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圭太の思い違い

「圭太君、事件の事は何かわかったの?」

水花が圭太に聞く。

京ノ介の事件から三日が経った土曜日の午後、達也と水花の二人が圭太の家に遊びにきたのだ。

「いや、全く・・・」

首を横に振り、お手上げだといわんばかりの表情をする圭太。

「そっか。オレらは警察でも何でもないただの中学生だ。ちょっと調べただけでわかるようじゃ、警察はいらないって事だな」

事件に首を突っ込んでいる圭太に、あまり深く関わるなという意味で言う。

「オレなりにヒマワリの花言葉の意味をわかりやすく調べてみたんだけど、難しくてよくわかんねーんだよな」

そうぼやいて、きちんと国語の授業を受けないといけないなと思う圭太は、数学のノートの最後のページを開く。

それは達也の言葉を胸に留めながら、事件を解決したいという圭太の思いだった。

「なんで数学のノートなんだよ?」

自分の言葉で食い下がるわけがないと知っている達也は、わけがわからない様子だ。

「手元に紙がなかったからな」

圭太の答えに、苦笑いする達也。

「それで意味ってのは?」

水花は圭太にヒマワリの花言葉の意味を教えるように急かす。

「大きいヒマワリの花言葉が、傲慢とあなただけを見つめる。後者は誰でもわかるからそのままにしておくけど、前者の傲慢の意味は横暴で人を侮ること」

そう言うと、圭太はお茶を飲む。

「小さいヒマワリの花言葉が、崇敬と憬憧。崇敬は敬うこと。憬憧は憧れ」

「そんな意味があるんだな」

達也はノートを見ながら言う。

「でも、これだけじゃ、ね」

水花は圭太の書いたノートを見ながら呟く。

「そうなんだよなぁ・・・。花言葉の意味だけわかっても仕方ないんだって」

圭太は途方に暮れた言い方をする。

「あー、わかんねー」

そう叫ぶと、圭太はソファに寝転ぶ。

「まぁ、そう焦るなって・・・」

「焦るなって言われてもなぁ・・・。もし、鈴木さんの死が殺人だとしたら犯人は二人も殺害してるって事なんだよな」

まだ確証していない孝正の死が殺人だったら・・・と思うと、一刻も早く犯人を捜さないといけない思いが強い圭太。

「そうだな」

達也も一度だけしか会った事のない孝正の死を無駄にしたくないという思いのようだ。

「鈴木さんと島川の麻薬の取引きの証拠はあるの? 警部さんと約束したんでしょ? 二人の取引きの証拠を見つけるって・・・」

水花は心配そうに言う。

「思い当たる物証はあるんだけど、イマイチ確証はなくて・・・」

圭太は目を閉じて答える。

「珍しいな。圭太の自信のない声、久しぶりに聞いた」

「え・・・?」

達也の言葉に、圭太は目を開けて達也のほうを見る。

「圭太が自信のない時は沈んだ声になる」

達也は圭太の声をきちんと聞き分けているようで、的確に指摘する。

「オレの事、よくわかってんじゃねーか」

圭太はふっと笑う。

「当たり前だって。小学校一年からずっと知ってるんだから・・・」

得意そうな笑顔を圭太に見せる達也。

そんな二人を水花は羨ましいという思いで微笑んで見ていた。






その日の夜のニュースでは、三日前に起こった京ノ介の殺害に関する報道がされていた。

(まだ何もわかってねーのにな)

圭太はニュースを見ながら思う。

「はい、圭太」

風呂からあがってきた聖一は、圭太にホットミルクが入っているマグカップを手渡した。

「ありがとう。事件の方はどうなんだ?」

聖一からマグカップを受け取りながら、捜査状況を聞く圭太。

「なんとも言えないな」

「ふーん・・・」

いくら身内でも教えられないんだなと思いながら、ホットミルクを飲む。

「今日、鈴木の死も殺人だと認められたよ」

聖一は捜査状況は教えられないが、これだけはいいと思い、圭太に教えた。

「ホントに!?」

「あぁ。鈴木の死がおかしいと感じが主治医が調べたところ、鈴木の体内から睡眠薬と精神安定剤が発見された」

聖一はコーヒーを一口飲んでから言う。

「それは胃ガンと結びつくのか?」

「今、捜査中だ。睡眠薬と精神安定剤は薬物と一緒で、精神や身体的依存が多いんだ。脳への作用は抑制される、と主治医が話していたよ」

聖一は孝正の主治医が話していた事を息子にわかりやすく説明しながら話す。

(睡眠薬と精神安定剤か・・・)

「もしかして、睡眠薬と精神安定剤も麻薬の取引きに関係してるのか?」

「確証はないが、恐らく関係してるだろう」

「そうなんだ。わからない事が多くてお手上げだな」

圭太はため息をついた後に言う。

「そういえば、鈴木さんってどんな人? 小学生の時から何度か会ってるけど、よく知らなくて・・・」

圭太は孝正がどういう人物かを聞いてみる。

「成績優秀で学級委員をやっていたよ」

中学から孝正と仲が良かった聖一は、懐かしそうに話す。

「中学から六年間、一緒だっけ?」

「そうだ。中学と高校は生徒会に所属していて、中学が会計で、高校が副会長。高校では周りから会長をやれという声が多かったが、鈴木は会長をサポートしたいと言って、会長をやらなかったんだ」

孝正の謙遜ぶりにはいつも驚かされていた。

「柔道部も中学から一緒で、出来はまぁ良かった」

聖一は遠い目で孝正と一緒だった六年間を思い出すように話す。

「親父は柔道は強いけど、勉強は全くだろ?」

圭太は冗談交じりで言う。

「放っておけ。これでも高校は進学校でそれなりに勉強は出来たんだぞ? 鈴木は性格も良くて明るいし、女子にモテてたよ」

聖一は当時から女子にモテていた孝正を羨ましいと思っていたようだ。

(鈴木さんの性格が明るい・・・? そうだったっけ?)

