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お化け屋敷編その4

富士見の姿を探すがなかなか見つからない。ナースに言われた通りに真っ直ぐに続いている廊下を進んでいく。


歩きながらも周りの様子を伺う。ある程度の感覚ごとに部屋があった。病室だろう。中も気にはなるが、正直怖い。先ほどの真っ赤な服を着た女といい不気味すぎる。いくらお化け屋敷とはいえ怖いものは怖い。


「っていうかなんで1人になんないといけないんだよ」


お化け屋敷を1人で回るだなんて無謀にも程がある。大体こういうのはみんなでキャーキャーワーワー言って楽しむもんじゃないのか。なんだって1人で、なおかつこんなにもクオリティの高い恐怖を味わなければならないんだ。


そんな中、1つ違和感を感じた。


音がする。音、というより声。声だ。


もっと正確に言うと、泣き声。泣き声がする。


なんだってこんな時に泣き声がする。きっと、他の客がびびって泣いてしまったんだろそうだろそうに決まってる。


そんな時だった。


なんだってそんなタイミングで近くのドアが開く?


しかも、そのドアの向こうから泣き声がしないか?


「……………」


しかしその部屋の前を通らないと先には進めない。先に進まないと富士見に追いつけない。


行くしかない。行くしかないんだ。


見なければいい。部屋の中を見るな。その泣き声に惑わされるな。


ただ歩け。歩いて通り過ぎろ。そうすればいいんだ。


行け。そのまま、通り過ぎてしまえ。


「あ…」


そこには1人、少女がうつ伏せて泣いていた。


病室のベッドの上で。まだ小さな少女だ。俺が見た限り、客の中にあんなに小さな子はいなかったはずだ。かといってお化け屋敷の関係者とも思えない。


まさか、幽霊。いや、違う。幽霊とはそういうものじゃない。そんなことわかりきっていた。


「…大丈夫?」


つい、声をかけてしまった。


少女は泣き止むと顔を上げた。


「え…お兄ちゃん、誰?」


少女は俺を見て驚いていた。まるで人を久しぶりに見たかのような雰囲気だった。


「誰って言われても…このお化け屋敷に遊びに来た客だよ」


少女はそう言われるとハッとした。


「お化け屋敷…そうだよ…お姉ちゃんを、助けないと」


「お姉ちゃん?」


「お願い!お姉ちゃんを助けてあげて!私のことはほっといていいから!」


なんだ、なんのことだ。お姉ちゃんって誰のことだ。


そう思っていたが、1つだけ。心当たりがあった。


「まさか…「204号室」に閉じ込められているあの子のことか?」


「それは…わからないけど、とにかく助けてあげて」


そう言うと少女は俺に何かを手渡してきた。


鍵だった。これはなんの鍵だろうか?


