かせる。
(ああ、そんな誤解が……)
グレンはどうしようか迷ったが、結局話すことにした。
「いや、他にも召喚はできるよ」
「ええ!?」
「普通そんな許容量は多くないですよ!?」
三人はまたしても驚愕する。
(こうなるのか)
これが普通の反応だと覚えておく必要がありそうだ。
グレンはそう思う。
「グレンさんいったい何者なんですか?」
「実は伝説の大賢者様の再来なのでは?」
気のせいか三人の目がキラキラ輝いていた。
「そんなことないと思うけど」
グレンは謙遜する。
「え、でも、賢者様レベルですごいですよ」
「こんなすごい人見たことがありません」
「領主様の推薦状をお持ちだったと聞きましたけど、納得ですね」
三人はお互いで盛り上がりはじめた。
(まあいいか。慣れも大切だな)
グレンはそう自分に言い聞かせる。
女の子たちにチヤホヤされるのは生まれて初めてなので、どう対応していいのかわからず愛想笑いを浮かべて過ごした。




