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父の友人の死

九月の最後の土曜日、この日は雨が降っていて、少し蒸し暑いくらいだ。

中学三年生の塚原圭太は、学校の友達の西川達也と近所に住んでいて一つ下の学年の山井水花を連れて、父の友人の見舞いに行く事になった。

なぜ圭太が父の友人の見舞いに行くのかというと、小学生の頃に何度か会った事があるからだ。そして、達也と水花を連れて行く理由は、二人を紹介したいと思ったからだ。

達也は小学校一年生からの友達で、一番最初に仲良くなった。ひょうきん者だが友達や将来の事は真面目に考えている。

水花は元々北海道の旅館の娘で、四年前に家の事情で東京に引っ越してきて、圭太の近所に住んでいるのだ。

父の友人の入院している病院は、駅から歩いて徒歩五分くらいのところにある大きな総合病院だ。圭太は受付で病室を聞き、三階まで階段で行くと、父の友人の病室をノックした。すぐに中から男性の声で返事があり、ドアを開けて中に入った。

三人が病室に入ると、父の友人である鈴木孝正が点滴をしている最中だった。

「圭太君かい? 少し見ないうちに大きくなったな」

孝正は少し微笑んで言った。

「そこに座ってないで座ってくれ」

「あ、はい・・・」

圭太は返事をすると椅子に座る。

「今日は友達と来てくれたんだね」

孝正は達也と水花を見て、圭太に言った。

「はい。西川達也と山井水花です」

圭太に紹介された二人は会釈をする。

「今日は見舞いに来てくれてありがとう。今日来る事はお父さんから聞いてるよ」

孝正は圭太が来てくれた事が嬉しいのか笑顔で言う。

それに、圭太が少し見ないうちに大きくなった事に親戚の伯父さんみたいな感じでいた。

「いえいえ。父から聞きましたけど胃ガンだって・・・」

「この前の会社の健康診断に引っかかってしまって、この病院で詳しく調べてもらったら、胃ガンだってわかったんだよ」

胃ガンだとわかった経緯を苦笑いしながら話す正孝。

「圭太君のお父さんとはいつから知り合いなんですか?」

水花はソプラノの声で興味津々に聞いた。

「中学と高校の友人で、柔道部の仲間でもあるんだ。まぁ、アイツには柔道は一度も勝てなかったけどな」

「圭太の親父さん、柔道、強いもんな」

達也は圭太の父親の柔道の腕前を知っているせいか、しみじみ言う。

「確かに。最近、オレも柔道始めたんですけど、親父には勝てねーよ」

圭太は悔しそうな声で話す。

「アイツに教えてもらっているのかい?」

孝正は聞く。

「はい。週に一度、近くの道場で教えてもらってるんです」

「そうか。学生時代は後輩から教えからが上手いと言われていたから、圭太君もすぐに上達するよ。おっ、点滴が終わったみたいだ」

点滴が終わった事に気付くと、孝正はナースコールを押す。

「手術はしないんですか?」

「・・・まだだけど・・・」

一瞬、間をあけて達也の質問に答えた孝正。

「だけど・・・?」

圭太は孝正の顔を覗き込む。

「予定が、ね」

はぐらかす孝正。

きっと言いたくないのだろう、と圭太は思った。

そして、孝正は暗い顔をして俯いてしまった。

(ヤ、ヤバ・・・手術の事、追及しすぎたかな・・・)

「鈴木さん、ごめんなさい。手術の事・・・」

「オレもごめんなさい」

圭太と達也は孝正に手術の事を謝った。

「いいんだよ。二人共・・・」

笑顔で許してくれる孝正。

「あ、この手紙、誰からのですか?」

水花は机の上に置いてある手紙に目をやって話題を変える。

「島川京ノ助・・・?」

水花が持っている手紙を覗き込んだ圭太が送り主の名前を呟く。

「いや・・・それは・・・」

水花から手紙を奪って引き出しにしまった孝正。

(また余計な事をしてしまったな。でも、なんか変だな)

圭太はそう思いながら孝正の態度に妙な違和感を覚えていた。














孝正の見舞いから十日、圭太の元に孝正が亡くなったと連絡が入った。

「鈴木さん、だいぶ胃ガンが悪化してたんだな」

孝正の葬儀に向かう途中、圭太は警察官の警視である父の聖一に言った。

三人で見舞いに行った時は元気そうだったのにな、と圭太は思う。

「そうみたいだな」

友人の死を認めたくないという感じで呟くように言った聖一。

圭太の脳裏には、手術の事で言葉を濁した孝正のバツが悪そうな表情が思い出された。

「西川君と水花ちゃんとはどこで待ち合わせをしているんだ?」

「駅前のコンビニ」

圭太は何か考え事をしているような口調で答えた。

「どうした? 元気なさそうだが何かあったのか?」

「一つだけ気になる事が・・・」

(水花ちゃんからう慌てて奪いとった鈴木さんの態度が・・・)

