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Phase.7 蘇るハードガイ

 ハーレーのエンジンがうなりをあげて、背後から真っ黒な巨体が飛び込んできた。チョッパーハンドルの猛獣である。しかし驚いたのは、それじゃない。猛獣を乗りこなして、ショットガンを肩に担いだハードガイだ。

「あっ、あんた…もしや」

 沈黙のたてがみ、レオン捜査官…いや、シルバークローだ。ベガスから専用ジェットでと言ってたけど、本当に来てくれたのか。

「地獄で会ったな、相棒」

 レザージャケットにフルフェイスのメットである。一九七センチの長身に、コンバットショットガン。これはすごい。少年の頃の憧れが戻ってきた。

「大丈夫なんですか?その…ヅラは」

「このシーンはメットを被ったから、ノーヅラ(?)で撮影したんだ。だから大丈夫。早く、乗りたまえ」


 かくてレオン捜査官のハーレーが、逃走したジェフリーのBMWを追跡する。これはすごすぎる。現実とは思えない。もはや何百万ドル積んでも観れないシーンが、目の前で展開しているのである。


「スクワーロウ、あんたには本当に感謝している。娘は老い先短いおれのキャリアのために、勇気を出すことを教えてくれたんだ。そんなアイリーンを助ける勇気が、おれには持てなかった。もう少しであいつを見捨てるところだったよ。…あんた、がつんと言ってくれて感謝してる」


 ぐっ、と突き出されたレザーの拳に、私は恐る恐る肉球を合わせた。どこがどうなったのかは分からないが、眠れるハードガイの魂を、私のハードボイルドが呼び覚ましたのか。あのぼそぼそちっちゃい声で話していたシルバークローが、映画と同じか、いや、それ以上の存在感と滑舌で話している。


「さて行くぞスクワーロウ、しっかり援護してくれよ」


 シルバークローは、ハンドルを握ったまま片手でショットガンをスライドさせる。これも往年の名シーンだ。


「停まれ!」


 容赦なく、ハードガイは軍用ショットガンをぶっ放した。映画の弾着が入ってるわけでもない、これは紛れもない本物だ。バンパーをぶち抜かれたBMWは、衝撃で尻を噛まれた犬のように、右にぶれ、左にぶつかったりした。


「危ないですシルバークローさんッ」


 蒼褪めて、私の方がすっかり現実に戻っていた。映画では痛快だが、やりすぎである。四発ぶちこまれると、BMWは左にスリップして、急ブレーキのけたたましい音とともにこちらを向いて急停車した。


「娘を殺すぞ!いいのかッ!」


 どん、と五発目が、BMWの天井に穴を開けた。ど迫力のハードガイである。ジェフリーはびびって、思わずアイリーンを手放した。


「じゃっ、じゃあヅラだ!こいつを燃やしてもいいのか!?」


 ジェフリーは後退りしながらジッポの炎をヅラに突きつけていたが、シルバークローはもはやそんなものに見向きもしない。


「アイリーン!お前が正しかった。パパが悪かったよ!」


 親娘は固く熱く、抱き合っている。映画ならここでエンドロールだ。


「シルバークローは新しいキャリアを手に入れた。そいつは、用済みだとさ」

「くそおっ、ふざけやがって!」

 今だ。私は頬袋から、ナッツを射出した。小粒だがアツくて硬い、ニャーヨーク名物の揚げナッツである。

(いった)っ!」

 私の狙いをすましたストレートが、ジェフリーのあごに炸裂したのは次の瞬間だ。やれやれ。ハードガイにもキメがあるように、ハードボイルドにだってやらなきゃならない定番があるのだ。





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