圭太は聖一の言葉に違和感を覚えて首を傾げる。

「親父、鈴木さんって明るかったっけ? 少なくともオレが会った時はそんな感じじゃなかったけど・・・」

圭太は自分か感じた孝正の印象が違うと主張する。

「そうか? 鈴木は昔から明るい性格だぞ? 同窓会でもそうだったし、入院中もずっとな」

「え? 入院中も?」

「そうだ」

聖一は学生時代から変わらない性格だと頷く。

(鈴木さんが明るい性格・・・? そんな・・・)

圭太は自分の記憶違いなのかなんなのかわからなくなってしまった。

「圭太の目には鈴木はどう見えていたんだ?」

聖一は息子の様子がおかしいのを察知し聞いてみた。

「オレには落ち着いたさっぱりした人だなって思ったぜ。穏やかだったしさ」

圭太は自分が感じた孝正の印象を伝える。

「圭太にはそういうふうに見えていたのか・・・」

聖一は自分と息子の見え方が違っていたんだと思う。

「今回の事件とは関係ないと思うけどな」

圭太はホットミルクが入っているマグカップを机に置きながら言う。

(ますます深くなっていく事件だ。でも、なんでオレの目には、鈴木さんが落ち着いたさっぱりした感じで、穏やかに見えたんだろう?)

「他人には鈴木さんってどう見えてたと思う?」

圭太は考え事をした後に聖一に聞いた。

「さぁな。人の見え方は色々だからな。学生時代の友人や同級生は、オレが言ったとおり、明るくて成績優秀な人物だって言うぞ」

聖一はきっぱりと言い切った。

「そうなんだな」

まだしっくりこない圭太。

「お、もう十一時だ。圭太、そろそろ寝る時間だ」

「あ、うん・・・」

圭太はホットミルクを一気に飲み干して、自分の部屋に向かった。

しかし、孝正の性格の事で寝付けず、結局、圭太は十二時過ぎに眠りについたのだった。











翌日の放課後、圭太と達也、水花の三人は、通学路にある公園によった。

「・・・どう思う?」

圭太は昨夜の聖一と交わした会話の中で出た孝正の性格の事を二人に聞いてみた。

「一度しか会った事ないからわからないけど、オレは大人しい人だと思ったぜ」

「私もよ」

二人は圭太と同じような意見だ。

「・・・だよなぁ。オレも何度か会った事あるけど、とても明るい人って感じじゃなかった」

圭太の脳裏には今までの孝正が浮かんだ。

「年のせいっていうのもあるんじゃない?」

水花は公園で遊ぶ小学生を見つめて言った。

「昔は明るくても四十代とかになると落ち着くっていうし・・・」

「そんなもんなのかなぁ・・・」

しっくりこないままの圭太。

「鈴木さんの性格の事で前に進めないんだろ?」

達也は孝正の性格にこだわっている圭太に言う。

「まぁな。何かないと性格って変わらないと思うし、どうなんだろうな?」

圭太は水花の言ってる事もわかるけど・・・という意味合いを込めて言う。

「島川と麻薬の事で何かある、とか・・・? そのせいで鈴木さんの性格が落ち着いて見えたって感じじゃない?」

水花は自分が言った事がまだしっくりきていないんだなと思うと、京ノ介と麻薬の事で大人しく見えたのではないかと意見する。

「それはあるかもな」

圭太がそう言った途端、スマホがバイブした。

「メールか?」

達也と水花は圭太のスマホを覗き込む。

「鈴木と島川の関係は五年前から始まっているようだ、か・・・」

圭太は聖一からのメールを読んだ。

「五年前か・・・」

圭太は五年前から続いている二人の関係にぼんやり思う。

(ちょっと待てよ。オレはすごい思い違いをしてたんじゃ・・・? 今、水花ちゃんが言った島川との関係で、落ち着いた性格のフリをしてたんじゃ・・・? オレが鈴木さんと初めて会ったのも五年前だったし・・・)

圭太の頭の中では色んな考えが巡った。

「圭太君・・・?」

メールを読んだ後、何も話さない圭太を気にする表情をする。

「水花ちゃん、ビンゴかもしれねーぜ!」

「え・・・? どういうこと?」

水花は何がなんだかわからないでいる。

「今、言った事だよ。鈴木さんと島川の麻薬の事・・・」

「ホントに?」

水花は驚いている。

「水花ちゃん、やったな!」

達也は水花にピースをする。

水花は自分が言った事が圭太の役に立てたんだと思うと、嬉しそうに頷く。

(島川が鈴木さんに指示したものなのか? 落ち着いた性格っていうのは・・・。それに、水花ちゃんから手紙を奪い取った態度って・・・)

圭太の中で少しずつ謎が解け始めていた。

「水花ちゃんから手紙を奪いとった鈴木さんの態度がなんとなくわかったかもしれない」

「マジで!?」

達也は急な圭太の言葉に驚く。

「うん。さっきの水花ちゃんの言葉でな」

自信満々に答える水花。

「教えてよ」

水花はボソッと言ってみたが、

「いや、今はダメだ」

「えーっ、なんでー?」

水花は自分の発言でわかったのに教えてくれてもいいのに・・・という気持ちで言う。

「今すぐには無理だって。色々と準備があるからな」

(少しだけど一つわかった。それでも一歩前進したかな。それでもいくつかの問題が残ってる。全ての問題が解けないとな)

圭太はすっかり考えこんでしまった。

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