「ここから出るための鍵。お兄ちゃんにあげる」


なんだそれは。この鍵がないと出られないのか?だとすればみんなどうやってここから出るというんだ。


しかしそんなことを考えている間もなかった。


突然、遠くから悲鳴が聞こえたのだ。


「っ!!今のはっ!」


わからない。誰の悲鳴かなんて。だけどそれはすぐ近くから聞こえた。なんだか嫌な予感がする。


俺は急いで部屋から飛び出した。勢いで出てしまったが少女のことを置いて来てしまった。さすがにここに置いていくわけにはいかない。そう思って振り返ろうとした。


「は…?」


来た道の方。そこに、ヤツはいた。


肌が真っ白で、目から血の涙を流している。真っ赤な服を着た女が。


「クソッ!!!さすがにしつこすぎるだろ!!」


少女を置いていくのは気がひけるが、すでにどういうわけかドアが閉まってしまっていた。


「ちくしょう!」


俺は逃げた。少し気はひけるが、所詮はお化け屋敷だ。別に死ぬわけでもない。ただの演出なのだ。


それにこの鍵。お姉ちゃんを助けてほしい。


それもおそらくあの「204号室」の子のことだ。つまりはこのお化け屋敷の関係者だったということだ。


まさかあんな幼女まで雇っているなんて。どこまで本気なんだこのお化け屋敷は。


とにかく逃げよう。俺は再び走って逃げた。出来るだけ振り返らないように。


走って走って走った。


これで何度目だ。何回走ればいいんだ。あと何回。どうすれば終われるんだ。


「は…?」


夢中で走り続けていたから気づかなかった。


目の前は行き止まりだった。しかし途中で分岐している道など無かった気もするが…


「っ!!…って大丈夫か?」


俺はゆっくりと振り返る。しかし後ろからヤツは追って来てなかった。なんとか振り切れたようだ。


「くそ…戻るか」


とにかく行き止まりじゃどうしようもない。引き返すしかない。そう思って体の向きを変えた。


その時、あるものが目に入った。


俺の隣にある部屋。そこの部屋の番号。そこにはこう書いてあった。


『204号室』と。


「ここが…」


思わず唾を飲む。ここに最初にテレビに映し出された女の子がいる、ということになる。


俺はドアに手を触れる。


いいのか?本当に。


大丈夫だ。なんてことない。これはただの演出だ。中に入れば女の子がいて、助け出せばいい。そういう演出なんだ。なんの問題もない。


とはいえさすがに緊張はする。心臓の鼓動が早くなるのがわかる。誰かに聞こえてるんじゃないかと思えるほどに。


覚悟を決めろ。ただ開けるだけだ。


そして、ドアを開けた。


「え…?」


ドアを開けるとそこには。


()()()()()()()()


あるのは椅子とテーブル。テーブルの上にはボロボロの犬のぬいぐるみ。そして1つだけロッカーがあった。


すでに誰かに先を越されたのか?そんなことを考えていた。


「おおおお」


来てしまった。再び、現れたのだ。


「おおおおとぉぉぉこぉぉぉぉ…」


ひたひたと足音を立ててこちらに近づいてくる。


「なんだよ、なんで俺ばっかり!」


俺は204号室に入ってドアの鍵を閉めた。勝手にこんなことをしていいのかわからないが…


「クソ…どうすりゃ終われるんだよ」


とにかくここでやり過ごせばヤツはどこかへ去っていくはず。そう信じていた。


だが、希望は一気に砕かれた。


ガンガンガンッ!!!


壁を叩く音が聞こえた。もちろんただの壁じゃない。


ここ、204号室のドアの壁を。


「嘘だろ…嘘だろおい!さすがにおかしいだろこんなの!」


なんでだ。なんでここまで俺に執着する。というかそもそもこれはお化け屋敷だろ?こんな個人を狙ってくるなんて絶対おかしい。


「お、おい!いい加減にしろよ!さすがに悪ふざけがすぎるぞ!!」


俺は叫んだ。だけどヤツはそんな言葉に一切耳を貸さない。


何度も、何度も何度も何度も壁を叩く。


徐々に、ドアがミシミシと音を立てている。


「なんだよ…こんなの…普通じゃない」


そんな時だった。ありえない、あってはならない。そんな絶望的な音声が聞こえた。


『皆さま、お疲れ様でした。見事無事に50人脱出です。またのお越しをお待ちしております』


………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………



なんだ、それは。


50人、脱出だと?


何を言ってるんだ。


まだここに、1人いるじゃないか。


おかしい。おかしい。おかしい。


何もかもがおかしい。


心のどこかで思っていた。これはお化け屋敷だ。そういう演出だ。だから最悪どうとでもなる。助かる。脱出出来る。帰れる。


そういう演出。だから大丈夫だと。


だけど、もしも。


それが演出じゃないとすれば?これは?なんなんだ?


ガンっと音がする。壁を、ドアを叩く音だ。


「ふざけんな…ふざけんな!ちくしょう!まだここに1人いるって言ってるんだ!!」


俺は携帯を取り出す。そして急いで富士見に電話を掛ける。


出ろ。出てくれ。今頼れるのは富士見しかいないんだ。


だというのに、携帯に表示されているのは。


『圏外』


たったそれだけだった。


「ああああああああ!!クソクソクソ!!なんだよこれ!ちくしょう!!こんなの俺にどうしろってんだよ!!」


相手が幽霊ならまだしも、下手をするとそんなもんじゃないかもしれない。そもそも干渉できるかすら怪しい。とにかくここから逃げる方法を探せ。あるいは戦う方法を…!


「ッ!」


俺はロッカーの存在に気づく。もしかしたらこの中に何かあるかもしれない。


そう思ってロッカーを開けようとする。しかし鍵がかかっているのか、なかなか開かない。


「クソ!開かないのかよ!」


何度も何度も開けようと試すがロッカーは開かない。しかしヤツは徐々に迫ってきている。壁を叩く音は止むことがない。


「どうすりゃ…どうすりゃいいんだ…」


こんな時、アイツならどうする?どうやってここを切り抜ける方法を考える?