「圭太・・・?」

「あ、いや、なんでもねーよ」

圭太は首を横に振った。

だが、聖一は息子の様子がおかしいと感じ取っていた。

駅前のコンビニで達也と水花と合流し、葬儀場に向かった。

孝正は大学卒業後、大手の和菓子店に就職し、営業マンとして優秀な成績を残していた。

葬儀には社内の人間や取引先の人間がたくさん出席している。それを見た圭太達は孝正が社内での人望が良かったんだろうなと思っていた。

「うわぁ・・・人がたくさん」

達也が葬儀に来ていた人を見て、唖然とした声で出す。

「そりゃあ、大手の和菓子店に勤めていたからな」

孝正の勤め先を知っていた圭太は、多くの人が葬儀に参列してもおかしくないというふうに言う。

「圭太、行くぞ」

「あ、うん」

慌てて圭太と達也は聖一の後を追いかける。

「塚原警視!」

そこに渋い声の男性が背後から聖一に声をかけてきた。

「お、三沢警部じゃないか!」

思わぬ再会に聖一は驚いた表情をした。

三沢警部は聖一の部下であり、圭太も知っている警部なのだ。

「警部、どうしてここに・・・?」

圭太も驚きを隠せないでいる。

「ちょっとな・・・」

言葉を濁す三沢警部。

「それより塚原警視達こそどうしてここに・・・?」

「亡くなった鈴木と学生時代の友人なんだ」

「そうだったんですか。圭太君達はともかくとして、なんでこの二人までいるんですか?」

三沢警部は圭太の後ろにいる達也と水花のほうを見て聞いた。

「鈴木さんが亡くなる前、胃ガンで入院中に見舞いに行ったんだ」

圭太が代表で答えた。

「どけ! どけ!」

そこに野太い大きな声で、喪服を着た男性が入ってきて、辺りが騒然とした。

その男性は大きな身体で威圧感があり、見る限りどこかの社長という感じだ。

男性が通ると、周りは通り道を作る。

「あの人、誰なの?」

水花は聖一にそっと聞く。

「島川京ノ助だ」

聖一の代わりに三沢警部が答える。

(島川京ノ介って・・・)

名前を聞いた途端、孝正の手紙の送り主だと思った圭太。

「オイ、圭太・・・」

達也も同じように思ったのか、圭太に聞き覚えのある名前だよなというふうに言う。

「あぁ・・・」

(鈴木さん宛の手紙の相手じゃねーか)

圭太はわかってるというふうに頷く。

「圭太、知ってるのか?」

二人の様子に気付いた聖一が、息子に知っているのかと問う。

「いや、別に・・・」

圭太はなんでもないと言う。

「島川京ノ介は老舗の和菓子店の主人で、現在五十歳です」

三沢警部は聖一に自分が知っている情報を教える。

「なんか、五十歳って感じがしないね。もっと上に見える」

水花はゆっくりとした口調で言う。

「確かにそれは言えてるな」

達也も頷く。

「それに感じ悪くない?」

続けて、水花が小声で言う。

「まぁな。警部、後ろにいる女性達は・・・?」

圭太は何か事情を知っている三沢警部に聞く。

「黒の着物を着ているのが、後妻の加江。黒髪のロングヘアの女性が、長女のいずみ。茶髪の派手めの女性が、次女のけい子。大人しくて品のある女性が、三女のすみれ。この三女が父の跡継ぎをすると言って物議を醸しているんです。三人共、京ノ介の実の娘で、前妻との間に出来た娘です」

一人ひとり説明する三沢警部。

後妻の加江は喪服の着物を着ているが、それに似つかわしくない派手な指輪をつけている。娘達は喪服のワンピースを着ている。

「前妻とは離婚なのか?」

加江が後妻だと聞いた聖一は、前妻との事を不思議に思う。

「死別です。十二年前に病死しています。加江とは七年前に再婚したようです。島川の店の常連客として来ていた加江を島川が好意を持ち、結婚までに至ったようです」

「そうか。でも、なんで、知っているんだ? そんなに詳しく・・・」

聖一は不思議そうな表情を三沢警部に向けながら聞く。

「今から六年前、次女のけい子が高校二年の時に盗みやタバコをやっていて、悪い連中とつるんでいたんです。何度も補導され、うちの署にもよく補導されていて、けい子の父親が島川京ノ介だという事を知ったというわけなんです。そして、老舗の和菓子店の主人だという事も・・・。恐らく、父親と加江の再婚が気に入らないのが原因かと思います」

