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第13話・滑る口と馬車


「兄ちゃんは何者だい?」


そう訊いてくるガロフさんの目は、料理人の目から冒険者の目へと変わっていた。


さて、どう答えよう。


なし崩し的にトゥンクの街のギルド長のザグラスさんには自分が転生者であることを伝えてしまったが、正直あんまり人に言いふらしたくはない。


もしこのことがどこかの国の上層部に知れてしまったら、持ち上げられ、変な仕事をやらされて、それこそ俺の目標なんて確実に達成できなくなるに決まっている。


なによりも、このガロフさんは確実に強い。

それはほぼ戦闘初心者の俺でもなんとなくでわかる。

そんな人に目をつけられるなんて、たまったもんじゃない。


「….えっと、最近別の国からでてきたばかりで多分俺の顔を知らないんだと思います。冒険者にはもともとそこでなっていて…。」


嘘が苦手な俺にしては、なかなか上手く言えたと思う。

ニャホン出身にしたかったが、ニャホンには冒険者制度はないっぽいと以前聞いていたのでそれはやめておいた。


「ほぅ….?」


ガロフさんがそういうと何事か呟きながら思考をはじめる。


くっそぉ、こういったときに『探索(サーチ)』とかで相手の思考を読めればいいのに….。


無言の時が流れる。


つつっと背中を冷たい汗が流れる。


俺は後ろ手でこっそりカエデの尻尾をモフって気持ちを落ち着ける。


無限に続くようなその静寂を破ったのは、古ぼけたドアが開くぎこちない音であった。


「おう、ガロフ!今日はやっているみたいだな!って、君達は….?」


そう言ってはいってきたのは、あろうことか唯一俺たちの秘密を知るギルド長、ザグラスさんであった。


まさかと思うけど….そんなことは….


「おぉ、転生者で冒険者のキョウ殿に、カエデじゃないか!!奇遇だな!!」


そんなことありました。


そう朗らかに言わんでもいいことを全て晒す爆弾をぶちこむザグラスさん。




THE・END☆




---------------------



「ハハハ!!そういうことだったのか!!もしかして冒険者のなりすましかと思ったからな!転生くらいで嘘をつかんでもよかったんだぜ!?まあこいつの口の軽さはなかなかもんだから、こいつに話した時点でどこかしらには必ず漏れることを想定しておくべきだったな。」


そういってザグラスさんの頭をグリグリするガロフさん。


「す、すまんな….。つい口が滑っちまった☆」


「何許してね♡てへぺろ☆のノリで言ってるんですか!!こちとらいろいろとまだこっちの世界に慣れてないから、無闇に注目されるのは避けたいんですよ!!」


思わず俺は怒鳴る。

はぁ。まさかザグラスさんがこんな口軽いとは….。予想だにしてなかった。


あのザグラスさんの爆弾発言から数十分後。


またもや不可抗力で全てをガロフさんに言ったところ、無事さっきの反応を貰うことができたという次第である。


「ほんとですよ!ギルド長ともあろう方が、そうペラペラ秘密を喋っちゃっていいんですか!?」


カエデもプリプリ怒っている。


….ていうか、まだソースが口元についてますが….


「いや、本当に申し訳なかった!こいつとは友人の間柄で、ついつい気が抜けてしまっていたのかもしれない。」


「友人….?2人はお知り合いなんですか?」


怒りをひとまず鎮めてガロフさんに俺は訊く。


「あぁ。ザグラスと俺は昔は冒険者として一緒にやってたんだぜ。ザグラスがギルド長に抜擢されてからもこうやってたまに会っている。….はたから見れば結構優秀なんだが、いかんせん口の軽さはいつまでも直らなくてな….。」


そういってふぅと溜息を吐くガロフさん。


「とりあえず、俺がこいつを締めておくから、多分もう大丈夫だろう。心配しないでくれ。」


再びグリグリするザグラスさん。


「ひいぃ!!わかった!!わかった!!なんでもするから!!!今回だけは許してぇ!!」


….キャラ崩壊してますよ、ギルド長さん。


俺が心の中でツッコミを入れている間に、そのギルド長の発言を、ぴこぴこ動くケモ耳で敏く聞き取ったカエデは、不敵な笑いを漏らした。


「ふっふっふ。今聞きましたよ!なんでもすると!そういうことなら、ザグラスさんには一つお願いがあります!」


そう言うと、びしっ!と人差し指をザグラスさんの方へとたてるカエデ。


「それはですね….」


いまだ顔にソースをつけながら、カエデはそのお願いをした。




---------------------




「なるほど….。よく考えたな….。」


俺はそう感嘆の声を漏らす。


「ふふん。やるときは私もやるんですよ!」


そう言ってない胸を張るカエデ。


俺たちの目には、一台の立派な馬車の姿が写っていた。


「みんなを探しに行くなら、こういった移動手段は確保しておくべきだったからなぁ。よくやったぞ!カエデ!」


そういってくしゃくしゃと頭を撫でてあげる。


「えへへー。」


カエデも嬉しそうだ。

耳に触れて俺も癒されるおまけ付きである。


あのあと、カエデはザグラスさんに馬車をようきゅうしたところ、一も二もなくザグラスさんはそれを了承した。


まあ多分了承してなくても、無理やりガロフさんにさせられてたと思うけどね。


ガロフさんとは、馬車を買いに行く際にそのまま店で別れた。


「俺も結構いろんなところを冒険者として巡っているからな!また会ったらよろしくな!」


めっちゃゴツくて、熊みたいな人だったけど、想像してたよりとても優しい人だった。


これからもし会ったら頼らせてもらおうかな。


そう言ったガロフさんと俺は固く握手をして別れ、馬車を売っているお店にザグラスさんとともにきて買ってもらったというわけだ。


「ところで、君たちはいつここを発つんだ?それと、どこへ向かうつもりだ?」


ようやく余裕を取り戻したらしいザグラスさんが息を整えながら訊いてくる。


「….そういってまた俺たちの情報をもらすんじゃないか〜?」


「そ、そんなことはない。ガロフのグリグリはもう死ぬほど痛いのだ。あれを食らうのはもうこりごりだしな。」


そういって苦笑するザグラスさん。


「….じゃあ一応信用しますよ?….とりあえず明後日俺の武器ができるみたいなんで、それを受け取ったらそのまま王都に向かおうと思います。」


「王都か….。なるほど、君は我が国唯一であった転生者にあってみたいのだな。」


図星だ。


皆を探しに行きたいが、まずは情報を集めたい。

そういうことなら、この国で1番大きな街に行き、そこで俺と同じように転生した人の話を聞いてみるべきだ。


俺はそう思っていた。


こういうこと気づけるあたりザグラスさんはやっぱり優秀なんだけどなぁ….


「また、お得意の紹介状を王都の軍あてに書いておこう。多少は私も王都で顔はきくからな。」


そう言って懐から紹介状を取り出し、さらさらっと書いてくれたザグラスさん。


ほんと、優秀なんだけどなぁ….



….ま、まあとにかくこれで準備はほとんど整った。


あとは、武器の完成を待つだけだ。


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