お化け屋敷編その2
病院内に入ると最初にたどり着いたのは待合室だった。
席は10〜20席ほどあり、ここにいる全員はとてもじゃないが座れなさそうだった。
しかしそもそも座る必要などなかった。というより座れなかったのだ。
待合室は人が50人入ることが出来るぐらいの広さだった。そして左右それぞれに10席ほど席があった。中心は何もなく、そこに俺たちは集まっていた。そして左右それぞれに仕切りがあるため、席に座ることは出来なかったのだ。
「なんでここに仕切りがあるんだ?」
「あら、知らないの?あそこに座った人は次々と体調が悪化していったそうよ。…つまり、呪われた椅子ってわけ」
「なんだよそれ。なんでそんなもん残してんだ」
「嘘よ」
富士見は俺の額にデコピンをする。してやられてしまった。
「そうかよ…だったらこれはなんだよ」
「さあ?そういう仕様なんでしょ。あ、でもこの病院が元々あった本当の病院というのは事実よ」
「いや、そもそもそんな話は初めて聞いたし疑ってないぞ」
「それはそうよ。今話したんだから」
この病院が元々あった本当の病院という情報ももちろん知らなかった。確かにお化け屋敷にしてはクオリティが高すぎるとは思っていた。
すると、再びアナウンスが聞こえてきた。
『皆さま。ここからは2人1組となり、先に進んでいただきます。特に順番は設けておりませんので、自由にお進みください。途中、出口まで記した地図が置いてありますのでご自由にお使いください。それでは皆さま、どうかお気をつけて…』
アナウンスが終わると同時にどこかのドアが開く音がした。待合室の左右それぞれにあるドアだ。つまり右か左、どちらかを選んで進むことが出来るということか。
「2人1組だって。怪奇谷君。あなた組む相手いるのかしら?」
「は?富士見だろ。他に誰がいるんだよ」
「自惚れてるわね。いつ私があなたと組むと言ったのかしら?」
富士見め…とことんいじってくる。
「そういう富士見はどうすんだよ」
「私?私なら適当に声をかければいつでも組むことが出来るわ。でもそうねぇ、超絶美少女であるこの私に免じてあなたと組んであげてもいいけれど?」
「…そうかい。じゃあ頼む」
「ほう…そんな頼み方でいいのかしら?もっと気持ちを込めるべきではないの?」
「…富士見様。姫蓮様。どうかこのわたくしと組んでいただけますでしょうか」
「よろしい」
くそう。俺はいつまでたっても富士見には頭が上がらないのだろうか。
そうこう言ってるうちに他のグループは先に進んでしまったようだ。残されたのは俺たち2人だけだった。
「2人っきりになっちゃったわね。今なら真っ暗だし何しても許されるかもよ」
「何バカなこと言ってんだ。そんなことしたら真っ先に殺されるビジョンが見える」
「そんなどうでもいいこと言ってないでどっちから行くか決めなさい」
「俺はどっちでもいいぞ」
「どっちでもいい?私はね、そういう優柔不断な男が嫌いなのよ。何を迷っているの?右か左。たったの2択じゃない。そんなことも決められないなんて情けない男ね。私の知っているあなたならそんな…」
「うおおい!!右!右から行くぞ!」
俺はビシッと右の方を指差す。
「やるわね。ちょうど右から行きたい気分だったのよ。よくやったわ」
うーむ。褒められているのに何故か嬉しくない。
「さて、行きましょ…ん?」
富士見が突然立ち止まった。
「なんだ?」
特にこれといって何か起きているような雰囲気でもない。何か感じ取ったのか何故か動かない富士見。
ただ、何か音がしているのに気づく。
何かが振動している音だ。それも小刻みに、ずっと。ブー、ブーとその音は徐々に大きくなっていく。段々と大きくなっていく音は、すぐ近くから聞こえる。そして、富士見はポケットから音の出る物体を取り出す。ボタンを押して、こう言った。
「あ、もしもし?」
「電話かよっ!!」
まあ、途中からはそんな気がしてた。あれは携帯のバイブレーションだったのだ。全く…地味な嫌がらせだ。富士見も富士見でわざとらしく止まっただけでなく、携帯を取り出すのを勿体ぶっていた。富士見は地味にああみえて人を驚かすのが好きらしい。
富士見は電話をしながら少しずつ前に進んでいった。俺もそれについて行こうとした時だった。
『こんにちは。スリラーホスピタルへようこそー』
突然、声がした。しかし先ほどの音声とは違うものだ。それに何やら待合室の上部が明るい。
『ここはですねー、今から2年前まで本当の病院だったんです』
上部には大きなテレビが設置されていた。先ほどまで何も映っていなかったのだが、今は何やら画面が映し出されてる。
『ここの病院には色々と噂がありましてねぇ。実は、順番に数えて51番目の人が入院すると…帰れなくなっちゃうのです』
画面には1人の女性が映し出されていた。病院の患者のような格好をした黒髪ロングの女性だった。
『つまり、51人目の患者さん。それから102人目、153人目…このように51数えた患者さんに悲劇が起きるとされていたんです』
なんだそれ。随分とわけのわからない噂だな。そもそもなんで51なんだ。
『実は私もその1人なのです。そこで、皆さんにお願いがあります』
女性はカメラを動かして部屋の様子を映した。
『私はこの「204号室」から出られなくなっています。ここから脱出する際、私のことも見つけて欲しいのです。そして一緒に外に連れ出してください。見事外に連れ出してくれた人には色々な特典がっ…!』
部屋はかなり狭いようだった。椅子とテーブルがある。テーブルの上にはボロボロの犬のぬいぐるみが置いてあった。それだけだった。
『それでは皆さん。私を助けてくださいねー。期待してますよー』
テレビの画面は消えた。こんなイベントもあるのか。もちろんそんなことも知らなかった。富士見も当然知っているのだろう。そんなこと一言も言っていなかったが。
「…」
しかしなんで今流れたのだろうか。もう少し早く流すべきではないのだろうか。そうでないと知らない人は今の情報を得られないではないか。単純にミスなのか。それともあえてそうしているのかもしれない。
「そうね、今度はテニスで勝負よ。それじゃあ」
富士見の電話が終わったようだ。俺の方を一度だけ見るとそのまま先に進んでしまった。
「っておい!置いてくなよ!」
彼女を追いかける。後を追って俺も先へと進んでいった。