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第29話・登場と闘技場

遅くなって申し訳ありません……!


「着いたぜ、ここで待ってろよなぁ?」


アルザーヴに着いていくこと数分。


俺たちは、敵の本拠地、地下の秘密施設に到着していた。


「まさか王城の敷地内に、古式の転移魔法が隠されていたとはのぅ……。」


未だ悔しさが収まらないピリオン東街長がそう言って歯噛みする。


「ここは……、闘技場かしらねぇい?」


カミュの言う通り、俺たちは今コロッセオのような円形の闘技場の、観客席のところにいた。


「どうして地下なんかに闘技場が……。」


「闘技場だけじゃないよ。」


と、俺の質問に答えるように観客席の上の方から声が響く。


「闘技場だけじゃない。まだまだ、楽しい施設がここにはいっぱいあるよ。」


そこには、栗色の髪をした、俺と同じくらいの年齢の男が立っていた。


「こんにちは、キョウ君。僕は今日をずっと楽しみにしてたんだよ。」


かつかつと足音を立てながら俺たちの元へ降りてくる男。


「あぁ、名乗るのが遅れたね。僕の名前はタクミ、勅使河原(てしがわら) (たくみ)。今更だとは思うけど、すべての首謀者だよ。」


そう言って、その男、タクミは爽やかな笑みを浮かべたのだった。


「舐めるのも大概にしといてもらえないかのぅ……!!」


すでに、ピリオン東街長は怒り心頭に発している。


「あ、確か東街の街長だっけ?申し訳ないんだけど、今僕が用事があるのはキョウ君だけだから、ちょっと黙っててもらえる?」


そうこともなげに言うタクミ。


「黙ってろと言われて……、黙ってるわけないじゃろう!!!『火鳥(ホウオウ)』!!!」


鮮やかな赤い炎を纏ったその鳥は、タクミの方へと一直線に飛んでいく。


しかし、そのピリオン東街長渾身の一撃は、タクミの目の前であっけなく雲散霧消した。



「ばかな……、高位の火魔法を、剣も使わずに相殺したじゃと……!?」


「これでわかってくれたかな?あぁ、そちらのお嬢さんもできれば大人しくしていてほしいな。」


懐に持っていた短刀を抜こうとしていたカミュも、見咎められて行動を諦める。


「俺に何の用だ……。」


「あぁ、色々訊きたいことがあるんでしょ?どんどん訊いてくれて構わないよ。」


朗らかにタクミがそう言う。


どういう風の吹き回しだ?


