プロローグ
初めて連載小説を書いてみます。
面白いかどうか分からないですが、(私は面白いと思って書いています)、拙い未熟者の書く文章に、どうぞつきあってやって下さい。
それでは、はじまりはしまり〜!
プロローグ
キーンコーンカーンコーン・・・・・
・・・・・キーンコーンカーンコーン
チャイムが授業の終わりを告げる。
先生はまだ何か説明してるようだが、聞いているものなんていない。チャイムの鳴る前からもう部活の準備をしている奴さえいる始末だ。
僕はというと、もちろんすでに机の上は綺麗サッパリ。先生が教室を出るやいなや、教室を飛び出す。なんてったって今日は、村上春樹の新刊が出る日なんだ。
瀧川哲郎。朝山高校2年。趣味は読書。。
行きつけの本屋さんにダッシュする。いつもは客足の少ない少々寂れた店なのに、今日に限って、いや、今日だからこそ混んでいる。
嫌な予感がする。談笑するハルキスト集団の中心部へと突入していく。
良かった。まだ置いてあるようだ。と、、、
ドン!
突然、強く誰かに押された。僕は人混みの中に倒れた。
「あぁん良かったぁ、まだあるわよ!」
そう言って、強い匂いをぷんぷんさせたオバさま達がドタドタと側を通り過ぎ、村上春樹の新刊に手を伸ばす。
ぶつかられた僕は立ち上がる。周りの人たちも酷いもんだ。伝家の宝刀、見て見ぬ振り。
僕は冷静さを装ってはいるものの、腹の中は煮え返っている。
オバさま達のところへ直進する。僕は彼らがその場を退くのを待つ。そう、僕には彼らに文句を言う勇気など持ち合わせてない。それどころか、彼らの中に割って入る勇気さえもない。
特にこういうオバさま達が苦手なのだ。いかにも自分が正当で、権利を持っていると言わんばかりの卑しい目つき。他人を馬鹿にし威圧する話し声。(少なくとも、僕にはそう思われる。)
オバさま達はなかなかその場を離れない。春樹さんの魅力はどうたらこうたら。春樹さんがタイプだとかなんとか。
僕なんか、村上春樹が世間に大々的に取り上げられるずっと前からファンなんだ。こんな俄で似非ハルキストに一体村上春樹の何が分かるっていうんだ。
僕はやり切れない気持ちをどうする事も出来ずに、ただ待つ。
4、5分は待っただろうか。とうとう耐え切れず決死の覚悟で割り込もうとした時、
「すいません。ちょっとどいて頂けますか。他に待ってる方もいらっしゃいますし。」
と神のひと声が、、、。
オバさま達は軽く謝りながら、わいわい騒ぎながら出て行った。
僕は驚いて後ろを振り返る。
そこには、清純で凛々しい女性が立っていた。
僕はしばらく彼女から目が離せなかった。俗に言う、一目惚れというものである。
「あの、なにか?」
彼女のその一言で我にかえる。
「あ、いやっ、その、なんでもないです、、。」
こういう時も僕はチキンである。
本棚の方に目を戻して、お目当ての本を手に取ろうと、、、思ったのだが。
心臓がばくばく鳴る。
ほ、ほ、本が、、、一冊しかない!
彼女は確かにこの本を、僕と同じ本を求めて、買いに来た筈だ。もし彼女が、あの豚野、、いや、オバさま達を追い払ってくれていなければ、チキンな僕はとうとう諦めていたかも知れない。ならば、この本を買う権利は彼女にあるんじゃないか。
僕は持ち前の優柔不断を発揮する。
買うか、彼女に譲るか。
彼女の視線が気になる。完全に不自然におもわれている。
こんな事になるのなら、かえって全部売り切れていた方がよかったなんて思ったり、あの豚野、、郎、、さえいなければなんて思ったり。
結局僕は本を棚に戻して、そそくさとその場を離れた。チキンな僕にできることはこれが精一杯だった。そして彼女に想いを伝えるにも、これが精一杯だった。(恐らく彼女は瀧川のことも、瀧川が彼女のためにした事も気にも留めなかっただろうが。)
その後、知っている本屋さんを廻ってみたが、どこも完売状態だった。村上春樹の人気は凄まじい。
でも僕は正直、本などもうどうでもよかった。さっき出会った名前の知らない彼女のことで頭はいっぱいだった。
優しい丁寧な口調。
凛とした表情。
シュッとしたあご。
大きくて、まるい目。
すっとした鼻すじ。
ほんのり桃色に染まり潤った唇。
スタイルは、、、。
服装は、、、どんな格好だったかな。
あの時は思わず顔に見惚れてしまって、全身なんて見ている余裕はなかった、惜しいことをしたなぁなんて思っているうちに家に着いた。
瀧川哲郎。若干十六歳。恋をした。。
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