勘違いからの発展?
一夜を過ごしたアランは朝食の準備をしながら夕べのやりとりを思い出す。
昨晩のできごと、それは見張りをするところからはじまった。
アランとカルヴァンは一夜を過ごし、清々しい朝をアランは堪能する。
「う〜ん、気持ちいい〜」
朝日を浴びながら伸びをし、近くの川で顔を洗う。
「冷たくて気持ちいい!」
一方カルヴァンはまだ寝ていた。アランは寝顔を見ながら夕べのことを思い出す。
「男の子の寝顔って可愛いわね。ふふっ」
夕べ消した焚き火をまたつけて朝ご飯を作り出す。
夕べはというと、アランとカルヴァンは晩ご飯を食べ終わったあと見張りのことについて話し合う。
「ご飯美味しかったよアラン」
「有り合わせでつくったものだけど口にあった?」
「うん! 美味しかった」
「ありがとう。それでこのあとなんだけど、どっちが先に見張る?」
「見張る?」
「そう、私とカルヴァン交代しながら夜を過ごすの。二時間おきの交代って考えてるけど、それでいい?」
「見張るんだったら夜のうちに動いたほうがいいじゃない?」
「甘いよカルヴァン! 夜に動くほうが一番危ないのよ」
「どうして? 暗いうちに動いたほうが魔物も襲ってこないでしょ?」
「夜に活発になる魔物だっているのよ。それに夜の魔物は凶暴なの」
「だったらここでじっとする方がよっぽど危険じゃ…」
「じっとするほうが安全なの。夜の魔物は目よりも音や匂いで獲物を探すの」
「もし見張ってる途中で魔物がきたら?」
「そのときは起こしてすぐに逃げるのよ。二人でかかっても勝ち目はないわ。わかった?」
「うん」
「それじゃ誰が先に見張り役する?」
「う〜ん」
「そこは『やります』って言いなさいよ、護衛なんだから」
「え!? じゃあ―――」
「もう遅いわ。それじゃあじゃんけんで決めよ」
「いいよ」
「負けたら先に見張り役ね! じゃんけん…ぽん」
「ぽん…え!」
「私の勝ちー。それじゃ私先に寝るね」
「え!? 今からですか? さっき食べたばっかでしょ!」
「休めるときは休む。そうしないとこの先身体がもたないよ。それじゃっおやすみなさい」
「おやすみアラン」
焚き火を消してテントに入って眠りにつくアランと、暗い中一人で見張りをするカルヴァン。
―大丈夫…今度はアランがいるじゃないか!
―恐れることはない、それにこれも護衛の仕事の一つだ。
何も見えない暗い世界を怖がりながらカルヴァンはひたすら見張りを続ける。だが、
ガサガサ!
「魔物か!?」
音のする方に身構えるカルヴァンだったが、そこから現れたのは狸だった。
「た、狸か」
ガサガサ!
「またか!?」
別の方から音が聞こえそちらに身構えるが、でてきたのは蛇だった。
「蛇か…」
草むらが揺れる音がする度カルヴァンは身構える。だが出てくるのは小動物ばかりだった。
そんな調子で二時間が過ぎ交代の時間になる。
「そろそろ交代の時間だな」
擦り切れる思いしながらテントの中にいるアランを起こそうとする。
「アラン、交代のじか―――」
アランの寝顔を見てカルヴァンは起こすの躊躇った。
―アランの寝顔って可愛いんだな、それに…。
「すぅ…すぅ…」
カルヴァンの視線はアランの寝顔から口元に向けていく。潤んだ唇に吸い込まれるようにカルヴァンは顔を近づけていく。すると、
「うぅん…」
寝返りするアランにカルヴァンは我にかえる。
―僕は一体何を!?
邪心を振り払うように首を振っていると、アランがゆっくり起き出す。
「うぅ…カルヴァン? もう時間なの?」
「え!? そ、そう時間になって」
「もう二時間かぁ、意外と早いのね。それじゃカルヴァン、あなたはゆっくり休んでて」
慌てふためくカルヴァンをよそに厚いマントを羽織ったアランはテントからでて見張りをする。ドキマギしながらカルヴァンは横になる。
―僕は何をしようと?
―それに胸がドキドキする…これは一体なんだ?