「あっ…」


ふと、気づいた。鍵。この鍵は…ここから脱出する時に使うと言っていた。


もしかして、このロッカーの中から脱出することができるのではないか?いやそうだ、そうに違いない。


俺は急いで鍵をロッカーに刺す。ピッタシだ。やっぱりこのロッカーから逃げることが出来る。


もう後ろのドアもあと少しで壊れる寸前だ。早く、早く、早く早く早く!!開けて逃げよう。


「ーーー」


ただ、もしも。


もしも。このロッカーの中に、何か。別の何か。そんなものがあったらどうしようか。


ああ、例えばそうだな。


()()()()()()()()()()()()


「あーーー」


ロッカーを開けた。


ドアは壊れた。振り返らないが、後ろにはヤツがいる。


そして、ロッカーの中にはいた。


茶色く染まった、ボロボロになった、傷だらけで、ゴミのようにしまってあった。


()()()()()()()


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」













ガコン。音がした。


視界が真っ暗になった。


落ちている。俺は今、落下している。


どこに?どこに落ちている?ていうか、なぜ落ちている!?


「ゴホッ!!」


何かクッションのようなものにぶつかった。体が何度も跳ねている。そしてようやくおさまってきた。


「お帰りなさい。怪奇谷君」


「…??…?…はい?」


目の前には富士見の姿が。というよりここはどこだ?何だこの部屋は。


「何情けない顔してるのよ。ほら、立って」


富士見に手を差し出されてそれを掴む。そしてそのままわからずに外に連れ出された。


外はいつもの外だった。来遊駅が見える。そして近くを見ると壁がある。つまりは『スリラーホスピタル』の外だ。


「おい、富士見…どういうことだ?」


富士見はニヤニヤしている。俺の顔を見て今にも笑いそうになっている。


「怪奇谷君。あなたはラッキーなのよ。ここのお化け屋敷。50人が定員だって言ったわよね?でもね、たまにあるのよ。5()1()()()()()()()()()


51人目。その数字をどこかで聞いた気がする。


「その51人目の人には特別な演出をするっていうのがこのお化け屋敷の特徴なのよ。まあまさか怪奇谷君が51人目だとは思いもしなかったけれどね」


「は…なんだ、それ。じゃあ、何か?俺だけ狙われてたのって…」


「ま、そういうこと。どう?楽しかった?」


「は、ははっ…なんだなんだよなんなんだよ!そういうことかよ!クソッ!本気でびびっちまったじゃねーか!」


なんだ。ほんとにびっくりした。やはりあれは演出だったのか。


「私は全然怖くなかったわよ。私もそっちを体験したかったわね」


「とんでもねぇ…絶対やめとけ。こんなのリアルすぎてびびるだけだぞ。あそこまでリアルに作るか?普通」


「リアルにってどんなのよ。人間の死体とか?それとも妖怪でも現れたのかしら?幽霊だったら驚くはずないもんね」


「いやいや普通に人間だよ。真っ赤な服を着た女とか、204号室に閉じ込められた女の子とか」


「…?何を言ってるの?」


富士見はなぜか不思議そうに俺を見る。


「何って…」


俺は何となく『スリラーホスピタル』の入り口を見た。俺は最初、入ることが出来ずにもたついていたんだっけ?そしたら店員さんが助けてくれた。そうだった。そのはずだった。


()()()()()()()()()()()()()()()()


そう、いない。いなかったのだ。


これは全て、後から知ったことである。


この『スリラーホスピタル』には受付を含めて中に案内人も驚かす役者もいないという。


案内は全て音声アナウンス。そして地図のみだと。


そして、驚かす方法としては人形や音などで驚かすという。それは通常然り、51人目の特別演出も含めてだ。


では、俺が見た人は何だったのだろう。


受付。204号室の女の子。真っ赤な服を着た女。ナース。泣いていた少女。


これら全てが俺の妄想だったのか、あるいは…

















「ねぇ、こんな噂を知ってるかしら?」


「何でしょう?」


「恐怖の世界を案内する受付人。永遠に脱出出来ない女。男を恨む血の女。見えない患者と話すナース。存在しない姉を待つ妹。これ、全部同じ病院の噂なのよ?」


「何ですか、それ。っていうかなんでそんなこと姫蓮先輩が知ってるんですか?」


「ふふ。この噂の病院を元にしたお化け屋敷が今度出来るのよ。そこに怪奇谷君を連れて行こうと思ってね」


「あー、魁斗先輩以外と怖いのダメですもんね。幽霊には詳しいけど」


「ふふふ。怖がる姿が想像つくわね」


この世界に幽霊はいる。その事実は変わらない。


だけど、もしも仮に。幽霊という存在がいないとしたら、あれはなんだったのだろうかということになる。


幽霊を作っているのは、人間の妄想、思い込みなのかもしれない。








後日、『スリラーホスピタル』は閉館となった。


理由は1つ。中で死人が出たのだ。


詳細は不明。誰も真実を知らない。


死んだのがあの中の誰かなのか、それとも別の誰かなのか。


それは、誰も知ることはないだろう。

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