愚者の始まり
その日の内にとある噂が広まった。
それは伝説の英雄、【剣帝】の息子の〈転職の義〉での選択に付いてだ。
どの様なジョブに付き、そして誰が作ったスキルカードを使用したのかが王都じゅうにものの数時間で知れ渡った。
皮肉な事に、これが彼のこれまでの人生で最も注目された日であろう。
そして噂の本人は今………
ドッカーーーン!「グギャァァァ!」
………多分生きてる…よね?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「私は今まで何のために君を教育してきたのですかっ?!」
「婚期逃したからじゃないですか?」
「そういう事を言うんじゃありません!私だって好きで独身でいる訳じゃないんですよ?!」
バゴーーん!!
「ていう何で【テイマー】?!それにノルモット先生の『悪魔の禁書』のスキルを取るなんて!」
あれっ?禁書のあだ名が微妙に違う、まぁそれでも通じるけど、それノルモット先生が悪魔って言ってるような………あぁ妥当な評価か。
と降り注ぐ火炎魔法を避けながら考える。
「別にいいじゃないですか、俺が自分で決めたんですし。
これでもう俺はSクラスじゃなくなるわけですし、もう先生には関係の無いことですよ?」
「えっ?あ!そ、そう言えばそんな事を言ってしまいましたね。
じ、じゃあ本当に出ていって貰いますからね!良いんですね?!」
「はい、と言うかやめます、学院。」
「ええ、そうでしょう!今なら特別に誤っ………え?
辞める?!ウルマティア王国の一の学院、ウルマティア学院を?!!
えっ、な、っ。
そ、…そんな事出来るわけ!この学院に入れる事がどれだけ光栄な事なのか忘れてしまったのですか?!
大貴族のご子息でさえも試験を合格しなければならない、大王様が卒率されたこの学院を?!」
「ええ、俺には合わなかったようです。
ツー訳で、さようなら、いままでありがとうございました。」
もう良いかと思い俺は混乱しているアジュリカ先生を放っておいてこの学院から出ていこうとした。
と、その時
バキ!シャリーン………
氷の矢が俺の行く手を塞いだ。魔法が放たれた方にいたのは………
「アンタ、どう言うことなの?」
手をこちらに向けたミリアンヌ•バーミリオンと、その横に、
リヒト•ゼリアス
マリアナ•ソフラ•アークリア
ハート•クインズマン
そして、ユリア•オルゴットが並んでいた。
「んだよ、ミリー。行き成りの魔法なんて撃ってくんなよな、危ねーだろ。
つーかかなり強くなってね~か?これならもうそこらの中級職に勝ってんじゃ………」
「話を逸らさないで!」
まーたミリーに睨まれた………こいつのパンツはあんなに可愛いのになんでこいつ自身はこんな何だ?(顔も可愛いのに。)
「アンタ本当に【テイマー】になったの?
それに『禁書』からスキルカードを使ったせいでレベルも上がらないし、ポイントがマイナス二千になったって?!」
「おお。」
全員が顔をしかめ、俺にバカを見るような目または怒りの視線を向けて来た。
「アンタって本当にバカだったのね!」
あっ、言いやがった。バカって言った方がバカ何だよバーカ!とは言わないでおこう、俺ってジェントルマン!でも…
「別にもう俺が何しようが勝手だろ?お前らには関係ない。」
「なっ!アンタ自分が何言ってんのか解ってんの?今でも同じクラスだし元パーティーって言うだけでアンタは私達と関係があると思うでしょ?リヒトが勇者として大陸に名を広めた時、元パーティーが変なやつじゃ示しが付かないでしょうが!つーかアンタユリアの事を忘れてるんじゃない?!残念だけどこの子をアンタの腹違いの妹なのよ!アンタ、ユリアの汚点になりたいの?この子がどんだけ真剣に授業に取り込んでるのかアンタでも分かるでしょ!オルゴットの為に、家族の為にって!そう!オルゴット家、アンタ一様長男何でしょ?!今まで何百年も続いた剣の名家としての誇りはないの?アンタはオルゴット家の名に泥を塗ったのよ!恥を知りなさい恥を!それに今までお世話になったアジュリカ先生に申し訳無いとは思えないの?先生が私達の為にどれだけの事をしてきてくれたか!リヒトが勇者になってからも変な貴族達から守って下さったり、私達が更に効率よく強くなれるようにプランを考えたり!知らないでしょうけどアンタの分も考えてくれていたのよ?!知ってたらこんな馬鹿な真似しなかったでしょうけど!」
なんかミリーが爆発した。チンチクリンだけど凄い迫力だな…
でも何かいつもより…
「で?それが俺になんの関係があんの?」
「なっ!何開き直ってんのよ!ありありじゃない!アンタの家族と学院の話よ?」
「いや、俺今学院辞めて、ユリシアさんに誤って来いって言われてるけどお前らに謝る気がね~から家も帰れねー、つーか帰らねー。」
え? とユリアがいる方から聞こえた気がした。
「!!はっ?せっかくSクラスに残れる様に頼んであげたのに。
それに誤りたくないからって家出るなんて、本当にガキねアンタ!