謎の鼓動を不審に思いながらカルヴァンは眠りにつく。
「…」
目を瞑っていても眠りにつけずにいた。
「寝れない…」
眠れないカルヴァンはテントからでてアランに声をかける。
「アラン、いいかな?」
「どうしたのカルヴァン?」
「眠れなくて…少し傍にいていいかな?」
「いいわよ」
横に座るカルヴァンにアランは声をかける。
「喉渇いたでしょカルヴァン?」
「う、うん」
「じゃあ温まるスープを作るね」
「火、点けるね」
適当な枝を集めて、先程焚き火したところに火を点ける。
「ありがとうカルヴァン」
アランはお礼を言ってスープの入った鍋を暖める。暖まったスープをコップに注いでカルヴァンに手渡す。
「はい、簡単なスープで味はそんなにしないけど、温まるわよ」
「ありがとうアラン…」
アランも自分の分のスープをコップに注いでゆっくりと飲む。
「…はぁ、温まる〜。でも味薄いわね」
「そんなことは!」
「いいのよ、本当のこと言って」
「温まるけど、美味しい」
「美味しくないって」
「ううん美味しいよ。アランの想いが詰まったスープだもん、美味しいよ」
「カルヴァンのくせになに気取ってるのよ」
アランはカルヴァンを茶化しながらスープを啜る。
「見てカルヴァン。綺麗な空だね」
アランは夜空を見上げながらカルヴァンに話す。
「綺麗な星だね」
「カルヴァン。どうして星は光るかわかる?」
「ううん、わからない」
「星が光るのはね、『私達はここにいるよ』って言いながら光ってるの」
「ここに? 私達ってだれのこと?」
「私にもわからないわ。昔の人は死んだ人間は星になって見守ってるって聞いたけど、私は違うって思ってるの」
「アランは誰だとおもうの?」
「わからない。誰って言われるとわからないけど、気持ちならわかるわ」
「気持ち? どんな?」
「『君は一人じゃないよ』って囁いてる感じがするの。寂しい気持ちを朗らかしてるような」
「朗らかしてる…」
「うん、お母さんやお父さん。私を想う誰かが星が代弁してる感じでさ。カルヴァンはどう思う?」
アランは話しかけるがカルヴァンからの返事がなかった。
「カルヴァン?」
気になってカルヴァンを見ると、座りながら眠りにつく姿があった。
「すぅ…くぅ…」
「まったく…でもずっと見張りしてたからしょうがないわよね」
アランはカルヴァンにくっついてカルヴァンと一緒にマントを羽織る。
「体調管理も護衛の勤めなんだよ、カルヴァン。風邪なんかひいたら誰が私を護衛するのよ」
アランは夜空を見ながら思いふける。
―手のかかる護衛を雇おうなんて誰も思わないわよ、私以外。
澄み切った夜空に浮かぶ星たちは二人を見守るように瞬いていた。その二時間後、いつまでも眠ってるカルヴァンを起こして見張りの交代をする。当然カルヴァンは呂律がまわらないほど慌てふためきながら起きだす。
朝ご飯を作り終えたアランはカルヴァンを起こしにテントに入る。
「起きてカルヴァン。ご飯できたよ」
「もう少し寝てたい・・・」
「眠たいのはわかるけど、いつ魔物が襲って来るかわからない場所よ。起きてカルヴァン!」
アランは無理やり起こすとぼーっとしながら起きだすカルヴァン。覗き込むようにするアランを見てカルヴァンは慌てて覚醒する。
「お! おはようございますアラン!」
「おはようカルヴァン。近くの川で顔洗ってご飯にしましょ」
テントをでながらアランはカルヴァンに話す。
―途中で寝ちゃったことを怒ってないかな?
アランの話しを途中で寝たことに不安になる。言われるままカルヴァンは顔を洗って戻りご飯を食べる。
「いただきます」
二人はしばし無言のまま食事をする。するとカルヴァンは唐突に謝り出す。
「夕べはごめんアラン」
「ん? どうしたの?」
「話しの途中で寝ちゃって…」
「あぁあれ。仕方ないわよ、交代の時間なのに起きてたんだから」
「本当にごめん!」
「いいのよカルヴァン。今やることはご飯を食べて、メチカルに向かうこと。ミジバルクに帰るまで私を護衛するのがカルヴァンの役目なのよ。初めての野宿だから眠れなかったのもあると思うけど、それに慣れることも大事だよ」
「本当に怒ってないの?」
「あんなことで怒らないわよ。さっ、早く食べて行こう!」
何もなかったような感じで速やかに食事を済ませようと促すアランを見て、カルヴァンはいつもの調子を取り戻す。
街道に戻って再びメチカルに向かう二人。だけど二人の距離感に不審に思ったアランはカルヴァンに尋ねる。
「そんなに離れてたら護衛できないでしょ?」
「え!? あぁ…そうだよな」
アランから離れていたカルヴァンは近づこうとしなかった。
―護衛として傍にいたいけど、アランの傍にいると胸が苦しくなるし…、でも傍にいなきゃいけないし、どうすれば…。
謎の鼓動に困惑するカルヴァンに業を煮やすアランは命令口調で言い放つ。
「カルヴァン! 私の傍にいなさい!」
「はい!」
急ぎ足でアランの傍にいくカルヴァン。だがアランの傍にいると、カルヴァンの鼓動は激しくなった。
―すごい胸がドキドキする!?
―護衛として、護衛として、護衛として…。
額に汗を浮かばせたカルヴァンを見てアランは心配になって声をかける。
「大丈夫カルヴァン?」
「いっ!? だ、大丈夫」
「でもすごい汗だよ。熱でもあるんじゃない?」
アランはカルヴァンの汗を拭きながら首元に手を当てて体温を計る。
―ち…近いよアラン!?
