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気の合う友達

当日、根拠はなかったが、やはりイケメンの友人はイケメン率が高い。


だけど、その中でも直樹は清潔感があり、普段は無表情で時々笑うと少し幼く見えるところなど、女性のハートをわしづかみした。

すみれの友人に囲まれる彼を見ながら、「すごいなあ」と思いながら、すみれは食事をしていた。

友人が来いというから来るけれど、すみれは大学生の間に彼氏を作る気はなかった。


すみれは苦学生というほどではないが、あまり裕福ではない両親が、すみれが大学在学中にバイトをしなくていいだけの学費を準備してくれている。

だったら、その間に学べるだけ学ばなきゃ損だ。

恋愛は卒業後でもできる。

いつもは酒の注文したりの雑用係だが、今日は気にしなくていいみたいなので楽だなあと食事をし続けていると、直樹のいら立った声が聞こえた。

「いい加減、うざい」

その声に、女性陣は少しだけ静かになった。そして、続く言葉に静まり返ることになる。

「頼まれたから来たけど……オレ、男にしか興味ないんだ」

女性陣は固まって、男性陣は知っていたというように頷いた。

「え……それって、宇都宮さんの友達は……」

勇敢にもそう声をあげた女性は、失笑される。

「別に、男女の友情もあるんだから、男が好きな男と、男の友情だってあっていいだろ?」

「別にいきなり襲われるわけでもないし」

口々に男性陣から声があがって、微妙な空気のまま会は終了した。

当たり前だが、この日の合コンのすみれの友人からの評価は最悪だった。

だけど、その後何かが変化するわけでもなく、すみれと直樹の語り仲間は続いていった。


すみれは『直樹は女性に興味がない人』イコール『女友達と同じ』扱いをしていい人という認識になった。


恋愛はしないと決めていた大学生時代、気軽に付き合える直樹は、とてもいい友人だった。

女同士はやっぱり恋バナになるし、別に嫌なわけではないけれど、勉強の話の方がすみれは好きだった。

直樹は、教授の話を聞くのが好きだというすみれの話を笑いながら聞いてくれた。

しかも、経済学や商業学を専攻していた彼は、優秀な先生でもあって、使わない時は教科書を見せてくれたりもした。

卒業し、彼は大手文房具メーカーへ就職。

すみれは証券会社へと就職した。

初めて彼を『異性』として」意識した瞬間は、実をいうとあまり思い出したくない。

自分が酒癖が悪いということを初めて自覚させられた日だった。


お酒自体、あまりおいしいと感じたことがなく、食事時はお茶の方が好きなすみれは、お酒をほとんど飲んだことがなかった。

大学時代の友人関係では、別に何の問題もなかった。

それが、最初の歓迎会で崩れた。

入社後の最初の飲み会。

すみれは軽く飲んでいたところに、グラスの中身が減ると注ぎ足されることを経験した。「注がれた後は口を付けなさい」と、マナー本で読んだ。

そのままに実践したのだ。

会社の人たちがいる間はよかった。まだ緊張していたのだろう。

会社の人たちと駅で別れた後―――私は、直樹の家に押し掛けたらしいのだ。

ここから全く記憶がない。

酒を大量に買い込んできて、楽しいから一緒に飲むぞとわあわあ騒いだらしい。

笑うわ泣くわして、最後に服を脱ぎ捨てて眠りこんだという。

目が醒めて最初に見たのは、男性らしい喉仏。Tシャツから覗く首から鎖骨のライン。角ばった腕に、目を奪われていると、直樹の目がふっと開いて、面白そうに細まった。

「ようやく正気に戻ったか」

そう言いながら気だるそうに髪をかき上げる仕草に見惚れた。


直樹はすみれの酒癖の悪さを心配して、「飲み会の日は教えること」「大量に飲まなきゃいけないようなときは、俺にメールすること」とすみれに言った。

実際、とても助かった。

記憶を無くした間のことはとても怖い。

だけど、直樹が迎えに来てくれて事なきを得たことが何度もあった。

その度に、「気を付けろよ」と苦笑いする彼は、私に甘い。

社会人になってもう五年も経つから、自分の限界値も分かった。断る方法だって身につけた。

そうなっても、彼はいつもすみれの心配をするのだ。

すみれは居心地のいい直樹の傍で、ゆっくりと恋心を育てていった。だけど―――。

最近は、記憶をなくすほど呑んだことなんてなかった。

でも、最後のお別れの日に、呑まないままに、恋心に気が付かれないように笑うことなんてできなかった。

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