どうせ【テイマー】になったのもモンスターとか進化させて、可愛い魔族や魔人になった所でいかがわしい事でもしようとしてたんでしょ?」
「おお!俺でもそんな事思いつかなかったぞ、やっぱお前ってムッツリだよな。」
(俺が考えてたのはスライムでまたお前のパンツをじっくり観察する事だ、なんて流石に言える雰囲気じゃねーな。)
ミリーの顔が真っ赤になった。
「べ、別にアタシムッツリじゃないもん!普通だもん!」
と、さっきとは打って変わって可愛い声で講義してきた。
うん、ずっとこんな声なら良いのにな。………でも、もうそろそろこいつらともお別れだな。
そんな事を考えてたら、やっと【勇者】様のご登場の様だ。
「何故君はこんな事を?もし僕達とパーティーを組めなくても君には【剣士】としての未来が待ってたのに。
それにパーティーでは無いけど僕達はずっと友達だ。こんな事をするんだったら僕達に相談して欲しかったよ。」
………相談?相談ね~。
「ああ、そうだな、相談するべきだったかもな。」
「当たり前だろ?何が起ころうが僕達は………」
「相談するべきだったな、お前達みたいに『魔法実技の授業』中にでもな!」
「「「「!!!」」」」
あいつ等のあんな阿呆ズラ久しぶりに見たな。
おっ?全員気づいたみたいですね~。皆が先生の方を見た。
「あっ、そう言えば………言っちゃいけなかったんだっけ?」
と、ようやく自分のミスに気づいた。
「待ってくれ、これには訳が!」
「『僕達は君が魔法が使えなくても仲間はずれになんかしないよ。』だっけか?昔俺がイジメられてた時そう励ましてくれたんだっけな。
あん時は余りの嬉しさに号泣しちまったんだっけかな?懐かしい思い出じゃねーか。」
…多分俺は心の何処かではパーティーを辞めさせられることをある程度は納得していたんだ。
でもよ、…今まで俺を、魔法も使えない欠陥品を、支えてくれたていたのはあの日こいつ等が俺にかけてくれた言葉だったんだ。
その言葉を、支えを、こいつ等は裏切りやがったんだ、だからもう俺はこいつらの事を仲間とは思えねーし、信じらんねぇ…
「っ、だ、だが本当に理由が!」
「もしその言えなかった理由が《秘密を無闇に広めない為》か《先生か誰かが言うなって命令されたから》、以外の理由なら今言ってくれ。
それら以外の理由なら、俺はもう何もお前らに聞かねぇ。
どうなんだ?」
「………………」
ああ、この反応には見覚えが有る。
「図星かよ。」
………誰も俺の目を見てくれなかった。
「し、しょうがなかったんだ。世界の為にはこれが最善だったんだ。
例え恨まれても、僕は【勇者】として世界を救わなくてはいけないんだ!
僕は【勇者】なんだから!!」
……………………………そうかよ……………………………
「お前何で俺がこんなことしたのかって聞いたよな?
お前を倒すためだ。
俺はお前を倒す。どうとかいつとかはまだ分かんねーんだが、これだけは言える。俺はもうただお前を倒押しても意味がない、だから俺はより困難だろうとここで宣言する。
俺はお前を『正しく』倒す。
正直正々堂々なんてクソ喰らえだが、お前はそういうふうに倒したい。勿論お前にリスペクト何ぞね~し、正しいことをしようなんて精神はねぇ。
どういう状況でそうなれんのかなんて俺にも分かんねーが、俺がお前を倒すことが世界の為になる様にお前を倒す。
そこまで行くためになら何だってやってやる。
覚えとけ、俺はお前を一人で倒す。
今は無理だ、この後数年も無理だ。だがいつかはお前を真正面から倒してやる。
残酷な程堂々と、
冷酷に法に従い、
正論と正義で武装し、
民主の期待と言う名の暴力で、
お前を実力でぶっ潰してやる。
ーーーお前がそうしたように。」
「………【勇者】である僕を倒す事が正しい事になるわけないじゃないか。
それに【テイマー】の君にはもう一人では【勇者】の僕には勝てない。
君が言ってる事は不可能な上無意味だ………
馬鹿でもやらないよ。」
「いいじゃねーか、それでも。なら俺はバカ以上に愚かになるだけだ!
ああ、そう言えば今俺がなんて呼ばれてっか知ってるか?
『愚者』だとよっ。ぴったりじゃねーか。
実際面白いと思うぜ?『愚者』が【勇者】に勝つ事ができんのかってよ。
無理だと言われても試さなきゃ開けねーんだよ。
………だって俺は『愚者』なんだから。」
それだけ言う、もう誰も何も言わなくなった。
俺は全員を見回してこう言い残した。
「じゃあな。」
……………………………
その場を去り、俺は
仲間と、
家と、
家族と、
居場所と、
剣と、
身分と、
安定と、
安心と、
今まで積み上げた全てと、
友達を置き去りにして
『愚者』となった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「よお!【星見】の、元気にしてたか?」
「これは大王陛下、お久しゅうございます。
陛下が城にいるとは珍しいですね?国王陛下がお探しになってましたよ?
