9.俺、虚仮にされる
異世界にやって来て、上司として有能な部下をパーティーに向い入れ、いざモンスター討伐に行ってきた。そして何故かセルフでモンスターの討伐を終え疲労困憊で事務所へ戻ってきた。
事務所では他のインターン参加者が、次々に顔を出しクエストの遂行完了を報告していた。無論、俺も胸を張って報告する。素人が勝手に剣を振り回して、運よくモンスターを捻じ伏せ…… とは言え、モンスターを倒しているので任務達成に違いは無い。最弱種をたったの一体だけど。
報告を終えると、突然俺に馴れ馴れしく話しかけてくる奴がいた。どうやら情報交換をお望みの様子。
名を聞くと彼は新井というらしい。顔立ちも良く頭の良さそうな顔。初っ端からヒーラーを採用して、セルフ討伐してきた誰かさんとは大違いだ。
そんなセルフ討伐の武勇伝を聞かせて差し上げた所、見事に新井の笑いを取ることに成功した。主に嘲笑う方向性での笑いではあったが。
「いやぁ、それは無いよ。さすがに。いきなり戦闘要員にならないヒーラーを採用するなんてさぁ」
「いいんだ。可愛かったから」
「いくら可愛いからって、先ずはクエストを熟せる人員を確保しないとさ」
「いや、可愛いは正義だ」
「まぁ俺もあの娘は可愛いと思ったけど、先ずは戦闘要員が必要だろ」
「おい、お前の所にもアリアが顔出したのか?愚か者め、将来後悔することになるだろうな」
新井は一言喋り終えるたびに、鼻息を漏らし俺の事を笑う。笑いたきゃ笑え、アリアみたいな娘もう二度と面接に来ることなんて無いだろう。俺は極めて正しい選択をしたんだ。自分の感性を信じろ俺。
さて俺を散々虚仮にしてくれた目の前のこいつは、果たしてどんなパーティーメンバーを招き入れたのか。隙あらば重箱の隅を突いてやろう。
「ウチはシュリアちゃんを採った。お前のとこにも面接来ただろ?」
「おいおい、シュリアって確か…… ちんちくりん体型で、生意気な態度だった魔法職の娘か?」
「ちんちくりんは余計だ!あの容姿の良さが分からないとは、巨乳脳め」
新井と名乗る男は頼んでもいないのに、貧乳属性の素晴らしさについて語り出した。これは長引きそうだ。
俺も大概だが、こいつも見かけに寄らず残念な内面をお持ちである。どれだけ力説したところで、物量ではウチのアリアには敵わない。……って勝手に女の子を引き合いに出して、胸の大きさを比較するとは、俺としたことが少し下劣だった。
新井の口が止まりそうに無いので、力説をぶった切り話を次へと進める。
「で、なんであんな娘を採ったんだ?」
「いやいや、寧ろ何でお前はあの娘を採らなかったんだ?」
「いや態度悪いし、それ以上に希望報酬額が予算を遥かに超過してたし」
「おいおい、お前は彼女たちの希望額と胸しか見てないのか?」
「うっさいわ!胸を真っ先に確認したのは事実かもしれないけど」
「あの娘……シュリアはな、最上級魔法士なんだよ」
「――えっ?」
”最上級魔法士”というのがどれくらい凄いのか、知る尺度が俺には無い。しかし最上級と冠しているくらいだ、ガチャのレアリティで言えば最高レア度ということだろうか。
言葉を失った俺の間抜けな面を拝みながら、新井は最上級魔法士シュリアの活躍を語り始めた。
彼女の超強力な最上位魔法により、クエストで指定されたクリア条件数以上のモンスターを一網打尽に。おかげで新井の人事評価にも大いに貢献したのだという。
……人事評価ってインターン中なのにもうエリート街道を開拓するつもりなのか、こいつは。
本人曰く今後はもっと高難易度なクエストをバリバリ請け負う予定なんだとか。うん、なんだろう新井から漂い始めた死亡フラグは。調子に乗って駆け出しが高難易度に挑戦って、高確率で帰ってこないぞソレ。
新井の話は兎も角、俺は新井を突かなければいけない重大な指摘を思いつく。
「わかった。シュリアの武勇伝は分かった。悔しいが認めよう、彼女の力は素晴らしいと。ところで新井さん? あの馬鹿げた希望報酬額は何処から捻出するんだ?」
「借金だけど?」
「借金!?」
「そう、こっちの世界にもリーマンな金融があるんだよ。そこでシュリア採用の軍資金を調達した」
「うわぁ、異世界に来て初日から借金生活って……」
借金という言葉に、俺は新井を憐みの目で眺めて差し上げた。しかし借金を背負った当の本人は、借金など問題では無いといった態度である。
シュリアの能力なら、高難易度のクエストに挑戦できる。実績を積めばパーティーの予算が増額される。なので、借金は直ぐに返せるのだとか。
「今は借金という形になっているが、パーティーにはシュリアが居る。先行投資だよ先行投資。君のパーティーだって予算は厳しいんだろ? 君も借金してでもメンバーを強化すべきだ。このゲーム……失礼、業種は先行投資し良い人材を集めたものが生き残る!」
新井の指摘通り、俺のパーティーだって予算は残り少ない。アリアは上品な希望額を提示してくれている。それでも、インターンの俺たちに与えられた予算なんて僅かな額。実を言うともう一人メンバーを向かい入れる余裕など無い。
俺を虚仮にした奴のアドバイスを聞くのは気分が良くないが、言っている事は正しい。俺はその後、サラリーで生きる男の為の金貸し屋へと足を運んだ。




