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お化け屋敷編その1

とある夏の日。


蒸し暑い日が続く。


それと同時に気持ちのいい涼しい風も吹いている。


夏はあまり好きではないが、今日はなんだかいい日になりそうな気がする。


そんなことを考えながら、俺…怪奇谷魁斗(かいきやかいと)は約束の場所へ向けて歩いていく。


暑い。とにかく暑い。風は涼しいのだがどうにも日差しが強い。これではすぐに喉が乾いてしまう。


そんな時に目に入ったのは1つの自動販売機。俺はすぐにラインナップを確認した。そこにある1つの商品を購入する。


『Gエナジー』。それが俺の好むエナジードリンクだ。


早速それを一気に喉に通す。


「うめぇ!!やっぱりこれだよなー」


誰も聞いていないのにそんなことを1人呟く。


さて。喉も潤ったし目的地へと急ぐとしよう。


現在時刻は午後の1時前。昼は家で食べてきた。俺としては一緒に食べたかったのだが、アイツがそう言うからには仕方ない。


アイツ、とはこれから俺が会う人物のことだ。


「おっ」


ちょうどいいタイミングだ。目的地へとたどり着くと同時にその人物も姿を現わす。


短めの黒髪。背は俺よりは少し低いぐらいで、それなりに大きなものが胸あたりで目立っている。今日は白のノースリーブを着ている。暑いからわかるが、少しそれだけでは露出が多いのではないかと思う。


富士見姫蓮(ふじみきれん)。それが目の前の少女の名前だ。


「あら。怪奇谷君じゃない。どうしたのこんなところで、奇遇ね」


富士見はニヤニヤしながら俺を見る。彼女の身体からは汗が出ている。ついまじまじと見てしまう。


「どうもこうもあるか。呼び出したのは富士見だろ」


俺は富士見に呼ばれてここへやって来たのだ。


ここ、とはどこのことか。すなわちこのことだ。


「これ。『スリラーホスピタル』のチケットだろ?」


俺はカバンから1枚のチケットを取り出した。


『スリラーホスピタル』。来遊市の中心部である来遊駅近くに新しく出来たお化け屋敷だということだ。


そのチケットがつい先日、俺の家に送られて来たのだ。送り主は富士見姫蓮だ。そして今日、富士見にこう伝えられた。


『新しく出来たお化け屋敷。怪奇谷君行きたいみたいだから私ついて行ってあげるわよ』


と、遠回しなお誘いを受けたのだ。


「奇遇ね。私もそれ、1枚持ってるのよ」


富士見はドヤ顔でチケットを1枚取り出した。


「あーそうだな。奇遇だな」


「そうね。奇遇ね。そんなにどうしても行きたいって言うなら行ってあげてもいいわよ?」


そうこう言いながらも富士見は俺の答えを待たずに先に歩いて行ってしまった。


結局、1番楽しみにしているのは富士見自身なんだろうな。


「ほら、何をしてるの?早く行くわよ」


そう言って富士見は俺の手を取った。仕方ない。観念して付き合ってやるとしよう。


目の前には大きな建物があった。一見するとただの大きな壁でしかない。その壁が1つの建物を囲んでいるようだった。


「この壁の中にスリラーホスピタルがあるのね」


壁の入り口にはちゃんと『スリラーホスピタル 入り口』と書いてあった。


入り口の側には改札口のような機械が置いてあった。どうやらこの機械にチケットを通して中に入るらしい。


俺はこのスリラーホスピタルのことを何も知らない。最近出来て話題になっているということしか知らない。そのことを話すと色々な人にもったいないと言われてしまう。


例えばこんなことを。


『えー!あのスリラーホスピタルのこと全然知らないとか兄ちゃん遅れてる!もったいないもったいない。あたしがその辺に住んでたら絶対行くのに!』


『魁斗は昔から怖いもの苦手だもんね。昔はよく怖がって私に抱きついてたっけ』


『え?お化け屋敷?怪奇谷君ってそういうとこ行かないの?意外だね。怪奇谷君ってオカルトマニアかと思ってたからそういうところには目がないかと思ってたよ』


『よ!魁斗!お前、男ならお化け屋敷ぐらい経験しとけよ。ビビって彼女に泣きついたりなんかしてたらダサくて仕方ないからなっ!』


とまあ、親族なり知り合いなりにそんなことを言われる始末である。


「お、おい富士見。これどうやるんだよ」


チケットが何故か反応しない。富士見はそんな俺を気にせずに先に進んでしまう。


「お客様。チケットの向きが反対です」


と、入り口にいた店員さんが教えてくれた。


「へ?…あっ、ホントだ。恥ずかしいっすな」


確かにチケットの向きが反対だった。向きを変えて再び機械に通す。


今度は無事に通った。危ない。最初からこんなんで大丈夫か…


「ありがとうございますー」


俺は店員さんにお礼を言って小走りで富士見の元に行く。


「怪奇谷君。何をしていたの?もしかしていもしない美少女を口説いていたのかしら?」


富士見は止まって俺を待っていた。


「いやまあ、ちょっと機械と格闘してた」


「そう。あなたは機械にも嫌われる才能があるからね」


「どんな才能だよ」


入り口を超えると、目の前には大きな病院があった。ところどころボロボロになっているが、塗装されて修復されていた。


そして、周りには大勢の人達で溢れていた。


「うわぁ…すげぇ人だな」


「当たり前でしょ。今やこのスリラーホスピタルは世界中が注目するほどの人気レジャー施設なのよ」


「…嬉しそうだな」


「…!何をバカなことを…この超絶美少女の私がこんなことでテンション上がっちゃうなんてことあるわけない」


とか言いつつも、さっきから視線は病院の方に釘付けだ。どんだけ楽しみなんだ。


「で?ここはどういう仕組みなんだ?てっきり遊園地のアトラクションみたいに並ぶのかと思ってたけど…」


どういうわけか人は並んでいない。むしろ、自由に散策しているように見える。


「ここは時間制なのよ。1時間に50人って人数が決められてるの。もしも定員オーバーだったならそもそも入り口の時点で入ることは出来ないのよ」


なるほど。時間で人数が決められてるから並ぶ必要がないのか。


「いや、でもよ。だったら入り口の外で人だかりが出来てても不思議じゃないだろ?」


「何を言ってるの?外は来遊市の中心部。来遊駅周辺なのよ?時間まで暇を潰せる施設の1つや2つぐらいあるに決まってるでしょ?あなた、ここに何年住んでるのよ」


…正論ですね。何も反論できない。


つまり時間までの間、駅周辺で暇を潰しているということか。だから入り口前もそんなに混まないということか。


「じゃあ…時間になったらどうするんだ?」


そう言葉を発した時だった。病院の方からメロディーが流れ始めた。それと同時に、アナウンスも聞こえてきた。


『本日は、スリラーホスピタルへお越しいただき、誠に有難うございます。只今より、1時の部をご案内致します。ご来館のお客様は正面入り口へとお越しください』


正面入り口。それはこの病院の入り口ということだ。


「さあ、行くわよ。怪奇谷君」


富士見は再び俺の手を取った。


「ああ、付いて行ってやるよ」


俺は彼女に付いていく。せっかくここまで来たんだ。



お化け屋敷、存分に楽しんでいこうじゃないか。

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