「すごく熱いよカルヴァン!? そこで休もう」
―違う!? 風邪なんてひいてないんだアラン。
風邪と勘違いするアランは木陰で休ませようとする。
「ここで待ってて! タオル冷やして戻ってくるから!」
アランはカルヴァンを置いてどこかへ消えていった。
―…ふぅ、胸の苦しみと鼓動が収まった。
アランが離れたことによってカルヴァンを襲った苦しみが収まる。
「しかし一体なんだったんだろう? 僕の身体おかしくなったのかな?」
アランに触られた首元を摩りながら考える。
「アランが傍にいるだけでこんな調子じゃ護衛なんてできないよな。どうしよう」
考え込んでいると、アランが走って駆け寄って戻る。
「大丈夫カルヴァン?」
突然アランが帰ってきたと思い驚くカルヴァン。
「アラン!? いつから?」
「今帰ってきたばっかよ。それより横になって」
心配するアランを見てカルヴァンは言われるまま横になる。
「身体は大丈夫? やっぱり夕べ外で寝てたから…」
必死に看病する姿をみてカルヴァンは気丈に振舞おうとする。
「僕はもう大丈夫だから、それよりもメチカルに行ってドーヴォンさんのお父さんを治してあげないと―――」
「こんな調子でメチカルなんて行けないわ。病人がいるところに病人を連れていけないから。幸いひきはじめだからすぐ治るはずよ」
アランは鞄から水筒と薬を取り出して飲ませようとする。そんなアランをみてカルヴァンは身を委ねようと思った。
―風邪だと思い込んで治そうとするなんて…早く治ってくれよ、僕の胸。
少し後悔する気持ちになりながらアランの看病を受ける。
「今日は動けそうにないわね。ここでゆっくり休んで元気になってよカルヴァン」
「いや…僕はもう」
「『もう』なんて言わないで。誰が私の護衛をしてくれるのよ!?」
「え?」
「死んじゃったら王様になんていえばいいのよ? 死んじゃったら今度こそ処刑されちゃうんだから! 生きててカルヴァン」
「いや、あの、アラン? 僕は死なないから」
「…え?」
「いや、さっきから胸が苦しかっただけで…」
「風邪じゃないの?」
「風邪とは言ってないけど」
「…」
アランはさっきまで言ったことを思い出しながら怒りだす。
「胸の苦しみくらいで、なんで熱や汗がでるのよ!」
「仕方ないだろ。アランの傍にいると苦しくなるんだから」
「私のせいなの!?」
「アランのせいとは言ってないだろ!」
「なんで私の傍にいるだけで…」
口論するアランの口調がだんだんおさまる。
―私の傍にいるだけで苦しくなる…私の傍に…。
カルヴァンの症状を推測したアランは確信する。
―もしかして、私のこと好きなの!?
アランは顔を赤くして立ち尽くす。それをみたカルヴァンは先程アランが持ってきたタオルを掴んで話す。
「アラン? 顔が赤いよ? もしかして風邪でもひいたの?」
今度はカルヴァンがアランの心配をする。
「え!? そんなことは…」
カルヴァンはアランに近づき首元に手を当てて体温を計る。
「ちょっとなにするの―――」
「熱いよアラン! 横になって」
「私はなんとも…」
「いいから横になって。アランが持ってきた薬を飲んで休もう」
必死な目をしたカルヴァンにうたれたアランは弁解する言葉を失くす。
「私の護衛なんだから、その…風邪、治してよね」
「護衛ってこんなこともするの?」
「当たり前よ! どんなことでも主人を守るのが護衛の役目なんだから、私に風邪をこじらせたんだから治すのは当然のことよ」
「護衛って大変なんだなぁ」
「そうよ、大変よ。私に申請書を書いて渡したんだから…あなたはずっと私を守らなければならないのよ」
―え? ずっと?
口走った言葉を思い出す。
「ずっとですか…アランならずっと護衛してもいいですよ」
「!?」
―アランならずっと護衛してもいいですよ。
カルヴァンの言葉を聞いたアランは慌てて薬を口にいれ水筒に入ってる水を飲むとまた横になる。
「アラン?」
「薬には副作用があってね、眠たくなるの。だから私が寝てる間は…ちゃんと私を守ってよね」
強引に逸らそうとするアランにカルヴァンは勇ましく言う。
「任せてください。僕はアランの護衛ですから」
「あと、寝てる間に…変なことしないでよね」
「変なこと?」
「もういい! 忘れて!」
「うん?」
何を言ってるのかわからない感じでアランの背中をみる。
―私…とんでもないこと言っちゃったよね!?
―変なことってなんだろう? それに胸の苦しみもなくなったみたい。
お互い意識したりされたりで翻弄されつつあった。




