仲良くなるまで(直樹ver)
直樹と同じ講義にもいるが、直樹の追っかけではなかった。他のあらゆる講義に出没しているらしい。ただただ偉い人の話を聞いているのだそうな。教授の間では「履修生ではないが、講義に参加させてほしい」と言って講義に参加していく小越は結構有名らしい。
単位と必要のない講義を受けるって、それって面白いのか?と思うが、彼女にとっては面白いらしい。
実際、そんなあらゆる教授の話を聞いた彼女の知識は広い。専門的に履修しているわけではないので多くを理解しているわけではないが、多くを知り、それらをつなげて考えることをする。
彼女と話すことは楽しかった。
自然と話し込んで、喫茶店に入ったり、食事を二人でするようになるには、あっという間だった。
すみれと一緒にいるのは、話が合うし、居心地が良かった。
そんなとき、すみれから合コンに誘われた。
―――絶対に嫌だ。
その考えがしっかりと表情に出たのだろう。すみれは苦笑いしながら直樹に言った。
「だったら、他の男性を紹介して」
そう言われた時の拒否感をどう表したらいいだろう。合コンにはいきたくない。男性も紹介したくない。だけど、ここで紹介しない場合、誰を誘う?直樹の知らない人間になるだろう。その合コンに、すみれは参加するのか?
非常に……これ以上ないほどに不本意だったが、考え抜いた末に「行く」と返事をした。
返事をした瞬間に「行くの!?」と驚かれた。
直樹だって、合コンなんかに参加したことは無い。だけど、行かなければならないと思ったんだ。
友人数人に声をかけると、みんな不思議がりながらも合コンに参加してくれた。
結構、人集めは頑張った。
なのに、直樹を誘ったすみれは、合コンそっちのけで飯を食ってやがる。
直樹は女に囲まれて食事さえままならないというのに、だ!
好みの女性を聞かれて、いい加減腹が立っていた直樹は、「女性には興味がない」と返事をした。
直樹の友人も慣れたもので、特に驚きもせずにその話に乗った。
すみれはと言えば、直樹をちらりと見て、特に興味なさそうにまた食事を始めた。
どうせ嘘だというのを見破っているのだろう。『またそんな分かりやすい嘘を』とでも思っているのかもしれない。
自分で考えた、すみれの頭の中に一人でムッとしていた直樹は気が付かなかった。
すみれに『女友達』認定を受けていたことなど―――。
その後も、一番仲の良い友人として過ごし、それぞれに就職をした。
何度も食事に誘ったし、勉強以外のところにも誘った。
だが、すみれは「在学中は恋愛はしない」と言っている通りに、甘い雰囲気などは決してならず、直樹が頑張って立てたクリスマスデートプランさえ、
「こんな高いとこもったいないよ?」
という、涙さえ流せないぶった切りようだった。
まずはどうやったら『友人』から『男性』にしてもらえるのかと奮闘してみたが、どうにもこうにも、理由が分からないが、すみれから直樹は意識してもらうことはできなかった。
もういっそのこと、襲ってやるかと思っているところに、その事件は起きた。
就職後一カ月、在学中は毎日のように会えていたすみれとは、やはりなかなか会えなくなっていた。
そこに、突然真夜中の訪問だった。
「な~お~き~くんっ。あそびましょお」
ハイテンションの酔っぱらいの声が、直樹の住むアパートに響き渡った。
「お前、何してんだっ!?」
「おじゃましまあす」
ドアを開けると、にっこにっこと、真っ赤な顔をしたすみれが上機嫌で上がり込んで来た。
「って、待て!馬鹿かっ」
さすがにこんな夜中に、男の家に上がり込んでどうすると思う。
すみれはどうにも直樹を男性と意識しなさすぎると思うのだ。
ドアに一応鍵をかけて振り返ったその先には、すでに風呂に向かいながら服を脱いでいっている後姿があった。
「こら、すみれっ!」
直樹が怒鳴ると、キャミソールを脱ぎながら振り返ったすみれはにっこり笑って
「お風呂貸して?」
と、首を傾げた。
スレンダーだと思っていたのに、意外と肉付きの良い腰回りや太ももに視線がぬいつけられている間に、すみれはさっさと下着まで脱ぎ捨てて風呂場に入っていった。
「………嘘だろ?」
呆然と突っ立って、呟いたのは、仕方がないことだった。




