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7.俺、自己紹介する

二十数年間ダンゴムシのような生き方をしてきた俺に、突然やって来た運命を感じさせる出会い。こんな最高の出会い、運命と言わずして何なのだろうか?


パーティーメンバーの採用面接で最高な娘と巡り合い、つい先ほど彼女に採用通知を差し上げた俺。

容姿端麗、性格も清く、ダンゴムシみたいな俺にも優しい淀みの無い笑顔を振りまいてくれる彼女。おまけに希望報酬額も申し訳ないほど控えめな額で駆け出しパーティーにとっては有り難い限り。そして普段は聖職者として活動しているときた。

少女アリアはまさに、聖なるコスパ少女といったところだろうか。


さっそく事務所で、アリア採用に伴う事務手続きをして貰う。他のインターン参加者も希望のメンバーを採用し終え、続々と事務手続きにやって来た。

まぁ他は他、ウチはウチ。ウチの部下、もとい大切なパーティーメンバーが、他よりも可愛いのは間違い無いだろう。外見だけじゃない、もちろん能力もピカイチ。なにせ人気職のヒーラーで、それも中級スキル持ちなのだから。


メンバーを採用したら、さっそくクエストを熟す。今日中に”1つ以上のクエストをクリアする”というのが、俺たちに与えられた課題。メンバーの採用だけで満足もしていられない。

最も難易度が低そうなクエストの請負申請を出し、さっそく事務所を飛び出した。


――事務所を飛び出した俺は、アリアとの待ち合わせ場所へとやって来た。

待ち合わせ場所ではアリアが一足先に来ていたようだが、何やらお取込み中であった。


「お待たせ、アリアさん。どうしたんですか?」

「はい。この子が転んで怪我をしていましたので、少しばかり治療をして差し上げていたところです」


アリアが治療の手をかざしていたのは幼い男児。

幼児は擦りむいた膝を抱えながら、少しばかり涙を浮かべている。そんな幼児を安心させるべく、笑顔を振りまくアリア。

言葉で説明する必要すら無いほど、アリアは”聖”であった。見ているだけで俺の穢れた心が浄化されていく……

流石は中級のヒーリング能力、あっという間に幼児の傷は塞がり、浮かんでいた涙も乾いていた。


「はい、もう大丈夫ですよ」

「お姉ちゃんありがとう!」


幼児と視線の高さを合わせるために、しゃがみ込んだアリア。そんなアリアに抱き着く幼児。なんとも微笑ましい光景。俺も思わず心の声が漏れる。


「よかった、よかった……」


だが……抱き着いたついでに男児がちゃっかり、アリアの胸元に顔を押し付けていたのを俺は見逃さなかった。

前言撤回。去れ幼児!キッズに彼女の魅力はまだ早い!


それはさておき、早速クエストを受注した旨をアリアに伝え、目的地へと向かう。

道中にて他愛も無い話の中で、アリアがこんな質問を投げかけて来た。


「ところで、まだお名前を伺ってなかったんですが……」


それは極々当たり前の質問であり、本来なら出会った最初に名乗るべき事である。

しかし、俺は長年の癖で、無意識に名乗るのを避けていた。俺のコンプレックス……顔や性格もそうなのだが、様々なトラウマを作る原因になった自らの名前。できる事ならあまり触れたくない話題だ。

しかしアリアは今か今かと、俺の顔を覗き込み回答を心待ちにしている。こうなったら名乗ってやる、いくらでも俺の名前を弄ればいい……


「そうそう自己紹介がまだだったな…… えーっと、俺の名前は(つとむ)


自分の名前を口にする時だけ妙に小声になった俺。アリアは聞き取れなかったのか、首を傾げもう一度名乗れと言わんばかりである。


「勉」

「ツトムさんって言うんですね?」

「うん、そうなんだ……」


いや待てよ、何も下の名前を名乗らずに苗字で名乗っておけば良かった…… と気づいたのは、アリアがオウム返しに俺の名前を口にした後だった。


「とてもいい響きのお名前なんですね?」

「いい響き……なのか?」

「はい!ところで、ツトムというのは、どういう意味の言葉なのですか?」

「そうだな……一般的には勉学って意味になるかな、うん……」

「素晴らしいではないですか!とても素敵なお名前、名付けてくださった方に感謝するのですよ」


名付け親のママン大魔王に感謝するかどうかは別として、名前を褒められたのは人生で初めてかもしれない。

小学生の頃は勉強マンなどと呼ばれ、挙句の果て中学生の頃には……

勉を文字って便、ベンベン、便所マンだのウ○チマンなどの称号を与えられた。

日陰に生えた雑草程度には学生生活を満喫していた俺を、岩の下のダンゴムシに降格させた原因の一端でもある。


悲しい歴史は置いておいて、この世界では俺の名前は良い響きの言葉らしい。そして何より、こんなにも可愛らしい娘に、下の名前で呼んでもらえた事に誇りを感じた。音声合成の女の子がぎこちなく名前を読み上げるのとは訳が違う。


すっかり過去のトラウマを忘れ去った俺は、気分上々。アリアと並び、歩み、目的地を目指した。

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