第11話 寄生生活16日目
す、すきやきにお酢はダメ!
――ハッ! 変な夢を見たぜ……
俺は気がつくと、自分の身体に視点が戻っていた。
身体がものすごくだるい。
一体どういう状況になったんだろうか。
とりあえずステータスを確認してみると、一部に変化があった。
【MP:5】
MPが減っている。
つまり、MPを使用する行動をとったという事だ。
感覚共有は以前から使用しているし、その時にMPは0だった。
つまり――
【思考操作】
――このスキルの使用にはMPを消費するってことだ。
そして、使いすぎると今回のように意識を失ってしまう。
すごい能力を手に入れたと思ったのに、また制限付きである。
俺は一体いつになったら、勝ち組になれるのか。
いや、寄生虫なんてものに生まれた時点で望むべきではないのか……
つい、自嘲気味に笑ってしまう。
ひとまず、身体がだるくなくなるまで休むことにする。
*****
しばらく休んでいると倦怠感はかなり治った。
休みながら観察していたが、どうやらMPは1時間程度で1回復しているらしい。
現在は12まで回復した。つまりは7時間ほど休んでいたことになる。
そして、俺はもう一度【感覚共有】と【思考操作】を使用する。
ぶっ倒れたくせにバカなのかって?
別に興味本位で使っているわけじゃない。
俺は一度だけ思考操作を使用したあと、感覚共有を解除する。
そして、体調をまず確認。
――うん、特に使用前とは変わらない。
次にMPを確認する。
――MPは11になっている。
やはり、思考操作でMPが消費されている。そして、一度の使用で1消費される。
しかも、これは操作の成否に関わらず消費される。ということがわかった。
なんで成否を問わないかって?
気絶する前に色々試した結果、失敗することがわかっている命令を今試したからだ。
この【思考操作】だが、説明を見て書いてあったように、制限がある。
簡単にいうと、即実行可能な命令ならば行動を起こしてくれる。
例えば最初に試した――『近くの木を倒せ』
これは、すぐそばに倒木可能な木があったからだ。
次に試した――『近くの水場で水を飲め』
これは、近くに水場が無かったんだと思う。
もしくは、命令が二つだったからだ。
試した中にこんなのがあった。
『近くの木に登って木の実を食え』
これは対応できなかった。
しかし――『近くの木に登れ』『木の実を食え』
この命令であれば行動を起こした。
つまりは、一度の命令で一つの事柄を指示しなければ反応しないってことだ。
あとは――『近くの海へ行け』
これも反応しなかった。
つまり、海が近くにはないってことだ。
もしかすると、それ以外の法則性があるのかもしれないが、試した限りだとこれ以上は判らない。
あるいは、全て間違っている可能性だってある。
繰り返すが、俺はこの世界では最弱といってもいい程の弱者だ。
持っている優位性といえば、 体内に潜伏できる事とそれにより死を逃れられる事。
そして最大の優位は前世の記憶がある事だ。
俺にとって『寄生』することは生命線。
これは前世から一緒だ。
親が部屋に入ってくる瞬間。親が怒りに小言を言う瞬間。
そういった【危険】を事前に察知し、のらりくらりと躱すことが、快適な寄生生活を送る上で一番大事なことなのだ。
これらの優位性を最大限に活かすには、手持ちのカードをどれだけ把握して、活用できるかにかかっている。
そのためには、試行と失敗。
死ぬ危険性が少ないうちに、できることをできるだけ試して、知れる情報は事前に知っておかなければいけない。