身体と心を守れ!?
勘違いでカルヴァンの胸の苦しみを恋心と気づいたアランはまともに顔をみることができなかった。そんな調子でメチカルの街にたどり着く二人。そこで二人はドーヴォンという人の家を探すこととなるが、ここでまたカルヴァン節が始まる。
カルヴァンの恋心を知ってしまったアランはまともに顔を見ることができなかった。不審に思ったカルヴァンはアランは声をかけるが、「大丈夫」という言葉が返ってくるだけだった。そんな調子の中、遂に目的のメチカルに到着する。
ミジバルクよりも活気のある人たちを見て、カルヴァンは大はしゃぎする。
「うわ〜ミジバルク以外の街でこんなに人がいるの初めてだ」
「どうカルヴァン?」
「すごい。みんなに聞いて回っても?」
「まだだめよ。やることやってからにしましょ」
「わかった!」
アランの指示のもとカルヴァンは返事をして、ドーヴォンという人について聞いて回る。
「そこの君!? ドーヴォンという人の家を知らぬか?」
「あ?」
「カルヴァン! すいません、私達ドーヴォンという人の家を探してるのですがご存知ありませんか?」
「いや、知らないな」
「そうですか…ありがとうございます」
道行く一人の男に聞き込みをするアランはカルヴァンを注意する。
「カルヴァン、今のあなたは一般市民と変わらない立場なの。あんな尋ね方されたら相手は不快にさせちゃうわ」
「聞かなきゃわからないじゃない? どう言えばいいの?」
「はぁ…。今度は私達よりも身分が高い人と思いながら聞いてみて」
「わかった」
アランの指摘を受け、次は同じくらいの年頃の女性に尋ねる。
「お嬢様。少しお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「え!?」
「メチカルって街にドーヴォンというお方がいらっしゃると思いますがお心当たりはございませんでしょうか?」
「えっと…」
「ご、ごめんね。ドーヴォンって人を探してるのだけど知らない?」
「ごめんなさい、わかりません」
「そう、ありがとう」
またもアランが代わりに尋ねる形になる。そしてまたカルヴァンはアランに指摘される。
「カルヴァン…一旦王族って身分を捨てて考えて」
「今のもだめ?」
「明らかに困ってたでしょ!」
「相手のほうが身分が高いと思って尋ねたのにどこがだめですか?」
「いきなり女性に『お嬢様』なんて言われたらどう反応すればいいか困っちゃうでしょ? あれじゃナンパしてる感じじゃない!」
「そんなこと言うなら手本見せてよ、アラン」
「手本って言われても…。男性と女性じゃ尋ね方も違うからなぁ。あんまり手本にならないわよ?」
「それでもいいから見せて!」
「手のかかる護衛だな」
アランは辺りを見て、知っていそうな人を探す。そしてある一人の中年の男性に尋ねる。
「すみません、少しお尋したいことがありますけどいいですか?」
「はい、なんですか?」
「この街にドーヴォンって人がいると思うのですが知りませんか?」
「ドーヴォンドーヴォン…」
「その人のお父さんが病で伏せってるって話しですが」
「あ〜ガッタさんですか。あの人なら―――」
尋ね人の家を聞いてる間、カルヴァンは周りにあるお店を覗いていた。
「―――わかりました、ありがとうございます」
アランと中年男性の話しが終わってカルヴァンに話しをしようと振り返ると、お店に吸い込まれるようにアランから離れていく。
「カルヴァン!」
「はい!」
声を荒らげて止めるアランは少し怒りながら話す。
「今の聞いてた?」
「き、聞いてたよ!?」
「ふ〜ん。何かわかった?」
「え!? えっと…」
「カルヴァン!」
「ごめんなさい!」
「見知らぬ街だから興味惹かれるのはわかるけど、やることやってから街を歩くって約束したでしょ?」
「はい…」
「まったく…はぐれないように手繋ぐよ」
「はい!」
―…あれ? なんで私手繋ぐことになってるの?