けい子を見ながら答えた三沢警部。

「そういうことだったのか」

聖一は納得するとけい子を見た。

「悪い事をやっていたっていう感じだな」

達也は腕組みをして、けい子の派手な容姿で頷く。

「とりあえず焼香しに行こう」

聖一が促す。

(島川京ノ介・・・。一体、鈴木さんとどういう関係なんだ? ただの和菓子屋の知り合いってわけではなさそうだ)

圭太は列に並んでいる間、そう思っていた。

それから十五分程、列に並んで焼香を終えると、焼香する前にいた場所へと戻ってきた五人。

「焼香が終わったので自分は署に戻りますが、警視達はどうされますか?」

先に口を開いたのは三沢警部だ。

「今日は非番だからな。この三人を連れて帰らないと・・・」

聖一はため息混じりで答える。

そんな会話を聞きつつ、圭太はふと生花に目をやった。

(生花にヒマワリ・・・? なんで・・・?)

圭太は生花の中に一輪だけ交じっていたヒマワリに疑問を感じた。

そして、受付にいる女性に近付いた。

「あの、すいません。ヒマワリって葬儀に似合うんですか?」

「え・・・?」

突然の圭太の質問に首を傾げる女性。

「ほら、あの生花の中に一輪だけヒマワリが交じってるんですけど・・・」

圭太は生花の中あるヒマワリに目をやって言った。

「あら? 本当だわ。入れた覚えはないのに・・・」

女性は不思議そうに生花に駆けよる。

「本当ですか?」

圭太も女性の後を追いかけるようにヒマワリに駆けよった。

「えぇ・・・。葬儀が始まるまではヒマワリなんて入ってなかったんです」

女性ははっきりと答えた。

「・・・なら妙だな。葬儀が始まってから誰かが入れたのか?」

圭太は独り言のように呟いた。

「ヒマワリの花言葉ってわかりますか?」

圭太は思いついたように聞いた。

「わかりますよ。ただ、私が高校生の時に調べたものでうろ覚えですけどいいですか?」

「構いませんよ」

圭太はそれでもいいと頷く。

「確か、大きなヒマワリは傲慢や私の目はあなただけを見つめるという意味で、小さなヒマワリは崇敬や憧憬という意味だったと思うんですが・・・」

女性は少し自信なさげに答えてくれた。

「このヒマワリは大きいほうだから、傲慢や私の目はあなただけを見つめるって意味になるんですね?」

圭太は確認するように聞いた。

「そういうことになりますね。あの・・・私、まだ受付の仕事がありますので・・・」

「あ、すいません。ありがとうございます」

圭太は礼を言うと、女性は軽く会釈をして受付へと戻っていく。

「圭太っ!」

圭太の行動を見ていた聖一達が近付いてくる。

「どうしたの?」

水花が圭太の服の袖を引っ張る。

「あの生花見ろよ。ヒマワリがあるだろ?」

「あぁ・・・」

「おかしいと思わねーか? 葬儀にヒマワリなんて・・・」

「言われてみれば・・・。でも、鈴木さんが好きな花がヒマワリって事もあるぜ?」

達也の言葉に、聖一が続けて、

「いや、鈴木はヒマワリが好きではないよ。チューリップが好きだと前に言ってたよ。チューリップは春が来たっていう感じがすると言ってな」

「そういうことは誰かが故意にヒマワリを入れたということですか?」

三沢警部はヒマワリを見て聞く。

「恐らくな。でも、なんでなんだろうな・・・?」

腕組みをして答える圭太。

「そのことは終わりにして帰ろうぜ」

達也は面倒臭そうに言う。

「そうだな。ここで考えていても仕方ない」

聖一も達也の意見に賛成のようだ。

「それでは、自分はここで・・・」

「わかった。また署でな」

聖一は三沢警部の肩を叩いて言った。

そして、圭太達も葬儀場を後にしたが、圭太だけはヒマワリの事に納得していなかった。

前に同じ小説を掲載していましたが、書き直して掲載しています。

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