『あのクソジジイこんどはどこで遊んでんだ?!』と。
例の新しい【勇者】の事で相談があったそうです。」
「おお聞きたいか?こんどはカネヒス山が噴火したので溶岩の上を[グラディゴウ•オニキドラゴン]の牙で作ったマイボードでサーフィンしていたのだ!
楽しかったぞ〜、溶岩から[マントル•シャーク]が襲いかかったてきてな!あ〜、今思い出しても楽しかったぞ!
それに比べて【勇者】か………面白くないの。
奴らは異世界から【勇者】が来てから繁殖期のウサギの様に増えてるではないか、最早珍しくとも無い。
確か、あのリヒトとか言うガキであろう?」
「ええ、リヒト君で間違いありません。
確かに【勇者】は増えましたが、それでも今世界には五人しか確認を取れてません。
神が授けてくださった貴重な人材にはかわりありませんよ。」
「ふん、小娘がワシ説教するな。
おお、そう言えばあの【勇者】、パーティーメンバーを一人首にしたそうだな。
確かオルゴット家で『トゥオルグカイザー』の血も引く方のガキだな。
しかもそいつが焼けになってしたことが広まっておるぞ?確か街で『愚者』と呼ばれていた!
ハハハ、豪快な奴だな、ワシでもノルモットのカードを使おう何ぞ思わんぞ!」
「………あの子には悪い事をしました。
まさかリヒト君達が仲間を切るとは思っていませんでした。
………いえ、もししたとしてもまさか一方的に彼と話し合わずに決めるなんて。
その性で、彼は茨の道を自分で選ばなくては行けなくなりました。」
「ハハハ!まさかあの様なスキルを取り、オルゴットの名を捨て、【勇者】に喧嘩を売るとはな!そして皆に見下され、まさに『愚者』じゃの!」
「………幾ら陛下でも人を愚弄するのはいかがな物かと。」
「ん?何だ?貴様、占い師の頂点と言われるくせに知らんのか?」
「?なんの事でしょうか。」
「流石に貴様でも異界の占いは知らんようだな。
何でも前に【勇者】共が来た異界には『アルカナ•カード』と言うカードを使った占いがあるそうじゃ。
そのカード達には色々な書類が合ってな。例えば『魔法使い』、『女帝』、『力』などがあるそうじゃ。其々に見合う絵と意味がある。
その中に『愚者』のカードもある。
『愚者』のカードに描かれているのは少ない荷物を持ち、貧相な服を着て、荒波が囲う崖を向いた無職の放浪者の絵だ。」
「それは………、確かに今の彼の状況に似てますね。
どう言う意味を持つのですか?」
「ほほ、それがなんでも少し面白い解釈をしておっての。
愚者は少ない荷物しか所持せず、何の職を持たないから皆に愚かと馬鹿にされる。
だが絵の中の愚者はとても幸せそうなのじゃ。
少ない荷物も、考えに考え抜いて自分に本当に必要なものしか持たないからじゃ。
例え他の者に愚かと笑われようと、自分の好きなように生きる。
誰の為でもない、自分だけの人生を歩む。
それこそが本当の幸せというものかもしれないな、だからこそ自由に生きられない他者は嫉妬し、愚者と馬鹿にする。
だが『愚者』の本質とは自由で、独特な発送を持ち、無邪気で、
誰よりも可能性を秘めておる。」
「そうですか………、たしかに彼に合ってますね。」
「だが逆位置になると軽率で、短期で、落ちこぼれで、ワガママという意味にもなる。
多分こっちもあっているであろう。
どうせ今回の件ではカードやらは考え抜いた独自の発送であろうが、最終的に決めた理由は短絡的な気がする。
あの年頃の男なら多分エロい事が決め手になったのではないかの!ガハハハ!」
(……………………どうしてでしょう。
彼の尊厳の為にも本来あり得ないと笑ってあげるべきなんでしょうが、どうしても否定ができません…
まさか…ね?)
「まぁどう言う理由でこうなったのかはもうどうでもいいな。
これから奴がどうするのか、ワシは少し楽しみじゃ。」
「………ええ、そうですね。」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「こんにちは!冒険者になりに来ました!」
「ん?おうわかった。名前と銅貨一枚よこせ。んで持って…よっと。
この鑑定板に手を乗せろ、冒険者カードを作ってくれる。」
「はい、これをどうぞ。
んで俺の名前は……………………
ネロです!」
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名前: ネロ
性別: 男性
種族: 人間
年齢: 14
称号: 愚者 駆け出し冒険者
戦闘力: 172
魔力量: 547
ジョブ: テイマー レベル 1(従魔: 0)
スキル: 〈剣術Ⅰ〉
〈指弾〉
〈刻印術〉
〈毒耐性•小〉
〈経験値完全貯金〉
〈主君の特権〉
〈刻印強化•小〉
〈早寝〉
〈種を地の底へ〉
装備: ボロボロの制服
銅貨
トゥオルグカイザーのお守り
ノルモットの禁書
スキルポイント:-2000
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《第1章 愚者の始まり 完》
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
次はネロの冒険者としての生活を書いていきたいです。
ではまた。