アランにとっては手のかかる護衛と思ってるはずなのに、どうしてこうなったのかわからない様子だった。
「やっと僕のことを見てくれましたね」
「え!? 何言ってるのよ。さっきからずっと見てるでしょ?」
「メチカルに着くまで、どこかぼーっとしてた感じだったからさ。ちょっと心配しちゃった」
カルヴァンは笑顔を見せながらアランと話す。
―何!? この笑顔。
無邪気な子供みたいな笑顔を見せられ、アランは顔を赤くして逸らす。
「あの時はちょっと考え事してたのよ!」
「そうだったんですか。よかった、いつものアランに戻って」
「いつもの私って何よ?」
「えっと…口うるさくて、面倒見がよくて―――」
「ちょっと待て! 口うるさいって何よ!?」
「え、ほ…褒めてるんですよ」
「それは褒めてるんじゃなくて貶してるの!」
「いろいろ教えてくれるからさ。博識って言いたかったんですよ」
「あっそう」
「怒らないでよアラン〜」
しどろもどろになったカルヴァンに呆れたアランは手をつないだままスタスタと歩く。その早さに少し小走りになりながら一生懸命ついていくカルヴァン。
「ちょっとまって。は、はやいってアラン」
「さっさと済まして街案内するわよ」
―また言っちゃった? どうしてあんなことばっかり…。
自分のことなのに理解に苦しむアランをよそにカルヴァンはまた笑顔になる。
案内を聞いてドーヴォンの家についたアランとカルヴァンはここで手を離して扉をノックする。
ドンドン。
「こんにちは、ドーヴォンさんいらっしゃいませんか?」
しばらくすると扉の向こうから小さな女の子の声がしました。
「どちら様ですか?」
「私はアランといいます。手紙を読んで来ました」
アランの言葉を聞いて扉が開くと、そこにはやつれ顔した女の子が姿を現す。
―こんな小さな女の子がこんなにやつれて、一体何が!?
カルヴァンは女の子を見て驚きを隠せれなかった。その様子を女の子が見て扉に隠れながら話す。
「その人、誰?」
「この人はカルヴァン。ここまで私を護衛してくれた人だよ」
アランはカルヴァンを紹介すると、小声でカルヴァンに話す。
「ほらっ自己紹介」
「あ! カルヴァンと申します、よろしくね…えっと」
「あ、ごめんなさい。ドーヴォンっていいます」
「え!?」
二人は名前を聞いて驚く。
「ドーヴォンさんって君なの?」
「私てっきり男の人だと…」
「ごめんね、産まれた私を男だと思ってこんな名前つけちゃって。紛らわしいよね?」
「そんなことないよドーヴォンちゃん。いい名前だと―――」
「紛らわしいね」
「カルヴァン!」
ドスッ!
失礼な態度にアランはカルヴァンに肘鉄を食らわす。
「痛てぇ!」
「ドーヴォンちゃんに失礼でしょ!」
「だって―――」
ドスッ!
