4.俺、面接する
さて、困ったことに居眠りしてたら異世界に送り込まれてしまった俺。他人が大事な話をしている最中に居眠りする奴が悪いと言えばその通り。だが、何もいきなり知らない世界に放り込むことは無いだろ。
それにしても、目の前に広がるのは異世界である。獣耳を生やした者、小人、それからあれはゴブリンというやつか。まぁ色んな種族が街の通りを往来している。
普通の人間ならここで立ち竦むだろう。だが大丈夫、俺にとってはあらゆるコンテンツの世界で散々見知っているような世界だ。
まずは定番のギルドを探して…… 待て、俺は何をしに来たんだっけ?そうだ、怪しい会社のインターンだ。取り敢えず、この異世界なる場所にあるであろう会社の事務所を探そう。
都合が良い事に、内ポケットに事務所までの道のりが記入された地図が入っていた。
見知らぬ世界に来て最初の試練は何が降りかかるのかと、期待する半面ビビってもいたが……
何の苦労も無く、地図を辿ると会社の事務所に到着した。少し検討外れか。
事務所に入ると、見覚えのある奴ら、つまり内定者と思しき奴らとその他職員が集まっていた。
どうやら朝礼の真っ最中らしい。居眠りの次は朝礼遅刻。流石にやらかし過ぎな気がしてきた。
こっそりと見つからない様に、あたかも最初からそこに居たかのように、朝礼に溶け込む俺。存在感の薄い陰な存在、ならではの小技で朝礼に参加。朝礼に耳を傾ける……
「さて、今から皆さんには面接をして頂きます」
面接? どういうことだ?
採用面接なら既に受け、合格を貰った筈の俺たち。今度は一体何の面接なのか。
「心配しなくても大丈夫です。皆さんは面接を受ける側では無く、面接を行っていただく側です。詳しくは業務マニュアルで説明した通りです。はい、では始めましょう。今日中に部下を一人以上採用して、1つ以上のクエストをクリアしてくださいねー」
どうすればいいんだ俺?とりあえず、他の連中と行動を合わせよう。居眠りせずに説明を聞いていたであろう、他の連中はすぐさま面接の準備を始めていた。
――というわけで、異世界に来て最初の仕事は面接官をやることになりました。
今から、異世界人達を面接して、有望な人材を自分の部下、もといパーティーに招き入れるそうです。同士から聞いた話によれば、面接に来るのは女の子だけらしい。女の子だけの理由が気になるところだが、企業秘密なので決して触れてはいけないのだとか。
ちなみに、パーティーメンバーの確保は早い者勝ちらしい。いざ、可愛い女の娘来たれ!
「失礼するぞ!」
最初の面接者がドアの向こうから入室の挨拶をする。愛想の無い挨拶の主は声が低いながらも、間違いなく女の子である。声を聴くからに強そうで、頼りになりそうな人材に早くも期待が高まる。
入室してきた声の主。お世辞にも可愛いとはかけ離れたタイプの人だが、男顔負けの体格。顔には古傷が刻まれている。そして、腰には如何にも重たそうな剣を拵えている。
間違いない!これは強い!
この会社でどんな任務を任されるのかは、居眠りしていたので知らない。だがパーティーというからには強いメンバーを招き入れておいて損は無い。
調査票を受け取り、プロフィールに目を通す。調査票には名前、年齢、職、スキル、希望報酬額など基本的な内容が記載されている。どれどれ……
職……前衛職、剣士。うんうん、そうだろうな、その拵えた重厚な剣を見れば一目瞭然。前衛で物理的な大パワー攻撃を得意とするタイプに違いない。
「剣技が得意ということでいいですか?」
「はい。お見せしましょう」
「おっお願いします、お手柔らかに」
彼女はご自慢の大剣裁きをご覧に入れよう言ってきた。迫力の剣技を心待ちにする俺。
剣を握ると、彼女は全身で力みながら剣を抜き始めた。それほどまでに、この剣は重量級なのだろう。これを振るった時には、どれ程の威力になるだろうか。
しかし、期待は徐々に疑念へと変わっていく。
彼女が両手で剣を構えたは良いが、足元が小刻みに震えている。重量上げ競技で見たことが有るような光景。
やがて彼女の素振りが始まったのだが……
鈍い…… 重たそう……
そして数回素振りをしたところで、明らかに息が上がっていた。
「えーっと…… 以上ですか?」
「はぁはぁ…… は、はい、以上が我が剣技です…… はぁはぁ……」
これは、ちょっと……
直接結果を伝えはしなかったが”前向きに検討させていただきます”という優しい回答を差し上げ、彼女には退室して頂いた。