「ただし」


俺の訝しげな表情を読み取ったかはわからないが、タクミがさらに続ける。


「それは戦いの中でね。」


ニコリと笑ってタクミがそう言った途端、俺とタクミの体が光り始める。


「キョウ君!!」


「おっと、大人しくしててって言ったよね?少し拘束させてもらうよ。」


光りながら、タクミがそう言うと、いつの間に現れたのか、カミュとピリオン東街長の背後から部下らしき男たちが現れ、縄で2人を拘束する。


俺はすぐに助けようとするが、それよりも早く、その光が俺たちをどこかに転送してしまったのだった。




--------------------




「それじゃあ、まずはお手並み拝見ってことで。」


タクミの声が響く。


俺が飛ばされた先は、闘技場のフィールドのど真ん中だった。

タクミはいつのまにかVIP席に座っている。


「お前が戦うんじゃないのか!?」


「だから、お手並み拝見って言ったでしょ。本当に強かったら、戦ってあげる。」


俺の言葉をさらりと受け流すタクミ。


くそ、ここまでいいようにあいつにやられている。

なんとかしないと……。


「あ、ちなみに僕は魔法はあんまり使えないんだけど。」


「いきなりなんだ…?」


急によくわからない話を始めたタクミに、観客席で拘束されたままのピリオン東街長が激烈に反応を示す。


「そうじゃ!おかしいと思ったわい!!剣技がメインのおぬしが、どうしてあんな古式魔法を使えるのか不思議だったんじゃ!」


「そうそう。僕は使えない。だから、使える人にやらせたよ。」


タクミのその言葉を合図に、俺の向かい側の暗がりから、足音が響いてくる。


そして、現れたのは、ここまで俺たちを案内してきたアルザーヴだった。


「ようやく戦えるぜ、準備はいいかぁ?」


ペロリと赤い舌を出して唇を舐めるアルザーヴ。


「見た目で騙されることが多いけど、アルザーヴはこの国で一、二を争う魔術師だから。気をつけてね。」


VIP席から響いたその言葉を皮切りに、アルザーヴが詠唱を行う。


「『精葉(スピ・リーフ)』、くらえよなぁ?」


アルザーヴの伸ばした指先から、鋭く尖った葉が、青白く光りながら何枚も俺の方に飛んでくる。


「っく!!」


俺はそれを、体に当たるすんでのところで、抜いた『宵斬り(ラズヴェート)』で対応する。


「お前とは、一度やってみたかったんだぜ、俺はなぁ?『春嵐(プリマベラン)』!!」


ニタニタといやらしく笑いながら、さらに攻撃を続けるアルザーヴ。


「これは……、竜巻か!?」


赤、黄、白とカラフルな花びらの竜巻が俺に向かってくる。


「『渦潮(ナルート)』!」


俺も水の渦をつくって応戦する。


激しくぶつかり合ったふたつの渦は、互いに拮抗し合う。


と、そのふたつの渦の脇から、アルザーヴがまた先ほどの鋭い葉を飛ばしてくる。


剣の対応が間に合わず、転がってそれを回避する俺。


ガガガガガンッ!!


まるで金属のように音を立てながら闘技場の壁に突き刺さるその葉。


ささった部分は岩でできているはずなのに、それは深く壁をえぐっていた。


「あんなのささったらやばすぎる……。」


俺は思わずそう漏らす。


「おいおい、余所見してて大丈夫なのかぁ?」


アルザーヴの言葉に背後を振り向くと、いつのまにか俺の水の渦だけが消えている。



まずい。



慌てて避けようとするが、時はすでに遅かった。


その大きな花の竜巻に俺は飲み込まれてしまう。


「キョウ君!!」


カミュの声が響く。


ようやく竜巻が消えた頃には、俺の体のあちこちに深い切り傷ができていた。


「油断したなぁ?」


会心の笑みを浮かべるアルザーヴ。



くそ、めちゃくちゃ痛い。


体中がズキズキとする。



「そもそも、お前は水精霊の加護を受けているみたいだなぁ?水と木じゃ、相性最悪だなぁ?」


アルザーヴの嘲笑は続く。


「金級冒険者ってタクミ様から聞いていたから、どんだけ強いのかと思ったら……。拍子抜けだなぁ?」


「アルザーヴ!!油断するな!!」


と、突然タクミが叫ぶ。


「そんな慌てないでくださいよ、タクミ様。もう勝ったも同然だぜ。って、どこいきやがったぁ?」




「『大文字(コジット)』!!」



俺はアルザーヴの背後で渾身の力を込めてそう叫ぶ。


「なにぃ?ぐわぁ!!!!?」


大文字の炎がアルザーヴを襲う。


「どうして……そんな高位の火魔法は、1つの属性を熟練させた者にしか使えねぇはずだろ……?それに傷がどうして治っていやがる……。」


そう言うと、意識を失うアルザーヴ。


「1つだけ言わせてもらおうか。」


俺はそんなアルザーヴを『水環(アクアリング)』で拘束しながら言う。




「さっきの言葉、そっくりそのまま返してやるよ。」




観客席を見ると、未だにこやかに笑うタクミの額には、ピクリピクリと青筋が何本も張っている。


「次はお前だ、タクミ!!!!」


俺は『宵斬り(ラズヴェート)』の刃先をタクミに向けて、そう啖呵を切ったのだった。



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