「もう一発食らいたい?」
「やってから言うなよ」
腹部を押さえながらカルヴァンは喋る。
「仲いいんだね」
「どこが!」
ドーヴォンの言葉に二人は口を揃えて言う。
「やっぱり。 ふふ」
「そんなことより、お父さん病気って書いてあったけど…」
本題に入ろうとアランはお父さんのことを尋ねると笑ってたドーヴォンは急に暗くなる。
「うん、医者に診せてもらったんだけど原因がわからないって」
「お父さんを診てもいいかな? ドーヴォンちゃん」
「うん、いいよ。入って入って」
ドーヴォンに言われて家に入る二人。
アランはドーヴォンのやつれた理由に気づく。だがカルヴァンはお構いなしにしゃべりだす。
「汚い部屋だね〜」
「カルヴァン!」
「いいの、本当のことだもん」
「掃除する人は?」
「そこまでまわらなくて…」
ズカズカと尋ねるカルヴァンにアランは怒りだす。
「カルヴァン! 私がしゃべってもいいって言うまで黙ってて」
「どうしたのアラン?」
「カルヴァン!」
「はい…」
「ごめんねドーヴォンちゃん。悪気はないから…」
「いいんですよ」
ドーヴォンは部屋の奥に案内すると、ドーヴォン以上にやつれてる男の人がベッドで寝ていた。
「これはひどい。食事はちゃんと摂ってるよね?」
「はい、毎日三食普通に食べてるのにだんだんやつれていって、そしたら急にベッドから起き上がれなくなっちゃって…」
「ドーヴォンちゃんも食べてるよね?」
「私も食べてますよ」
アランはお父さんの目や口、脈拍を計る。するとアランは険しい顔をして尋ねる。
「最近変わったもの食べなかった?」
「変わったもの?」
「例えば魚とか」
「魚、魚…。もしかしてユッチかな?」
「ゆっち?」
カルヴァンは思わず口を開く。
「ユッチを食べたのか!?」
「ゆっちってなに? アラン」
「ユッチっていうのは西大陸付近に生息する魚で美味しい魚で、調理方法を知ってるなら問題ない魚だけど、誤った調理で食べると内蔵を食いちぎる寄生虫まで食べてしまうことになるの」
「内蔵を食いちぎる!」
恐ろしい話しを聞いたカルヴァンは驚き、ドーヴォンは必死になって訴え始める。
「助かりますよね、アランさん?」
「死滅させれば大丈夫だけど…今からだと間に合わない」
「どうして!?」
「死滅させるための材料が西大陸にある『フクジソウ』の根が必要だけど、そこまで取りに行く間にお父さんと…」
「お父さん『と』ってもしかして…」
「ドーヴォンちゃんもユッチの寄生虫が体内にいるわ」
「どうしてそんなことが―――」
「最初ドーヴォンちゃんに会った時、食べるお金がないとばかり思ってた。でもお父さんの容態を見て確信したの。ユッチの寄生虫が体内にいる時の症状は一日に二日分の水分を摂っても間に合わないほどの吸水力で体内の水分を枯らす。水分がなくなって干からびてから内蔵を食い漁る。食べる内蔵がなくなると―――」
「いやーーー!」
あまりにも残酷な現実にドーヴォンは叫びだす。カルヴァンもアランの説明をただ黙って聞くことしかできなかった。
「私達、死んじゃうのね」
ドーヴォンはしゃがみ込みポロポロと泣き出す。
「私、諦めないわ!」
「アラン?」
「この街に『フクジソウ』があれば、すぐに調合して薬を作れる。だから―――」
「もういいよアランさん。気休めの希望を持っても辛いだけです、いっその事このままお父さんと一緒に…」
「諦めないでドーヴォンちゃん。諦めない限り人はなんだってできるんだから」
「でも…」
「私は諦めないわ。今から街に行って『フクジソウ』が売ってないか探してくる!」
アランは家を飛び出して街へと向かう。カルヴァンもアランのあとを追おうとするが、ドーヴォンとそのお父さんの顔を見る。表情さえ変えれないほど弱ったお父さん。絶望に打ちひしがれるドーヴォン。
―お父さんに頼めばなんとかなるけど、でもこれは僕とアランの問題。
―国をあげることじゃない、…けどこの親子を助けたい。
―どうすれば…。
自分の身分と親子を助けたいという気持ちがぶつかるカルヴァンは苦悩する。アランが飛び出して行ってもまだ残ってるカルヴァンをみてドーヴォンは声をかける。
「カルヴァンさんはいかないんですか?」
「行くってどこに?」
「アランさんの元に」
「僕は、アランの護衛。だけど―――」
「護衛だったら傍にいてあげて」
「ドーヴォン…」
「そこにおられると邪魔なの。出て行って!」
力のない声をだしてカルヴァンを追い出そうとするドーヴォンをみて仕方なく家をでる。
「アランの傍にか…」
ドーヴォンの最後の優しい声で言った言葉を胸にアランの元へ向かっていった。
商店街に入ったアランは一軒一軒薬がないか訪ねまわる。
「すいません! フクジソウ売ってないですか?」
「フクジソウ? いや、ないな」
「そう、ありがとう。―すいません! フクジソウありませんか?」
「そんな高価なもの売ってないよ」
「そうですか」
必死になるアランは人とぶつかっても形振り構わずお店を駆けずり回る。
「すいません! フクジソウ―――」
「痛てぇな〜、謝れよそこの女!」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいで済むか!」
「こっちは急いでるのよ! 邪魔しないで!」
謝ってこの場を収めたかったアランはぶつかった男の態度をみて起こり始める。
「逆ギレか! いい度胸だな」
「たかがぶつかっただけでうるさいわね、こっちは命がかかってるのよ! 邪魔しないで」
「知るかそんなもん! こっちに来い!」
「離して! 早く助けないといけないんだから」
男はアランの腕を掴んで強引に引っ張っていく。
―こんな時カルヴァンがいてくれたら…。
身の危険を感じたアランはカルヴァンを思い出す。
すると男の前にカルヴァンが立ちはだかる。
「おい、なんだおめぇは?」
「俺の女に手出すなよ」
―カルヴァン!?
