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誰の彼氏?(直樹ver)

風呂に向かうすみれを見送って、直樹は天井を仰いだ。

すみれに好きな相手ができて、直樹から離れようとしているならば、今からしようとしていることは最低だ。

最低だけど―――逃がさない。

直樹はすみれが入っている風呂場へ向かった。

がらっと音を立ててドアを開けると、すみれの驚いた声が響いた。

「ああ、悪い。荷物取りに来たんだ」

軽い口調で言うと、納得したような声がすみれから洩れた。

さすがに浴室にまで入り込むことはしない。

用があるのは、すみれの荷物だけだ。ちょっといたずら心で着替えも回収してみた。

服は、酒の匂いがしたので、さっさと洗濯機に投げ込んだ。

これでひとまず帰れない。

後は追い詰めるだけだ。


「直樹っ!?荷物がない!」

数十分後、すみれの慌てた声がした。

「ああ。さっき取りに来たって言っただろう」

軽く答えると、さすがにムッとしたようで、慌てた声に、少し怒りが含まれる声がした。

「私の荷物を!?なんでっ?」

「なんでって?俺も聞きたいことがあるんだ」

理不尽だろうが何だろうが、すみれの驚いた声にも、ムッとした様子にもイラついてしまった。そのせいでいつになく低い声を出してしまった。

「そのままでいいから、さっさと出て来いよ。平気だろ?」

この状態で怯えさせてどうするんだと理性が叫ぶけれど、それに従う余裕がない。

しばらく反応がなかったドアがそうっと動いて、すみれの顔がのぞいた。直樹の表情を窺うように、きょときょとと目を動かして、小動物のようだ。

「服だけでも返してください……」

とても可愛かったので、準備したトレーナーではなく、シャツと下着だけを渡した。

素直に受け取ったすみれの目がまん丸になるのも可愛かった。

ちょっとしたいたずらだったが、いい仕事した。

フラれたら最後になるんだから、少しくらいご褒美的なものがあってもいいだろう?

逃がさないと言いながら、フラれるだろう未来にやさぐれて、自分が何をしたいのか分からなくなってきた。

軽く膨れながら脱衣所に顔を引っ込めたすみれを見送って、直樹はため息を吐いた。


脱衣所から出てきたすみれは、なんと雪だるまになっていた。

シャツを着て、下着も着けて、その上にバスタオルを巻いていた。色気なんてあったもんじゃない。奇妙な格好になっていた。

こういう場合、裾を両手で引っ張りながらもじもじしてるっていうのが定番じゃないのか?

さらに裾を引っ張っているせいで胸の形が強調されちゃったりなんだりするもんじゃないのか。

「期待してたのに」

変態っぽい思考を自覚しながらも漏れた本音に、すみれの頬が染まった。

期待度がぐんと上がったが、すみれは素面であればこういう反応をするやつだったと思う。

すみれの反応にいちいち期待してしまう自分が恥ずかしくて、誤魔化すようにコーヒーを入れた。カップが手元にあると、表情を誤魔化しやすい。

「で?なんで荷物まとめてんの」

自分でも驚くほど冷たい声が出た。

「や、あの……私の荷物増えすぎちゃったし、ちょっと整理しなきゃなって」

すみれが直樹を見ないままに何とか誤魔化そうとしているのが分かった。

誤魔化されるはずがないと分かっているくせに。

ここでは、「そうか」と頷いて、すみれを帰せば、きっと『友人』という関係は続けていけると思う。

だけど、そうやって自分をだますには、片想いの時間が長すぎた。

そろそろ、キリを付けてもいいころだ。

「だったら、全部持って帰んなくてもいいだろ?」

直樹が言うと、すみれの弱弱しい声が聞こえた。


「彼に悪いから……」


「――――――は?」

取り繕う余裕なんてなかった。感じた怒りがそのままに声になって飛び出した。

「彼って何。まさか、すみれ、彼氏できたの」

いつの間に。どうして。

『友人』である直樹に何も言わないどころか、『彼』ってなんだ。『彼女』じゃなくて?

問い詰めたいことが多すぎて、言葉にならない。


直樹は無意識にすみれを囲うように体を動かしていた。


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