「お前の女? お前の彼女か、そいつは聞けねぇな。こいつは俺にぶつかって謝りもしなかったんだ。それを注意したら逆ギレしてくるから少しルールを教えてやろうと―――」
カルヴァンは男に近づくと、
ドン!
男を殴り飛ばす。
「痛てぇ…、なにしや―――」
男は体勢を立て直しながらカルヴァンに殴りかかろうとするが、カルヴァンは男に剣を向けていた。
「もう一度言う。俺の女に手を出すな」
今までにない威圧感を放つカルヴァンに男はたじろぐ。
「ちっ、覚えてろ!」
男は捨て台詞を残して立ち去っていった。
―カルヴァンすごい。
感心するアランにカルヴァンは手を差し伸べる。
「勝手に出てかれたら、護衛できないでしょ?」
「そ、そんなの私の勝手でしょ!? 私の傍にいなかったカルヴァンが悪いのよ!」
「僕!?」
「そうよ。…あ! こんなことしてる場合じゃない。早くフクジソウを探さないと」
商店街に戻ろうとするアランの腕を掴むカルヴァン。
「離してよカルヴァン!」
「落ち着いてアラン。焦ると冷静な判断できないでしょ?」
「でも一刻を争うのよ! 早く見つけないと…」
「その事なんだけど…」
カルヴァンはこの場にいてまだ迷っていた。カルヴァンが話そうとする内容は護衛として一線を越えるのかと思っていたからだった。そんな事情を知らないアランは問い詰める。
「はっきり言ってよ! その事で何があるの?」
「…王様に頼んでみないか?」
「王様に?」
「でも頼んだら、護衛としてやっちゃいけないような気がして…」
「そんなことはどうでもいいわ! 助けられるなら王様に頼んで!」
「だけどこれは護衛としての仕事じゃない! 護衛の仕事は主人を守ることで―――」
「そうよ! 主人である私を守るのが護衛の仕事よ。私を守ると思って王様に頼んで!」
「王様に頼むことがなぜ守ることになるんですか? 教えてくださいアラン!」
「主人を守ることは傷一つつけることなく守ることよ。それが身体であっても心であっても」
「心…」
「今私はあの親子を助けたいって心が訴えてるの。それを無視して見殺しにされたら私の心が傷つくわ。だからお願い! 王様に頼んでフクジソウを工面して欲しいの」
「身体も心も守るのが護衛…」
アランに護衛としてまた一つ教わったカルヴァンは気を取り直す。
するとカルヴァンは掴んだ手を離して、アランの手を掴む。
「え?」
「わかった。王様に手紙を書くよ」
「それじゃあ…」
「紙とペン貸して。あと郵便屋ってどこにある?」
「紙とペンって…持ってないの?」
「僕が持ってるのはこの剣とアランを守る気持ちだけです」
「なに気取ってるのよ。もういいから郵便屋までいくわよ」
「はい!」
二人は郵便屋まで一緒に走っていった。周りの人間の状況を見ずに…。




